デイリー・アップデート

2025年7月14日 (月)

[モザンビーク] 

7月10日、仏資源大手・トタル・エナジーズのパトリック・プヤンヌCEOは、モザンビークの首都マプトでダニエル・チャポ大統領と会談を行った。北部カーボ・デルガド州の液化天然ガス(LNG)プロジェクトをリードするトタル社は、現地の治安の改善を背景に、今年(2025年)夏にも2021年に同社が発表した「不可抗力宣言」を撤回し、工事の再開を行う意向を示している。また、モザンビーク政府側も同国の厳しい財政状況を受けて、同プロジェクトの早期再開・生産開始を望む声が高まっていた。今回の会合の内容は非公開となっているが、8月までにプロジェクトが再開される可能性があると報じられている。

 

7月4日、米・Bloomberg紙は、トタル社は同プロジェクトの建設工事を請け負うポルトガル建設大手・モタエンジルと、ベルギーの建設会社べシックス・グループに工事の作業再開準備を命じたと報じており、プロジェクト再開に向けた機運が高まっている。トタル社は2029年の生産開始を見込んでいるが、総額約200億ドル規模のプロジェクトのうち、英国・オランダの公的融資機関による約20億ドルの融資は承認されていない。トタル社は両機関から融資を受けられない場合は、自前で不足分を調達する意向も示している(2025年6月24日デイリー・アップデート参照)。

 

こうしてトタル社・モザンビーク政府が工事再開に向けて前向きである一方で、北部のイスラム系過激派組織「イスラム国モザンビーク州(ISM)」の活動は収束に向かっているのとはほど遠い状況にある。6月にはISMの大規模攻撃により、治安維持にあたっているモザンビーク国軍とルワンダ国軍あわせて13人が死亡した。ソマリアのイスラム国経由で支援を受け、また襲撃した村々からの強奪や鉱物等の違法採掘を資金源としているISMは300人を超える組織に拡大しているとの見方もある(対するモザンビーク・ルワンダ軍は約4,000人を派遣)。ISMの攻撃はカーボ・デルガド州の中でも内陸部で多く発生しているが、5月に隣のニアサ州でも国立公園を襲撃するなど活動範囲を拡大させている。プロジェクト再開のタイミングに合わせて、ISMがカーボ・デルガド州の沿岸にあるトタルのプロジェクトサイトに再度攻撃を行う可能性は十分にあり得る状況だ。

 

同国の重要な外貨収入となるLNGプロジェクトの遅延を受けて、多額の対外債務返済を抱えるモザンビークの財政状況はさらにひっ迫している。国際通貨基金(IMF)は3月に同国向けの中期の財政支援プログラム(ECF)を前倒しで終了した。IMFは、より政府のニーズに沿ったプログラムを開始すべくモザンビーク政府との交渉を行うとしており、チャポ大統領は年末までにIMFの新プログラムに合意するとの意向を示している。しかし、このIMFプログラムの合意のためには、その前提となるLNGプロジェクトの再開が必要なことから、政府としては工事再開を急いでいるとの見方もある。

[ロシア/北朝鮮] 

7月12日、ロシアのラブロフ外相が約1年ぶり北朝鮮を訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)総書記や崔善姫(チェ・ソンヒ)外相らと会談した。北朝鮮兵士のロシアへの追加派遣や民間交流など幅広く話し合い、相互協力を強化する方針を確認したと強調した。ラブロフ外相が北朝鮮東部ウォンサン(元山)にある完成したばかりの海岸リゾートを訪れ、「航空交通を増やし、ロシア人観光客に紹介したい」と述べ、今後の両国間の旅行者数の増加に期待感を示した。また、外相会談では北朝鮮側からもウクライナ侵略を続けるロシアに「あらゆる措置に対する全面的な支持をする」と伝えた。両外相は国際情勢をめぐる双方の認識の一致を確認し、ハイレベルでの対話を続けていくことも確認した。さらに、会談後の記者会見でラブロフ外相は「北朝鮮がなぜ核開発計画を進めているか理解している」と述べ、北朝鮮の立場を尊重する考えを示した。また、米国と韓国、それに日本の3か国に対し「その関係を北朝鮮やロシアを標的にする道具として利用しないよう警告する」と述べ、けん制した。

 

ロシアは最近、異例のペースで政権幹部を北朝鮮に送り込み、2025年6月だけでショイグ安全保障会議書記が2回訪朝し、リュビモワ文化相も平壌で金正恩氏と会談した。

[原油] 

7月11日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した石油月報の中で、石油需給バランスは「統計上は」明らかに供給過剰なのに、価格指標が現物市場のひっ迫を示唆し続けている状況について説明している。

 

まず、6月は、イラン・イスラエル軍事衝突を受けてサウジアラビアが同70万バレル増産したことなどにより、世界の石油生産量は前月比日量95万バレル増の同1億0560万バレル。前年同月比では同290万バレルもの増加となったが、さらにOPEC+は8月に増産加速を計画している。他方、世界の石油需要は2025年第1四半期に前年比日量110万バレル増えたが、第2四半期は同55万バレル増に失速。2025年通期では前年比日量70万バレル、2026年は同72万バレル増と、コロナ禍の2020年を除くと2009年以来の低い伸びとなる見通しだという。2025年第2四半期には、世界全体で日量174万バレルもの在庫増加となったと推定されている。

 

しかし、この在庫増加は中国の備蓄と米国の天然ガス液(NGL)に集中し、他地域の在庫は減少。米国のNGL在庫増加は、生産好調と、中国向けエタン輸出に一時的に制限を設けたことによるもの。中国は2025年1月施行の法律で、企業に対し戦略備蓄を法的義務として明記し、国営CNPCとCNOOCが石油備蓄子会社を創設するなどして戦略的に石油備蓄を積み増している。

 

また夏場には、北半球の需要増加への対応として製油所の原油処理量や中東などの発電用原油燃焼も増加見込み。IEAは「需給バランスは余剰でも、実際の市場は見た目よりタイトかもしれない」と述べている。

[EU/米国/インドネシア] 

トランプ大統領は8月1日からEUとメキシコに対して30%の関税を課すと発表した。7月13日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、7月15日に発効する予定だった鶏肉、オートバイ、衣料品を含む米国のEUへの年間輸出額210億ユーロに対する報復関税の適用を「8月上旬」まで停止すると述べ、引き続き米国との交渉による解決を目指す姿勢を明確にした。

 

欧州内では、EUが英国と同様に迅速に枠組みを決め、貿易協定を締結するのか、それともより良い条件を目指して交渉を続けるべきかで意見が分かれている。ドイツのメルツ首相は、米国と「妥当な」取引ができるという希望を表明し、フォン・デア・ライエン委員長、マクロン仏大統領、トランプ米大統領と解決策を見つけるために今後2週間を使うことに同意したと述べた。

 

一方、貿易政策を運営する欧州委員会は、航空機、アルコール、食品など米国からの950億ユーロの輸入品に対する追加での関税パッケージについて協議しているが、発効には加盟国の同意が必要であり、協議は難航している。

 

米国との対立が深まる一方で、EUは、9年間の交渉の末、インドネシアとの自由貿易協定に関する「政治的合意」を発表した。この協定は9月に最終決定される予定で、加盟国の過半数と欧州議会による批准が必要となる。2024年のEUとインドネシア間の二国間貿易は273億ユーロで、EUの輸出額は97億ユーロ、EUの輸入額は175億ユーロとなっている。フォン・デア・ライエン委員長は、このような貿易協定の多様化がトランプ大統領の貿易戦争に対抗するためのEUの戦略の中心的な部分であるとしている。

 

ただし、一部のビジネスグループや政治家はこのアプローチを批判している。イタリアのマッテオ・サルヴィーニ副首相は、「トランプ大統領がわが国を攻撃する理由はないが、またしてもドイツ主導のヨーロッパのために我々はその代償を払っている」と述べているなど、EUも一枚岩ではなく、厳しい交渉が続くとみられる。

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