アンタナナリボ/マダガスカル ~アフリカか、それともアジアか?~

2015年06月09日

住友商事株式会社 アンタナナリボ事務所
谷本 正文

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アンバトビープロジェクト・サイト(写真提供:アンバトビープロジェクト ウェブサイト)
アンバトビープロジェクト・サイト(写真提供:アンバトビープロジェクト ウェブサイト)

 大規模な鉱山プロジェクト、アンバトビープロジェクトを通じて当社にとって非常に重要な国となっているマダガスカルですが、多くの人々は映画『マダガスカル』を通じて動物天国だと思われているのではないでしょうか。事実、キツネザルやカメレオンの一種などマダガスカルにしか生存しない希少動物の宝庫ですが、ここはいったいアフリカなのか、それともアジアなのか、そうした疑問を掘り下げてみたいと思います。

 

 

 地質学上では、マダガスカル島は約6,500万年前にアフリカ大陸から分離発生したというのが通説のため、アフリカということになります。一方、言語学やDNAの研究によると、マダガスカルの最初の住人はインドネシアなどの東南アジアの島しょ部の人々が紀元1世記前後に渡ってきたといわれ、また同国を長く支配してきた中央高原部の人々は東南アジアから移ってきた民族といわれているため、アジアに近いといえます。その証しに、マダガスカルは米を主食としており、1人当たりの米の消費量は世界一です。またわれわれと同じ黄色人種特有の蒙古斑が子供のお尻に見られます。街では、肌の色や髪の毛の形など異なるさまざまな外見の人々が見られるマダガスカルですが、アフリカ大陸の黒人との違いは一目瞭然です。

 

 

人気パン屋にて (筆者撮影)
人気パン屋にて (筆者撮影)

 政治・経済的には、マダガスカルはAU(アフリカ連合)、SADC(南部アフリカ開発共同体)やCOMESA(東南部アフリカ市場共同体)といったアフリカ諸国との地域共同体のメンバーになっているためアフリカの一員といえますが、同時に同国の人々にIOC(インド洋委員会「Indian Ocean commission」)の中心国との認識が強いことがうかがえます。IOCは日本人には聞きなれない地域共同体ですが、マダガスカル、コモロ、モーリシャス、セイシェル、レユニオンの5か国から構成される組織です。同国の新聞報道などでは自らを「インド洋のビッグアイランド」と呼ぶことがあります。マダガスカルは自らをアフリカ諸やアジア諸国とは一線を画し、その間に位置する独自のアイデンティティーを持った島国であると自覚しているようです。こちらに赴任して約1年ですが、私自身の結論もマダガスカルはアフリカでもアジアでもなくマダガスカルだと思っています。

 

 

市内中心部を貫く独立大通り (筆者撮影)
市内中心部を貫く独立大通り (筆者撮影)

 そんなユニークな国ではありますが、残念ながら世界最貧国の一つであることは間違いなく、1960年の独立当時から現在まで1人当たりの国民所得はほとんど変わっていません。国民の約91%が1日平均2ドル以下の生活を送っています。フランスからの独立以来、潜在力があるといわれていますが、不安定な政治情勢が主な原因でなかなか成長の道筋が描けないマダガスカルです。目を背けたくなるような貧しい人々を日々目にして、同国最大の産業となったアンバトビープロジェクトの推進会社として、この国の発展に期待されている役割を身に染みて感じています。

 

 一日も早くマダガスカルが成長の軌道を描き、アフリカとアジアの間という特徴を十分に生かし、アジア経済のダイナミズムをアフリカ大陸につなげていく日が来ることを期待したいものです。

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