現物世界へ回帰するグローバル市場、日本の「モノ作り」に宿るHALO

2026年05月29日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦

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最近、特に欧米メディアの記事で「HALO(ヘイロー)」という言葉を頻繁に目にするようになりました。初めて見た時は、心理学で有名な「ハロー効果」のことかと勘違いしたのですが、あるポッドキャスト番組で、「Heavy Asset, Low Obsolescence(重厚資産、低陳腐化)」の頭文字をとった投資テーマであると知りました。従来、市場では資本効率を下げる要因とみなされがちだった、重たい物理資産を持つ企業群が、一方で技術や製品の陳腐化が速くないと再評価されたことを指す新しい言葉でした。その後、カーライル・グループのジェフ・カリー氏が「Hard Assets, Local Operations(実物資産と現地オペレーション)」と呼ぶ方がより相応しいという再解釈も出しているのですが、確かに資産が重いということよりも、現物であることが本質なので、こちらの方が、納得感があります。

 

世界が「実物資産」と「現地オペレーション」に価値を見出している背景には、デジタルテクノロジーの極限までの進化と、地政学的リスクの顕在化の二つの大きなうねりがあります。一つはAIの爆発的な進化と普及がソフトウェアやデジタルプラットフォームの寿命を縮め、技術の「急速な陳腐化」を招いていること。その一方、AIを動かすためには膨大な電力や、サーバーを冷やす水、そしてインフラを構成する銅やリチウムなどの物理的な原材料が大量に必要になります。バーチャルな世界が拡大すればするほど、それを物理的に支える「実物資産」の代替不可能性、陳腐化のしにくさが際立っていきます。もう一つはグローバリゼーションの変容です。ホルムズ海峡などのシーレーンにおける地政学的な緊迫化や、ウクライナ情勢など、国際貿易ネットワークが内包する構造的な脆さが露わにされています。かつて理想とされた「世界中から一番安価な物資をジャストインタイムで調達する」シームレスなグローバル体制は通用しえなくなりました。日本を含め世界中の政府や企業が、重要品目の安定確保、備蓄に動いています。こうした物資不足の時代に価値を持つのは、「遠くにある安い資産」ではなく「今その地域(Local)で確実にコントロール、稼働できる物理的なインフラや供給網」にほかなりません。

 

この「実物と現場」への潮目の変化が、市場で「HALO銘柄」に資金が還流する流れにつながっている中、日本企業、とりわけ製造業が熱視線を浴びている様子が伺えます。バブル崩壊後の長い低迷期、日本の伝統的な製造業は、欧米流の資本効率のモノサシで「非効率」と評価されてきました。自社設備を持ち続け、多角的な事業を並行する姿勢は、「選択と集中」の名のもとでアウトソーシングが加速するグローバル企業のトレンドと逆行、あるいは延命とも表現されることもありました。しかし、その結果として産業界全体で「産業スキルセット」や独自のノウハウを国内に維持できることにつながってもいます。米欧の企業がこぞって製造現場を海外へアウトソースし、国内のサプライチェーンに致命的な空白を生み出してきた流れと極めて対照的です。

 

米国は再工業化を推進し、AIの巨大なエネルギー需要を支えようとしていますが、その中で日本の高度な産業機械やノウハウにも大きく依存しています。最先端のAIチップの製造プロセスにおいても、日本の特殊材料メーカーが供給する、他社には再現が難しい超高精度の製品が圧倒的な価格決定力を握り始めています。かつてニッチで小さな市場と見なされていた分野が、現在は世界経済のチョークポイントになり、莫大な価値を持つ市場へ変貌しつつあります。

 

現在も株式市場の成長をけん引役は、アセットライトの代表格であるマグニフィセント7などのAI、ITテックジャイアントや関連企業ですが、その舞台裏では着実に、現実世界、現物資産、卓越した技術、代替不可の製品などへの価値の再評価、すなわち実体経済への構造的な揺り戻しが起きていることにも気づかされます。長い間、非効率の誹りを受けた業界や企業にも、世界を支える後光(HALO)がさしているようにもみえます。

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