オークランド/ニュージーランド ~ニュージーランドとマオリの歴史・文化~

2017年08月08日

Summit Forests New Zealand Limited
小川 哲郎

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当社森林を上空から(写真提供:Summit Forests)
当社森林を上空から(写真提供:Summit Forests)

 ニュージーランドといって思い浮かぶものと言えば、ラグビー、羊、キウイ(フルーツと飛べない鳥の両方)、大自然、ワインといったところでしょうか?最近は世界一の星空と言われているテカポ湖(Tekapo)や、殺菌・抗菌力の高いマヌカハニーなども注目されていますが、今後のビジネスという観点で見ると、欠かせないのが先住民族・マオリ(Maori)の歴史と文化です。

 

 現在マオリの人口は約70万人、同国の約15%を占めています。9~10世紀頃にポリネシアの島々から移住して来たという起源をもつ民族で、人口が増えるとイウイという部族を作り、集落や身分によって入れ墨を施すなど独自の文化を持っています。特に有名なのはラグビーのオールブラックスが試合前に踊るハカですが、そもそもはマオリの戦士が戦いの前や歓迎の挨拶で踊ったものだと言われています。

 

 1769年の英国人ジェームス・クックによるニュージーランド発見後、西欧人との交流が始まりますが、土地をめぐっての武力衝突が絶えませんでした。1840年に北島北部のワイタンギにおいてマオリ族首長と英国王権との間で締結された条約はワイタンギ条約と呼ばれ、その主な内容は、1.ニュージーランドの主権は英国王にある、2.マオリの土地所有は引き続き認められるが、土地の売却は英政府へのみとする、3.マオリは英国民としての権利を認められる、というものでした。

 

当社森林内の野生の馬たち(写真提供:Summit Forests)
当社森林内の野生の馬たち(写真提供:Summit Forests)

 しかし、実際には翻訳による理解のずれが主因で、マオリが理解していたよりも広範囲にわたり権利が剥奪されてしまいました。また、部族間戦争用の銃を獲得するために土地取引に応じたため、条約締結前には既に国土の約3分の1を手放していました。条約締結後には西欧人による農牧業用の土地買い上げも進んだため、西欧への隷属化を危惧し始めた土地売却反対派と賛成派の間で、さらには英政府軍なども巻き込んだマオリ戦争へと発展します。1863年に制定された反乱鎮圧法・ニュージーランド入植地法により、戦争に関係したマオリの土地が没収されました。しかし1960年代になって、ワイタンギ条約の不当さと差別を是正しようという動きが始まり、1975年にはワイタンギ審判所を設置、1990年代から不当に没収された土地の返還と損害賠償請求が始まりました。

 

 現在もマオリへの土地返還は着実に進んでおり、数年後には同国で植林されている土地の50%超はマオリに返還あるいは所有されると言われています。従ってマオリのプレゼンスは拡大しつつあり、森林ビジネスを営む当社にとっても地主となるマオリとの付き合いは不可欠なものとなっています。元来、マオリは品格・人徳・名誉などを重んじ、信用・確実・透明性を重視する住友の精神と共通するところがたくさんあります。当社森林事業でもマオリ系の社員・作業員が多数活躍していることもあり、この変化を前向きに捉え、幾つかの部族とは徐々に信頼関係を築きつつあります。ビジネス面でマオリに不足している資金・人材などを当社グループが効果的にサポートすることで、Win-Winの関係に基づく長期的なパートナーシップの構築を目指しています。

 

マオリ同士のホンギ
マオリ同士のホンギ

 マオリとのビジネスの現場は若干変わっていて、欧米系のミーティングは大抵握手から始まりますが、マオリとのミーティングはホンギ(Hongi)に始まりホンギに終わります。ホンギとは、お互いの鼻と鼻を擦り合うことで自分と相手の空気や価値観を分かち合う、という意味を持った儀式です。これ以外にもいくつかの特徴を挙げると、

  • 正式なミーティングはマラエ(Marae)という集会所で行われる。
  • 部族によってはミーティング開始前に歌を歌う。
  • 参加者はまず自己紹介として各自の出自を言う習いになっている。
    (例えば、「自分は日本の東京生まれで、両親はそれぞれどこどこの出身で…」といった具合。)

 

マラエ(集会所)でのマオリとのミーティング風景。筆者は後列、右から2番目(写真提供:Awatere B Trust)
マラエ(集会所)でのマオリとのミーティング風景。筆者は後列、右から2番目(写真提供:Awatere B Trust)

 ミーティングが終わり食事になりますと、大抵の場合、ものすごい量の食べ物が準備されます。さすがポリネシア系!この食事も結構ユニークで、ある時はパンとスコーンとサンドイッチという粉モノ祭りであったり、当たりの時にはウニやアワビ、伊勢海老など、地元の海鮮祭りであったりもします。

 

 土地返還が進むにつれ、羊や牛を用いた酪農・畜産業、あるいはニュージーランドに自生するマヌカを利用した蜂蜜など、マオリとの間で森林ビジネス以外でもさまざまなチャンスが出てきています。今後ホンギの回数もさらに増えていくと予想されますので、鼻の頭の皮が擦り切れないかどうかが心配の種になりつつある今日この頃です。

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