プノンペン/カンボジア ~15年でこれほど変われるものなんだ!~

2016年02月15日

アジア大洋州住友商事会社 プノンペン事務所
川浦 秀之

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 北緯12度付近に位置する首都プノンペンでも冬至が近づくにつれ、日中の時間が短くなります。雨季も終わりに近づき、湿度はだいぶ下がってきましたが、まだ日中の日差しは刺すように熱く、最高気温は35℃を超え、明け方の最低気温は25℃を下回ることなく、改めて「ここは熱帯なんだ」と認識する日々を過ごしております。

 

世界遺産の「アンコール遺跡群(アンコール・ワット/アンコール・トム他)」(筆者撮影)
世界遺産の「アンコール遺跡群(アンコール・ワット/アンコール・トム他)」(筆者撮影)

 カンボジアといえば世界遺産の「アンコール遺跡群(アンコール・ワット/アンコール・トム他)」を思い浮かべる方が多いと思いますが、「ポル・ポト/クメール・ルージュ」「地雷」「内戦」など、ネガティブな印象をお持ちの方もまだまだ多いのではないでしょうか。

 

 かくいう筆者も2000年に同地を観光で訪れた時の印象を赴任時(2015年4月)まで引きずっており、今回の異動を命じられた際、率直に言って大変困惑しましたが、いざ着任してみると「国とはたった15年でこれほど変わることができるものなんだ」と大きな驚きと共に深い感銘を受けました。

 

 バンコクだけ見ればもはや先進国と遜色ないタイ、発展著しいベトナム、民主化の進展により経済成長がさらに加速すると期待されるミャンマーの陰に隠れがちではありますが、昨今チャイナプラス1、タイプラス1として目覚しく発展しつつあるカンボジアの今を御紹介します。

 

 

• カンボジアってどんな国

 国土面積は日本の半分弱の約18万平方キロメートル。タイとベトナムに挟まれた内陸国と思われている向きもありますが、タイ湾に面し400キロメートル超の海岸線を持つ沿岸国です(ASEAN 10か国で内陸国はラオスのみ)。プノンペンの南西230キロメートルに位置するシアヌークビル港とプノンペンは国道4号線で直結しており、またプノンペン市内にあるメコン川を利用した河川港「プノンペン港」とベトナムのホーチミン港との間にフィーダー船が就航しており、製造業の誘致に一役買っています。

 

プノンペンSpecial Economic Zoneの入口(プノンペンSEZ提供)
プノンペンSpecial Economic Zoneの入口(プノンペンSEZ提供)

 現在カンボジアでは8か所の経済特区(Special Economic Zone / SEZ)が稼動しており(認可ベースでは22か所)、後述する豊富な労働力を背景として金額ベースで同国の輸出の8割を占める繊維縫製業を中心に、タイプラス1・チャイナプラス1として外国企業の製造業への投資が積極的に行われています。当社はプノンペン空港から程近く、インフラが整備されたプノンペン経済特区の販売代理店業務を行っています。

 

 同国の全人口は日本の8分の1の約1,500万人(2014年)で、周辺国(タイ約6,900万人、ベトナム約9,100万人、ミャンマー約5,100万人)に比べると消費市場としての絶対的規模が見劣りすることは否めませんが、若年人口比率が高く(0~24歳の人口比率がカンボジアの54.3%に対し、タイ32.6%、ベトナム42.2%、ミャンマー44.7%、日本22.9%)、生産年齢人口(15~64歳)の伸びが全人口の伸びを上回る人口ボーナス期が2050年頃まで続くと言われており、2011年以降、安定的に7%前後の経済成長率を達成し、2014年の1人当たり名目GDPは1,080米国ドルです。2014年6月にはイオンがプノンペンにショッピングモールを開店(2018年には2号店開業を計画)、同市内ではオフィスビル、コンドミニアムなどの高層建設が急ピッチで進んでいます。

 

プノンペン市街(筆者撮影)
プノンペン市街(筆者撮影)

(※)ポル・ポト率いるクメール・ルージュによる大量虐殺(一説にはポル・ポト以前の推計人口約800~900万人のうち、多数の知識層を含む100~200万人が殺害、または飢餓・疫病などにより死亡)により1980年代中盤には700万人にまで減少した人口が、1992年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)派遣、1993年の国連監視下での初の民主選挙、1994年のASEAN加盟を経て1,000万人まで回復、その後の20年で1.5倍に増加している。

 

 

• 増加する日系企業の進出

 上記背景を受けて、日系企業の進出も順調に増加し、カンボジア日本商工会への加盟企業(正会員)は、2010年末の50社から2015年9月末現在には162社(プラス準会員・特別会員41社・6団体、計209法人)を数えるまでになり、商業省発表による統計データでは、日系企業(現地法人、支店、駐在員事務所、個人事業主の合計)の登録数は2014年末に1,000社を超えるに至っています。

 

 

コミュニケーションは問題ない?

クメール文字
クメール文字

 カンボジアの公用語はクメール語(カンボジア語)といい、表記に用いられるクメール文字は東南アジアの文字の中では最も歴史があるものとされています。
母音の数が多いのが日本人にとっては厳しいですが、タイ語・ベトナム語のような声調はなく、文法も単純なので、東南アジアの中では比較的取り組みやすい言葉です。プノンペン市内・アンコール遺跡群周辺の観光地では英語もかなり通用します。

 

 

• 当国の課題

 ご多分に漏れず新興国の慢性化する市内の交通渋滞、周辺国に比べて割高な電力コスト、急ピッチで上昇する最低賃金、2018年に総選挙を控えた政情不安など、克服すべき課題はまだまだ山積みしていますが、1953年の完全独立以来、40年にわたる混乱・停滞期、そこからさらに20年の準備期間を経てようやく離陸位置についた後発新興国のダイナミズムを体感しに、ぜひカンボジアにお越し下さい。

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