ナノテラス 想像を超える顕微鏡 ~ 震災復興への想いも込めて
今般、SCGRの社内研修で東北に出張し、官民地域パートナーシップで建設された、東北大学にあるNanoTerasu(ナノテラス)を訪問する機会を得た。東北大学は住商東北と共に産学協業を模索しているパートナー大学であり、住商から出向者も出している。この大学の青葉山新キャンパスにナノテラスという、ナノ(1メートルの10億分の1)の単位を可視化する世界最高水準の研究施設がある。その仕組みは、「電子を加速器によりほぼ光の速さまで加速し、太陽光の約10億倍にもおよぶとても明るい放射光というX線を発生させ、これを物質に照らすことにより観察を行う」(同施設・説明資料より)とのことで、その技術レベルは世界でも片手に入るトップクラスである。
10億分の1とか10億倍、と言われてもなかなかピンとこないかも知れないが、もの凄く小さなものに、もの凄く明るい光を当てることで、通常では到底見えないものが見えてくる、つまり可視化される。それにより、これまで分からなかった事が観察出来るようになり、さまざまな発見・研究の機会が創出される、ということだ。可視化の対象は原材料からデバイス、食品などの製品類まで非常に幅広く、ナノやミクロの単位で見てみたいものがあれば、何でも対象となり得る。また用途としても、例えば、なぜこの食べ物は美味しく感じるのかを分析したい、ということであれば、それをナノレベルで分析し、おいしさの理由を見える化し、そこから製造や栽培方法の改善に繋げる。このようなことも実際に行われているのだとか。
また、この施設の凄いところは、最先端の技術レベルの施設というだけではない。むしろこの施設がこの地に設立された経緯、想いの方が重要なのかも知れない。その想いとは、東日本大震災からの復興である。2011年3月の東日本大震災により東北地域は壊滅的な打撃を受けた。そのような中で、同施設での成果が復興の一助にもなることも期待され設立された。建設費の出資比率からも、その想いが見て取れる。世界で最先端技術を争うこの種の研究施設では、国などが大部分を出資することが多い。一方ナノテラスは建設費約400億円のうち、半分の200億円を国が、また、残りの半分は地元の民間企業・団体が分担し出資している。世界水準の研究施設での官民地域パートナーシップは非常にレアであり、それだけ地元企業による当施設への復興への期待も大きいということであろう。
すでにご推察のとおり、ナノテラスの名称は ‘ナノの世界を明るく照らす’ との同施設の役割からきている。それと共に、日本神話の天照大御神(あまてらすのおおみかみ)のように、世の中を明るく照らす研究や成果が同施設から生まれて欲しいとの願いも込められているとのことであった。今回の研修では震災遺構の浪江町請戸小学校を見学する機会も得たが、当時繰り返しTVの中で見た光景を思い出し、何とも言えない重い気持ちになった。人間は辛いことは忘れた方がいいのだが、思い出すのが辛くても、忘れてはいけない重要な教訓があるのも事実だ。ナノテラスがその名のとおり、東北を明るく照らし、今なお、現在進行形で進められている震災からの復興が大いに進むことを期待して止まない。
以上
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