水資源の有限性と食料生産
コラム
2025年11月12日
住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部 アナリスト 真鍋 舞
食料や農業を担当するようになって洪水などの災害と並んで水不足や渇水が気になるようになった。供給ひいては価格に大きく影響するためだ。例えば2023年の水不足は足元のコメ騒動の要因の1つとなり、スペインの干ばつはオリーブ油の値上がりに、そして米国の干ばつは牛肉価格の高騰につながった。
農業が気象の影響を受けやすいのは自明の理だが、実際にどれほど水に依存し、水を消費しているかはあまり知られていないのではないだろうか。国際連合食糧農業機関(FAO)によると食料生産は世界の淡水取水量の約7割を占めている。世界の耕地面積の内、灌漑(かんがい)設備を備えているのは2割強であり、残りは天水栽培であることを考えれば相当な数字である。また、世界の人口は増加を続けており、2050年には食料需要は今より少なくとも50%増加し、それに伴い水も約3割多く必要になると予想されている。食料生産のための水需要はさらなる拡大が見込まれているのである。
他方、供給側を見ると、地球上の14億km3の水の内、人が最も必要とする淡水は3%弱しかない。しかもその内約2%は氷の状態であるため、人が利用できるのは主に地下水(全体の1%弱)と河川や湖のような地表水(同0.01%)に限られる。
その利用可能な水資源は微妙なバランスの上にある。水の過剰利用は大河をも干してしまう。中国の黄河では1990年代には水利用の増大による断流がたびたび発生した。米国コロラド川の水も現在そのほとんどが海に到達する前に消費されてしまっている。地下水は地表水より多く存在しているが、その涵養(かんよう)には長い時間がかかるため、やはり過剰な取水は水資源の枯渇につながりかねない。国際連合大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)は、米国中西部の穀倉地帯を支える帯水層は2100年には40%が灌漑(かんがい)用水として使用できなくなる恐れがあると指摘している。また、インドでも食料を増産すべく地下水の利用を拡大した結果、一部地域で枯渇が懸念されている。
日本ではまだ水問題にそこまでの切迫感はない。しかし、大量の食料の輸入は、その生産に投入された水を輸入していることと同義と考えれば、世界の耕作地の4割が水資源の減少の影響を受けているという現状は他人事ではない。国内の農業水利施設の老朽化も進んでいる。持続可能な食料生産のためには持続的な水利用を考えていくことは欠かせない。
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