デイリー・アップデート

2025年6月24日 (火)

[ロシア/イラン] 

6月23日、ロシアのプーチン大統領は、モスクワを訪れたイランのアラグチ外相と会談し、イランへの攻撃は「根拠もなければ正当化もできない」と述べてイスラエルと米国を批判した。アラグチ外相は、防衛協力を求める最高指導者ハメネイ師のメッセージをプーチン氏に伝えた。ロシアが、イランに対しどのような支援を行うかは現時点で不明である。両国は2025年1月に「包括的戦略的パートナーシップ協定」に署名したが、協定には相互防衛条項は含まれていない。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、イランにどのような支援をするつもりかとの質問に「イランが何を必要としているかによる」と述べ、ロシア政府が危機の調停を申し出たこと自体が支援の一形態だとした。

[米国/イスラエル/イラン] 

6月23日、トランプ大統領はSNS発信で、イスラエルとイランが停戦に合意したと述べた。まずイランが軍事攻撃を停止し、その後にイスラエル側も応じる形で12日間の完全停戦に至ると説明しているが、イスラエル・イラン両国政府からの確認、説明はまだなされていない。

 

トランプ大統領による当該発信の数時間前に、イランはカタールの米軍基地に対して14発のミサイル攻撃を行ったが、米国による空爆に対する報復措置とみられる。諸報道によると、イランはカタール政府や米国関係筋に対して、事前に軍事攻撃を通告していたもようで、トランプ大統領によるSNS発信によると、13発を迎撃し、米国側に負傷者は発生しなかった。トランプ大統領はイランの事前通告に関して、謝意を表明している。攻撃されたウデイド米空軍基地は、中東地域における米軍最大の拠点で、米中央軍の現地司令部機能を担っており、米部隊1万人が配備されている。

[NATO] 

NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議が6月24日からオランダ、ハーグで始まる。ルッテ事務総長は、加盟国が防衛費をGDP比で現在の2%から5%に引き上げることで合意する見通しを示した。欠席とみられていた米国のトランプ大統領も出席となり、加盟国の首脳のほかウクライナのゼレンスキー大統領も出席する予定。なお、石破総理も招待されていたが、中東情勢の悪化やトランプ大統領が欠席する可能性が高いとして欠席としており、韓国の李大統領も出席を取りやめている。

 

NATOをめぐってはトランプ大統領が加盟国に対し、防衛費の負担が少ないとして、防衛費をGDP比5%に引き上げるよう求めており、今回の会議では防衛費の増額が焦点となっている。ルッテ事務総長は、2035年までにGDPの3.5%を中核軍事支出に、1.5%をインフラとサイバーセキュリティに投資すると述べている。

 

サミットを前にして、英国のスターマー首相は「急激な不確実性」の新時代に国の競争力と回復力を高めるために、2035年までに防衛・安全保障支出を5%に増やすと約束した。具体的には、英国は国防費を2024年の2.3%から2027年までに2.5%に増やすとし、インフラなども含めた防衛費全体では少なくとも4.1%に増やすとしている。また、ドイツは2029年までに国防費を3分の2以上増やし、フランスや英国を上回るペースで再軍備を推進するとしている。ドイツの軍事費は2029年には1,620億ユーロに達すると予測されており、2025年の950億ユーロから大幅に増加する。これにより、防衛支出は2025年の約2.4%から、今後4年間で約3.5%になる見通し。フランスも軍事予算をGDPの約2%から2030年までに3.0~3.5%に増やす意向を示している。

 

一方で、スペインのサンチェス首相は、「NATO首脳会議の成功を確保しつつ、スペインの主権を守る」として、この規定からの離脱で合意したと発表している。報道によると、NATOの声明が「我々」から「同盟国」に変更され、スペインのオプトアウトを可能にする形で合意されたと報道されている。しかし、ほかの加盟国からの反発も聞こえてきており、首脳会議でどう議論が進むのかに注目が集まる。イタリア、ベルギー、ポルトガルなども5%の目標達成には苦労する可能性が高いとされる。ベルギーのヴェーバー首相は、首脳会議でこのスペイン離脱の問題を提起する構えで、ポーランドは「スペインのいかなる逸脱も正当化されない」と語っている。

[モザンビーク] 

6月22日、ダニエル・チャポ大統領は、仏資源大手・トタル・エナジーズが率いる液化天然ガス(LNG)プロジェクトの再開に向け、モザンビーク政府が協力している旨を複数のメディアに伝えた。年間約1,312万トンのLNG生産を見込む同プロジェクトは、2021年に北部カーボ・デルガド州で活動する「イスラム国モザンビーク州(ISMP、旧ASWJ)」によるテロ攻撃を受け、トタルらは「不可抗力」を宣言。以降、建設は停止している。

 

トタルのパトリック・プヤンヌCEOは、プロジェクトサイト周辺の治安改善を背景に、2025年夏に工事を再開する意向を示している。また、同氏は再開にあたってはモザンビーク政府による不可抗力解除が必要だとの意見を示している。しかし、今回チャポ大統領は、「『不可抗力』を宣言したのはトタルであり、政府ではない。トタルが宣言した以上、解除の責任は同社にある」と責任の所在を明確にした。ただし、政府側にも当然責任はあり、それは地域の安全保障と関わっているからだとトタルとの協力の姿勢を明らかにした。

 

プロジェクト再開に向けては治安のほかに資金調達の課題が残っている。トタルによると再開後に必要な150億ドルの事業費のうち、130億ドルは確保されているとのこと。特に3月に米国輸出入銀行(EXIM)が47億ドルの融資を再保証したことは再開に向けた大きな弾みとなった。残り約20億ドルは英国輸出金融公社(UKEF)による11億5,000万ドルと、オランダのアトラディウス信用保険会社による融資枠だ。しかし、両機関は2021年のテロ発生時にプロジェクトの警備にあたっていたモザンビーク軍による地域住民への深刻な人権侵害疑惑などを理由に審査を続けている状況。一方で、トタルは両機関からの融資が受けられない場合でも、自前で残りの資金を調達できるとの強気の姿勢を示している。

 

治安面でも依然として気を緩められない状況は続いている。米・戦争研究所によると2025年5月にISMPによるモザンビーク軍・ルワンダ軍への攻撃件数は6回に増加し、軍人31人を殺害。この反政府勢力による攻撃の増加は、トタルや米資源大手エクソン・モービル(*)らがプロジェクト再開に向けた活動を本格化させている動きにあわせたものだとの見方を示している。

 

(*)カーボ・デルガド州には仏トタル・エナジーズが率いる「Mozambique LNGプロジェクト」と、米エクソン・モービルが率いる「Rovuma LNGプロジェクト」の2つの陸上生産施設を伴うプロジェクトがある。モザンビーク政府は両プロジェクトの株式の10~15%を保有している。

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