デイリー・アップデート

2025年8月5日 (火)

[米国/ロシア] 8月4日、ロシア外務省は地上発射型の中・短距離ミサイルの配備を自主的に制限してきたこれまでの方針を解除するとの声明を発表した。米国が欧州やアジア太平洋地域に中・短距離ミサイルの展開を進めていることへの対抗措置だと主張した。米国は2019年に中距離核戦力(INF)廃棄条約を離脱。ロシアはその後、米国が同様の兵器を配備しない限り、ロシアも配備しないと表明してきたが、プーチン大統領は昨年6月、欧州やアジアで米国が中・短距離ミサイルの配備を進めていることへの対抗措置として、ロシアも同種ミサイルの生産を再開し、配備することが必要だと述べ、方針の転換に言及した。今回、ロシア外務省の声明はプーチン氏の発言を改めて正式に表明した形となった。

[中国] 

8月3日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙は、中国における公務員の海外渡航規制強化について報じている。従来は高官や機密情報にアクセスする職員に限定されていた規制が、現在では幼稚園職員、小学校教師、看護師、国有企業職員など、より下位の公務員にまで拡大されている。

海外渡航には上司の許可が必要であり、旅行後はパスポートを職場に預けることが義務付けられている。違反した場合には、最大5年間の出国禁止措置が課されるケースもあるという。

規制の目的は国家安全保障の保護や腐敗防止とされているが、実際には地方幹部や中堅官僚の政治的忠誠心の確認や、トラブルへの巻き込まれ回避といった意識が背景にあることが多い。高位の公務員や機密を扱う職員に対する規制は以前から存在していたが、習近平政権下では、生活のあらゆる面において管理が強化されつつある。

2025年7月には『人民日報』が、「民間外交も党の指導の下で行われるべき」と強調する論説を掲載し、中国人が外国人と接触することへの警戒感を示した。

また、地方政府では海外大学出身者の採用制限も進んでおり、広東省や遼寧省など複数の地方政府が、2025年からエリート公務員の採用を国内大学卒業者に限定している。6か月以上の海外滞在歴がある者を「政治的調査が困難」として採用対象外とする地域もある。

これらの規制の多くは非公開であり、口頭で伝達されることが多いとされている。

[米国/中東] 

7月31日、トランプ米大統領は、4月に発表した相互関税制度の修正を行う大統領令に署名した。これを受け、ホワイトハウスは各国から米国への輸出品にかかる新たな関税率を発表し、これらは8月7日から適用される予定である。

 

中東・北アフリカ地域(MENA)のうち、最低税率である10%を上回る関税率が設定された国は以下の8か国である。シリア:41%(4月時点と同率)、イラク:35%(同39%から引き下げ)、リビア:30%(同31%から引き下げ)、アルジェリア:30%(同率)、チュニジア:25%(同28%から引き下げ)、ヨルダン:15%(同20%から引き下げ)、イスラエル:15%(同17%から引き下げ)、トルコ:15%(同10%から引き上げ)。

 

今回の発表で最も高い税率が適用されたのはシリアの41%であり、これは全対象国の中で最高である。トランプ政権はここ数か月、シリアの復興支援に向けて一部制裁解除などの動きを見せていたが、このような高率の関税措置はその方針と矛盾して見える。しかしながら、これまでの米・シリア間の貿易額は極めて小さく、シリアの全輸出に占める対米輸出の割合も低いため、関税の実質的影響は限定的と考えられる。

 

また、イラクやリビアに対しても比較的高い関税率が設定されたが、両国から米国への主要な輸出品目は原油や石油製品などエネルギー関連が9割以上を占めており、これらは今回の相互関税の適用対象外であることから、経済的影響は限定的とみられる。

[南アフリカ(南ア)/米国] 

8月4日、パークス・タウ貿易産業・競争相とロナルド・ラモラ外相は共同記者会見を実施し、8月7日から米国向け輸入品に課される30%の相互関税の影響を受ける国内企業向けの経済支援パッケージを発表した。同パッケージには、輸出市場の多様化を支援するための「輸出支援デスク」の設置や、現地生産・競争力強化を促すための「現地化基金支援(LSF)」の創設、本来は競争法に抵触する競合輸出企業間の情報共有を例外的に認める「ブロック免除」などが含まれる。

タウ氏は、南アにとって第二位の輸出相手国である米国(全体の7.5%)との貿易・投資関係を前進する努力を続け、5月の二国間首脳会談時にも南ア政府は「貿易協定枠組み」を提出するなど相互関税の引き下げに向け米国との協議を進めてきた点を協調。しかし、同氏は「米国にとって南アは輸入全体の0.25%に過ぎず、米国産業にとっても脅威を与えていないにもかかわらず、一方的な関税を課せられることは不可解」との意見を示した。南ア政府は、相互関税の影響を受ける自動車産業、農業を中心に約30,000人の雇用が失われ、国内総生産は0.2ポイント押し下げられるとの予測を示している。国内の失業率が43%に達する南アでのさらなる失業の拡大は、タウ氏やラモラ氏が所属する最大政党「アフリカ民族会議(ANC)」にとっても大きな痛手となる。

また、タウ氏は「(米国との関税引き下げ交渉に関する)政府の努力が国内の一部勢力によって妨げられたことは遺憾」と不快感を露わにした。これは、ANCに次いで連立政権(GNU)内第2党の「民主同盟(DA)」が、「ANCがイランのような国々と友好関係を維持してきたことにより、米国に高い相互関税を課せられ、その結果、その代償を国民が負うことになっている」との激しい批判に基づくものである。DAは政府が発表した輸出支援デスクの設置も「笑える対応」と一蹴している。

2024年5月の総選挙でANCは1994年の民主化以来、初めて単独与党の座を失い、DAらを含む10党でのGNU組成を余儀なくされた。過去30年間にわたり思うがままに国家運営を続けてきたANCだが、西側諸国寄りで親ビジネス派のDAらのGNU参加を受けて、他の政党の要求に対処せざるを得ない姿が目立つようになった。7月22日に「予算歳出法案(The Appropriation Bill、注)」が下院議会で賛成多数で可決されたが、ANCは同法案を可決させるために汚職を理由にDAが辞任を要求していたANC出身の高等教育相を解任した。

依然として発足から1年程度のGNUは不安定な状況が続くものの、V-dem研究所が4月に発表した民主化指数によると、南アは12年ぶりに「選挙民主主義」から最高ランクである「自由民主主義」に復帰した。アフリカではほかにセーシェルしか同ランクに位置しておらず、世界でも日本を含め29か国にとどまる。昨年の選挙での大敗をANCが受け入れ、平和裏に連立政権に移行したことが評価されたとみられる。

(注)一連の年度予算法案で最後に審議される法案。通常、2月に財相が一連の予算関連文書を提出(Budget Speech)。その後、財政フレームワークおよび歳入案、歳入配分法案、予算歳出法案の順で審議される。

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