Road to Climate COP30 Brazil ~気候変動COP30の見通し
2025年09月03日
住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部 アナリスト 菊地 崇史
11月10日から21日にかけて、ブラジル北部ベレンにて開催される気候変動COP30まで、残り約2か月となりました。2025年は米国のパリ協定脱退等、気候変動対策の推進の観点で逆風となるイベントがありましたが、改めて気候変動COPとは何なのかを解説しつつ、ブラジルが議長国を務める今年のCOP30では、どのような議論が行われるかを紹介します。
COPとは、Conference of Parties、すなわち国連気候変動枠組条約に批准している締約国の会議を意味します。COPは、毎年1回開催される締約国間の最高意思決定機関で、会期中に条約及びパリ協定に基づく気候変動対策の国際ルールの策定・レビュー等に関する決定を行っています[1]。近年では、上記の国際ルールの決定に加えて、近年、気候変動対策におけるビジネスセクターを含む市民社会の取組が重要視され、COPでの関連イベントの規模が拡大しており、会議における取組の発信がホスト国等でのビジネスチャンスにつながる機会も増加しています。例えば、既に多くの日本企業が、日本政府主導のジャパンパビリオンでの発信やCOP議長国主催イベント等において、気候変動に係る取組の発信を行っている状況です[2]。
COP30では、パリ協定関連のルール交渉については、途上国向け支援である気候資金の新規目標(NCQG: New Collective Quantified Goal)に基づく取組の具体化や、気候変動適応策の目標設定・取組レビューを行う枠組みである適応に関する世界目標(GGA: Global Goal on Adaptation)の運用等について交渉が行われるほか、パリ協定加盟国の2035年の温室効果ガス削減目標(NDC: Nationally Determined Contribution)の内容等にも焦点が当たる見通しです。ルール交渉以外のCOP関連イベントについては、ブラジルが11月6日から7日かけて首脳級サミットの開催を予定しています[3]。また、近年、議長国がCOP開催に際して、自らの関心事項に基づく気候変動対策の推進に向けた有志国枠組み「議長国イニシアティブ」を立ち上げる傾向があり、熱帯雨林保護の機運上昇に関心が高いブラジルもCOP30での「レインフォレスト・フォーエバー基金(Rainforests Forever Fund)」の立上げを公表[4]しており、COP期間中に、多くの有志国や資金コミットメントを伴う複数のイニシアティブが立上げられる見込みです。このように、パリ協定交渉に加えて、議長国イニシアティブも昨今のCOPの要注目な重要成果となってきています。
冒頭にも触れたとおり、世界第2位の温室効果ガス排出国であり、かつ、気候資金の有力拠出国であった米国のパリ協定脱退は、COP30にも多かれ少なかれ影を落とすことは避けられず、また、8月に行われたプラスチック汚染防止条約交渉(INC5.2)での交渉合意見送り[5]でも垣間見られたように、各国の置かれた政治的・経済的状況の変化を受けて、グローバルな気候変動対策・環境対策に関する合意形成がより困難になってきている状況です。その一方で、パリ協定の気温目標である今世紀末までの気温上昇を1.5℃以内に抑えるための猶予はもはや残されておらず[6]、こうした逆風の中においても、COPは国際的な気候変動対策の推進に資する決定を行う必要があります。議長国ブラジルとしても、COP30を通じて、多国間主義やグローバル気候変動ガバナンスの強化を目指す方針を掲げており[7]、締約国間の野心的な合意を導く差配を期待したいと思います。
[1] 外務省「国連交渉(COP、CMP、CMA、SB)」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop_sb_index.html;
[2]環境省「COP29 Japan Pavilion」https://www.env.go.jp/earth/cop/cop29/pavilion/;
[3]ブラジル政府「COP30 Summit to be held early in Belém on November 6 and 7, 2025」https://cop30.br/en/news-about-cop30/cop30-summit-to-be-held-early-in-belem-on-november-6-and-7-2025;
[4]ブラジル政府「International leaders, the Brazilian government and the UN are united in their call for more ambitious NDCs」https://cop30.br/en/international-leaders-the-brazilian-government-and-the-un-are-united-in-their-call-for-more-ambitious-ndcs;
[5]環境省「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第5回政府間交渉委員会再開会合の結果概要」https://www.env.go.jp/press/press_00461.html;
[6]国連「Climate change: World likely to breach 1.5°C limit in next five years」 https://news.un.org/en/story/2025/05/1163751;
[7]ブラジル政府「Seventh Letter from the Presidency」https://cop30.br/en/brazilian-presidency/letters-from-the-presidency/seventh-letter-from-the-presidency;
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