チェンナイ/インド ~インド人である前にタミル人~

アジア・オセアニア

2015年10月09日

インド住友商事会社 チェンナイ支店
橋本 勉

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"Global Investors Meet"会場に向かう道路 (まつられるジャヤラリータ州首相) (筆者撮影)
"Global Investors Meet"会場に向かう道路 (まつられるジャヤラリータ州首相) (筆者撮影)

 2015年9月9~10日、チェンナイ市内の風景が変わりました。タミルナドゥ州が企画する直接投資の誘致イベント "Global Investors Meet(GIM)" が開催されていたからです。市街には州首相のジャヤラリータ女史の写真が大量に飾られ、チェンナイ名物の路上のゴミと宣伝ポスターの数が減っていました。 GIMには340(内、日本企業・団体は31)の企業・団体が出展し、期間中に約5,000人(内、外国人は約1,000人)が訪れました。締結された MOU件数は98に上り、新たに2.4兆ルピー(約4.8兆円)の直接投資計画が決まりましたが、その内のいかほどが実行されるのかを疑問視する向きもあります。GIMは来春に州議会選挙を控えるジャヤラリータ州首相と彼女が率いるAIADMK政党(全インド・アンナー・ドラーヴィダ進歩党)の格好の宣伝ショーになりました。

 

 このイベントはタミルナドゥ州にとっては初めての試みでしたが、この1年間で同種のイベントがグジャラート州と西ベンガル州でも開催されています。外資などによる直接投資を経済成長のエンジンにしたい各州の間で投資誘致競争が激化しています。インドの州は開発の許認可や一部の徴税権などで大きな権限を持っていて、経済活動には州の関与が大きくなりますので、州間の違い、インドの多様性はわれわれのビジネスに直接影響を及ぼします。

 

チェンナイ市内の由緒あるカーパーレシュワラ寺院の塔門 (筆者撮影)
チェンナイ市内の由緒あるカーパーレシュワラ寺院の塔門 (筆者撮影)

 インドは多様性の国と言われます。言語、文化、宗教、道徳観、食生活の違いに根ざしたその多様性は、EU域内の多様性を超えるとも言われます。タミルナドゥ州は「タミル人の国」ですが、タミル人は人種的には古モンゴロイドに分類されるドラヴィダ人で、北インドに多く住むアーリア人とは人種が異なると言われます。タミル語は他の南インドの言語と同様にドラヴィダ語族に属し、サンスクリット語の影響を受けた北インドのヒンディー語とは文字も文法も異なります。カレーも南インドは水分が多くサラサラで、穀物も北の小麦に対して南は米です。北インドの古いヒンドゥー寺院はムガール帝国によるイスラム化の中で破壊されてしまいましたが、南インドの古い大型のヒンドゥー寺院は破壊を免れ、現役の宗教施設として活躍しています。インドではほとんどの地域の雨季(モンスーン)は6~9月ですが、タミルナドゥ州の雨季は10~12月です。

 

 このようにタミルナドゥ州は北インドと異なるところが多いためか、タミル人の視野に入っているのは北インドではなく、むしろ東南アジアなどの海外のように見受けられます。シンガポールやマレーシアに住んでいるインド人のほとんどがタミル人です。東京都江戸川区葛西にも多くのタミル人が住んでいるようです。チェンナイ市はベンガル湾に面したインド東南の玄関口として開かれ、これからもそうあり続けるはずです。伝統的な綿織物業は今も盛んで、マドラスチェック柄のシャツなどが欧米や日本に輸出されています。2000年代半ばからは日本や韓国などから同地への製造業の進出が相次ぎ、特に自動車産業の集積が進んでいて、自動車、二輪車、建設機械が欧州、アフリカ、中東に多く輸出されています。

 

 チェンナイ市に進出した日系企業数は現在約240社を数え、在留邦人数も900人を超えます。まだまだ貧しいインドですから生活に不自由はありますが、穏やかでまじめなタミル人の気質は日本人に近く、ホッとするという話をよく耳にします。あれは筆者の誕生日でのこと。それを内緒で現地従業員を驚かそうと筆者はケーキを買ってオフィスに行くと、ひそかに花束とサモサとジュースを用意していて、逆に驚かされたことがありました。こうしたタミル人の思いやり、そして笑顔も同地の魅力のひとつです。

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