2025年6月23日 (月)
[英国/中国]
トランプ米政権は、中国の風力発電タービン大手「明陽智能(Mingyang)」がスコットランドに新工場を建設し、北海の洋上風力発電所に供給しようとしている計画について、国家安全保障上のリスク(特に電子監視技術によるスパイ行為の可能性)があるとして、英国政府に懸念を表明したと、フィナンシャル・タイムズ紙が報じている。
英政府内では、この投資を阻止するかどうかを検討中である。この件とは直接関係ないが、中国の製鉄会社「敬業集団(Jingye Group)」によるBritish Steelの買収をめぐる対立を背景に、英国政府は明陽の投資に対してより慎重な姿勢を取っている。一部の閣僚や保守党議員は、国家安全保障やエネルギー基盤への影響を懸念しており、英国政府は国家安全保障投資法に基づき、この投資を阻止することが可能である。
一方で、スコットランド自治政府のケイト・フォーブス副首相は、明陽の投資に前向きな姿勢を示しており、地元では雇用創出や洋上風力の拡大への貢献が期待され、歓迎する声も上がっている。ただし、国家安全保障に関する事項はロンドン政府の管轄となる。
明陽はまだ英国市場でタービンを製造した実績はないが、開発業者のFlotation EnergyおよびVargronnとともに「グリーンボルト」と呼ばれる北海のプロジェクトに関する交渉を進めているほか、Cerulean Windsが開発中の別のプロジェクト向けにも浮体式洋上風力タービンの供給を検討している。また、ケルト海での浮体式洋上風力プロジェクトについては、スウェーデンの開発業者Hexiconと優先供給契約を締結している。
英国は、クリーンエネルギー目標の達成と対中関係(投資や気候協力)の維持とのバランスに苦慮している。3月にはミリバンド・エネルギー大臣が中国を訪問し、2017年以来初となる気候変動問題に関する協議を実施した。
米国当局者は、ドイツの洋上風力発電プロジェクトにおいても、中国製風力タービンの導入に懸念を示したと述べている。英国やドイツに対する米国の介入は、貿易から防衛支出に至るまで、同盟国に対して強硬な姿勢を取るトランプ政権との関係管理の難しさを浮き彫りにしている。
[ニュージーランド(NZ)/中国]
6月20日、NZのラクソン首相が中国を訪問し、北京で中国の習近平国家主席と会談した。ラクソン首相にとっては就任後初の訪中となる。共同声明では、2014年に締結された包括的戦略的パートナーシップの枠組みのもと、貿易、経済、気候変動、観光、文化等の分野で協力を深化させる方針が確認された。ラクソン首相は、「NZにとってインド太平洋地域の継続的な安全と繁栄は極めて重要であり、南シナ海や台湾海峡を含むインド太平洋地域の緊張の高まりに懸念を表明した」と述べた。中国軍の太平洋進出や、中国がクック諸島に接近していることが念頭にあるとみられる。NZはラクソン首相の訪中に先立ち、6月初め、クック諸島への2025会計年度に予定していた開発援助を停止した。クック諸島がNZに事前協議をせず、2月に中国と海底鉱物資源の採掘協力等に関する協定を締結したことに不信感を抱いた。今回の訪中において、両首脳は、建設的な対話によって意見の違いに対処することで一致した。
[タイ/カンボジア]
カンボジアのフン・マネット首相は6月22日、タイからの燃料・ガス輸入停止を発表し、 同日深夜から施行するとした。タイ・カンボジア国境での緊張が高まっており、5月には銃撃戦が発生し、兵士が亡くなっている。カンボジアにとって、タイは第3位の貿易相手国(2022年)で、そのうち27%を燃料が占めている。また、化石燃料輸入の40%以上をタイに依存しており、輸入停止はカンボジア経済に大きな影響を及ぼす可能性がある。これに対し、燃料の調達先を変更することで対応を進める方針。カンボジア外務省は国民にタイへの不要不急の渡航を控えるよう呼びかけ、またタイ領事部もカンボジア在住のタイ人に抗議地域の訪問を避けるよう警告している。
[EU/イタリア/アフリカ]
6月20日、メローニ首相と欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、アフリカ支援に関するハイレベル会議「アフリカ大陸との共同努力」をイタリアのローマで共同主宰した。同会議は、メローニ首相が2022年の就任以来、イタリアの対アフリカ外交政策として掲げる「マッティ計画(イタリア資源最大手・ENIの創業者、エンリコ・マッティ氏が由来)と、EUが2021年に開始した新興国のインフラ開発支援プログラム「グローバル・ゲートウェー」の双方をアフリカ支援の文脈において結びつけることを狙いとしたもの。「グローバル・ゲートウェー」は、EUが中国の「一帯一路」政策に対抗して創設したもので、2027年までに新興国向けに総額3,000億ユーロを投資する計画。うち半分の1,500億ユーロがアフリカ向けの支援としてコミットされている。
フォン・デア・ライエン委員長は今回の会議の成果として、総額12億ユーロの投資・融資保証が約束されたと成果を強調。米国も支援するアンゴラ~コンゴ民主共和国(DRC)~ザンビアを結ぶ「ロビト回廊プロジェクト」の鉄道整備などに約10億ユーロの投資・支援を行うと発表。また、イタリアの政府系開発銀行カッサ・デポジティ・エ・プレスティティを通じた東アフリカのコーヒー産業の強化(1億9,000万ユーロの融資保証)と再生可能エネルギープロジェクト支援(1億4,000万ユーロの融資)のほか、欧州~アフリカ~インドを結ぶ海底通信ケーブル「ブルー・ラマン」の延長(3,700万ユーロ)、アフリカの若者向けAIハブ設立を行うと述べた。
メローニ首相はまた、「今後10年間でアフリカ各国が負っている約2億4,000万ユーロの債務を現地プロジェクトに転換する」と述べ、債務減免の方針を示した。同会議にはアフリカ連合(AU)委員会のマハムード・アリ・ユスフ委員長のほか、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ総裁らも出席した。
イタリア政府やEU各国がアフリカ向け開発支援に積極的である理由の大きなひとつに、アフリカからの不法移民対策がある。アフリカでのインフラ開発、教育への投資によりアフリカ域内での雇用や産業を生み出し、移民の流入に歯止めをかけたい狙いがある。
[ベラルーシ]
6月21日、ベラルーシ(ロシアの同盟国)の大統領報道官は、ルカシェンコ大統領がトランプ米大統領の要請に基づき、ベラルーシで服役中の日本人2人を含む計14人への恩赦を決定したと発表した。釈放された14人の中には、2020年の大統領選前に拘束されたベラルーシの反政権活動家で映像ブロガーのセルゲイ・チハノフスキー氏が含まれている。日本人2人の身元は不明。ベラルーシの独立メディアが報じた釈放者リストの中には、母親が日本人で、父親がベラルーシ人の日本人男性の名前がある。この男性は2020年に反政権デモに参加して拘束され、懲役16年の判決を受けていた。
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