デイリー・アップデート

2025年7月3日 (木)

[欧州/メルコスール] 

7月2日、南米のメルコスールと欧州のノルウェー、アイスランド、スイス、リヒテンシュタインの4か国からなる欧州自由貿易連合(EFTA)は、輸出品97%超を無関税とする自由貿易協定(FTA)に関する交渉をまとめた。この交渉は約10年かけて策定されてきたが、メルコスールと欧州連合との間の貿易協定の行き詰まりによって影が薄くなっていた。

 

協定は、まだ議会の承認と両サイドの法的審査を必要としているが、約3億人の人口と合計GDPが4兆3,000億ドルを超える自由貿易圏を作り出すとしている。

 

ブラジルのヴィエイラ外相は、ブラジルがメルコスールの輪番制議長国を引き継ぐ2025年後半に、EUとのFTAとともに、EFTAとの協定も最終決定され、発効することを期待していると述べている。EUとの貿易協定は、2024年12月に合意はされたものの、フランスなどの農業国からの反発に直面し、発効にはさらなる調整が必要となっている。

 

今回のメルコスール-EFTA協定は、南米連合が主導するサミットの一部としてまとめられたが、メルコスール加盟国は、域内からの無関税輸入の枠を拡大することにも合意した。特にアルゼンチンは、世界的なエネルギー生産国を目指し、広大なシェール鉱床であるバカ・ムエルタの開発を進めており、パラグアイやブラジルをはじめ天然ガスの輸出先を確保する狙いがある。ただし、アルゼンチンは、今週の米国裁判所の判決により、アルゼンチンがエネルギー会社YPFの過半数の株式を引き渡すよう命じられ(*)たことから、アルゼンチンへの投資に対する不確実性が再認識されている。

 


*2012年の再国有化の際に、アルゼンチン政府側に契約違反(15%以上の株式を保有する株主には同条件の買い取りオファーをする)があったとされ、米国バーフォード・キャピタルなどが訴えていた。15%以上の株式を購入する者はすべての株主に同じ購入オファーをする必要があるとされている。

[ブラジル] 

7月6日~7日、リオデジャネイロで2025年BRICSサミットが開催される。しかし、イスラエルやウクライナなどの地政学的リスクに対する懸念が高まり、サミットへの関心は低下している。BRICSは2024年にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦を迎え、2025年にはインドネシアも参加したが、内部での意見対立が課題となっている。ロシアのウクライナ紛争、イランの中東不安定化、中国の米国との貿易紛争が、BRICS内のコンセンサスや政策調整を妨げている。

 

ブラジルは2009年の設立以来、グローバルサウスの地位向上を目指してきたが、新しい加盟国のエジプトとエチオピアが、アフリカからの常任理事国を出すことを優先し、反対している。中国の習近平国家主席はBRICSを反米勢力に位置付けようとしているが、ブラジルとインドは欧米諸国とも連携を保ちたいと考えている。

 

今回のサミットは、世界的な緊張の高まりを背景に、大きな決断や合意に至る可能性は低い。2025年4月のBRICS外相会議でも共同宣言へのコンセンサスが得られなかった。習主席とプーチン大統領、エジプトのシシ大統領が欠席することも、サミットの重要度を低めている。

 

ロシアはSWIFTから締め出されたことを受け、ブロックチェーン技術に基づく支払いシステムやBRICS共通通貨の提案をしているが、支持を得られていない。ブラジルも米国からの報復を恐れ、共通通貨への言及を避けている。

 

サミットは重要な事項の議論は難しいが、加盟国間の対話の場としての意義は残る。ブラジルは湾岸諸国や東南アジア諸国との投資と商業関係を深めるための機会と捉えている。BRICSの目的は、二国間関係の深化や新開発銀行の財政余力の拡大の意味合いが強くなっている。

[エチオピア] 

7月2日、国際通貨基金(IMF)理事会は、エチオピアの財政支援向けに2億6,000万ドルの融資を承認した。今回の融資決定により、2024年7月に開始された総額34億ドルのプログラムの総融資額は、わずか1年で半額を超える18億7,000万ドルに達した。

 

IMFは「すべての定量的パフォーマンス基準(インフレ率、財政赤字、外貨準備高、実質GDP経済成長率等)が達成された」と政府のマクロ経済安定化の取り組みを評価。特に外貨準備高は金輸出の拡大により2025/26年度は輸入の2.1か月分をカバーするまで回復する見込みで、IMFの予測を上回った点を強調した。

 

引き続きインフレ上昇率は10%を上回っている状況が続いていることから、エチオピア中銀(NBE)は政策金利を重視し、金融引き締め政策を継続することが重要だと強調した。政府は金融近代化の一環で2024年7月に政策金利を導入。6月30日にNBEが実施した第3回金融政策委員会(MPC)では政策金利は15.00%に据え置かれ、実質金利はプラスで維持されている。

 

また、IMFの要請もあり、同じく金融近代化のために2024年7月に導入された変動相場制移行後の為替についてIMFは、政府が外貨の供給を拡大させる政策を取っていることは評価した一方で、公定レート(1ドル=130ブル台)と並行レート(同160ブル台)の拡大が続く場合は「新たな措置」を講じるべきと指摘した。6月28日にNBEのマモ・ミレトゥ総裁は両レートのスプレッドの乖離(かいり)が続く理由について、国内の商業銀行が依然として高い為替手数料を課していることにより並行市場の為替需要が強いためだとし、商業銀行に改善を求めている。

 

またIMFはエチオピア当局が公的債権者委員会(OCC)と債務再編に関する交渉を進展させていることを評価。OCCとの返済条件に適合する形で民間債権者団体との10億ドルの債務再編も並行して進めるよう促した。同団体はエチオピア政府が提案する債務の割引(ヘアカット)案に断固応じない姿勢を貫いているため、政府は債務返済開始時期の延期しか取り得る手段がないとの見方がある。

[米国] 

米エネルギー情報局(EIA)の月次統計によると、米国の原油生産量は2025年4月に過去最高の日量1,346.8万バレルを記録したが、今後の見通しは徐々に低下している。EIAが6月月報で示した2025年通期の産油量予測は日量1,342万バレル、2026年1,337万バレルと減少見込み。2025年4月、関税政策とOPEC+減産縮小により、原油価格は急落し、米国の石油掘削リグ数は2025年2月末の直近ピークから56基(▲11%)減少した。

 

そんな中、7月2日にダラス連邦準備銀行が公表した第2四半期のエネルギー調査は、シェール生産の中心地で事業を行う企業の景況感悪化を浮き彫りにした。全体の業況を示す企業活動指数は▲6.4、石油生産指数は▲8.9、ガス▲4.5といずれも縮小圏、見通し不確実性指数は上昇。油田サービス企業についてはほぼすべての指数が悪化した。2025年末時点のWTI原油価格の予測平均は1バレル68ドル、Henry Hub天然ガス価格は3.66ドル/MMBtuの予想。

 

個別の設問では、鉄鋼関税によるコスト増加、油価下落の影響、原油掘削時に発生する廃水処理を巡る課題などがテーマに。トランプ政権は化石燃料推進の政策を掲げているが、関税政策や不確実性の高まり、最近の中東紛争などからボラティリティがあまりに高く、難しい事業環境に置かれている企業の苦悩が示されている。

[ベトナム] 

6月2日、トランプ米大統領はベトナムとの貿易合意が成立したとSNSで表明した。トランプ政権は4月に相互関税を発表した時点ではベトナムに46%の関税を課すとしていたが、ベトナムからの輸入品には20%、第三国からの積み替え品には40%の関税を課し、ベトナムは米国からの輸入品に対して関税を課さないと述べた。ベトナム政府も米国と貿易枠組みに関して合意したと発表した。米国と貿易交渉で合意に達するのは英国に続く2か国目となり、アジアでは初めての例となる。

[イラン] 

7月2日、イランのペゼシュキアン大統領は国際原子力機関(IAEA)との協力を一時停止する法律に署名し、同法律が施行された。同法律は、6月末にイランの議会が可決し、法律施行前に内容を審査する護憲評議会による承認も得られていたもの。イラン政府によるIAEAとの協力停止は、6月に米国とイスラエルがイランの核施設を攻撃したことを受けての措置。イラン議会や原子力庁は、IAEAが同攻撃を一切批判しなかったことを非難していた。

 

米国とイスラエルによる攻撃で核施設がどの程度破壊されたのかはまだ精査中である。米国防総省は7月2日、同攻撃で「(イランの)核開発を2年近く後退させた」との見解を示したが、具体的な根拠は示していない。

 

今回の法律施行により、今後イランはIAEAへの報告書の提出を停止、IAEAによる査察にはイランの国家最高安全保障委員会による承認が必要となり、核施設への監視カメラの設置なども認めない。イラン議会のガリバフ議長は、核施設の安全が保障されるまでIAEAとの協力を停止し、民生用核計画をより迅速に進めると発言している。

 

同法律の施行で、今後イランの核開発に対する国際社会の監視が困難になり、国際社会による疑念は一層高まりかねない。イランは、グロッシIAEA事務局長の入国禁止やNPT体制からの離脱も検討しているとのこと。

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