CN(カーボンニュートラル)の行方
社長コラム
2024年04月26日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
転換点になると考えられている2024年。その一つは、昨年末の見通しにおいても触れたように、脱炭素をめぐる動きの変化です。2050年のカーボンニュートラル(CN)達成が共通的なゴールと意識され、IEAはバックキャストで必要となる方策を示し、世界各国や地域がそれぞれの目標・計画を立て、実践を開始しています。航空機燃料分野ではSAF(持続可能な航空機燃料)に関する数量目標が国際組織によって合意され、その供給量確保に向けた投資が着実に進みつつあるという成功例も出てきました。一方で、多くの分野では、グリーン製品の供給は現状ではコストがかかり過ぎることも実感され、現実論からの見直しや修正も出てきています。移行期のエネルギーとしての天然ガスへの注目も再び高まってきました。6月の欧州議会選挙、11月の米国大統領選挙の結果によっては、「揺り戻し」とも言えるような動きが起きる可能性もあります。経済産業省によれば、各国のCN目標に向けた足元の進捗状況は、日本だけが着実にCO2排出抑制を実現しているとのことです。であれば、不利な状況の米欧が方針を修正しても不思議ではないとも言えます。
そうした流れに勢いを得たからか、特にここ1か月程度の間に、気候変動に対する懐疑論を立て続けに聞きました。気象災害の激甚化は起きていないという日本の学者の主張、予測モデルが温暖化の現状を過大評価しているという米国の団体の議論などもあります。また、米国におけるグリーン投資を強烈に後押ししているIRA(インフレ抑制法)については、共和党優勢の州がそれで潤っているので、トランプ氏が大統領になっても廃止されることはないとの見方に対して、トランプ氏はこれを廃止する、大幅に変える、との見立てを行う人・組織も出てきました。さらに、IEAは少しやり過ぎとの批判もあり、トランプ政権になれば米国がIEAを脱退し、IEAが存続できなくなるのではないか、と懸念する人もいるほどです。
せっかくここまで地球温暖化を食い止めることに向け、意識改革、行動変容が始まってきただけに、「揺り戻し」という方向に世界が流れてしまうのは残念なことです。仮にCNに向けたスピードが足元で少し落ちたとしても、大きな流れは変わらない、との期待もあります。それでも、スピードが変化するだけでもグリーン関連ビジネスには影響が大きく、投資の規模もタイミングも慎重になり、結果的に対応が遅くなることになりかねません。一方で、CNの早期実現を標榜するNPOは、状況が悪くなれば主張を強めることは間違いなく、それもビジネス環境の一つになります。さまざまな変化を緻密に把握、分析して、今後を予想しながら、生態系の持続可能性の維持という大きなゴールに向けブレることなく、歩を進めていかなければならないと強く思います。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2024年10月5日(土)
共同通信の取材を受け、当社シニアアナリスト 足立 正彦のコメントが『中国新聞』に、掲載されました。 - 2024年10月3日(木)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2024年10月1日(火)
金融ファクシミリ新聞・GM版に、当社シニアエコノミスト 片白 恵理子が寄稿しました。 - 2024年10月1日(火)
『日本経済新聞(夕刊)』に、米州住友商事会社ワシントン事務所長 吉村 亮太が寄稿しました。 - 2024年10月1日(火)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。