2025年8月6日 (水)
[ルワンダ/米国/英国]
8月5日、ヨランダ・マコロ政府報道官は、米国から追放される最大250人の移民をルワンダに受け入れることで米国と合意したと発表した。米・トランプ政権による「数百万人の不法移民を強制送還する」との公約に沿う形で、7月に南スーダン、エスワティニが米国内で犯罪歴のある不法移民数人を受け入れたが(2025年7月19日デイリー・アップデート参照)、ルワンダが受け入れを行えば、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)で3か国目となる。マコロ氏は「ほぼ全てのルワンダ人が(1994年のルワンダ大虐殺により)避難民としての苦痛を経験しており、ルワンダの社会的価値観は再統合と社会復帰に基づいている」と移民の受け入れの理由を説明した。また、同氏は移民受け入れの対価となる米国からの資金援助の金額については明言を避けたが、「米国が再定住の対象として提案した個人の受け入れを承認する権限はルワンダにある」として、米国の押し付けに一方的に従っているわけではない姿勢を強調した。
ルワンダへの受け入れが承認された個人は、国内で職業訓練、医療、宿泊施設の提供を受けるとのこと。ルワンダは人口1,500万程度とアフリカの中でも小国だが、ポール・カガメ大統領のリーダーシップのもと過去10年で約7%程度の経済成長を遂げている。内陸国で目立った鉱物資源や外貨獲得源がない中、難民の受け入れやルワンダ軍の治安維持部隊の各国への派遣と引き換えに欧米諸国や国際機関から資金提供を得ることに積極的だ。これまでも国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、アフリカ連合(AU)、欧州連合(EU)との協力のもと、リビアから欧州への不法入国を希望する2,400人以上の難民をルワンダに受け入れている(その後、1,800人以上が欧米諸国に再定住)。
他方で、カガメ大統領政権の人権侵害や隣国コンゴ民主共和国(DRC)の主権侵害などでたびたび国際社会から批判を受けている。2022年に英国は保守党のボリス・ジョンソン元首相下で英国に小型ボートで到着する難民をルワンダに強制送還する政策を発表したが、2023年に英国最高裁は、「送還された難民はルワンダで人権侵害にさらされる危険がある」として同政策に意見判決を下した。その後、2024年4月に保守党のリシ・スナク前首相時に、ルワンダは安全であり、送還は違憲ではないとする「ルワンダ安全法」を強硬的に採択し、移民の送還を進めてきたが、同年7月の政権交代で就任した労働党のキア・スターマー首相が同政策を即刻破棄。これまで英国からルワンダに強制送還された難民は一人もいない。
しかし、英国はルワンダに対してすでに3億1,000万ドルを支払い、ルワンダも難民の収容施設の建設を進めていたことから、今回の米国からの不法移民の受け入れに同施設を活用する可能性もある。現在、並行して米国がルワンダとDRCの和平協定の仲介を行っている中(2025年8月4日デイリー・アップデート参照)でのルワンダの今回の発表は、和平交渉をより有利に進めるために米国にすり寄っているとの見方もある。
[イスラエル/パレスチナ]
「イスラエルの安全保障のための司令官たち(CIS)」は、イスラエルのネタニヤフ首相に対してガザ戦争の終結を促すよう、トランプ米大統領に圧力をかけることを求める公開書簡を発表した。書簡には、イスラエルの諜報機関モサドおよびシンベトの元長官や、退役した国防・外交当局の高官を含む550人以上が署名している。書簡は8月1日付で作成され、8月4日にメディアを通じて公開された。署名者には、3人の元モサド長官、5人の元シンベト長官、3人の元軍参謀総長(うち1人は元首相、1人は元国防相)が含まれている。
書簡では、次のような専門的見解が示されている。すなわち、ハマスはもはやイスラエルにとって戦略的脅威ではなく、軍事的手段で達成可能とされた二つの目標(ハマスの軍事部門および統治機構の解体)は既に達成されている。一方で、最も重要な三つ目の目標である人質の解放は、軍事力ではなく合意によってのみ実現可能であり、残存するハマス幹部の追跡よりも人質救出を優先すべきだと主張している。
その上で、トランプ大統領に対し、戦争を終結させ、人質を解放し、ガザおよびパレスチナ全体に苦難をもたらす事態を終わらせるよう求めている。また、戦後に改革されたパレスチナ自治政府が、ハマスに代わる現実的な選択肢を住民に提供できるよう、地域的かつ国際的な枠組みの構築を主導するよう呼びかけている。
2023年10月7日のハマスによる奇襲攻撃では、約1,200人のイスラエル人が死亡し、251人が拉致された。それ以来、イスラエルによるガザ地区への攻撃は継続しており、これまでに6万人以上のパレスチナ人が死亡、15万人以上が負傷したとされている。最近公開された若いイスラエル人の人質2人の映像は、イスラエル国内で大きな怒りと抗議を引き起こし、国際社会の注目も集まっている。
[日本/米国/欧州]
テクノロジー関連メディアTechRadar(米テクノロジー専門メディア)によると、AIを推進する上でもっとも重要なデータセンターインフラについては見落とされる点が多いと指摘している。
これまで使用されてきたデータセンターの延長線上で考えられることが多いが、事業経験者は明白な違いを把握しており、それはコンピューターを格納するラックの密度であるという。これまでのクラウドの仕組みでは、ラック当たりおおよそ10~15kWで動作しているが、AIではグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)を多く使用することもあって、膨大な電力消費を必要とする。その導入では、ラック当たり40kW以上の電力を消費しているとされ、実験環境では100kWを超えるものもある。古いデータセンターでは、大規模なアップグレードが行われなければ、電力消費量の増加に伴う負荷にシステム全体が耐えられない可能性がある。そして、大量の電力を消費するために、AIデータセンターでは過熱が深刻な状態となる新たな冷却システムが必要となってくる。将来の利用拡大も視野に入れると、データセンターの設計は、将来の拡張性を確保する必要もある。現時点では、電力の共有制約やグリッド接続の遅れがデータセンター新設のボトルネックとなっており、敷地内(サイト)での発電や蓄電設備を併設することで電力供給の安定化を図る必要があり、実際そうした動きや事例はある。経済や社会活動へのAI導入が政策面で強調されるなかで、半導体や原材料に含まれる重要鉱物の確保に焦点が当たるが、それらと同時に、データセンターを適切に運営・運用するためには、ラックの形状や素材、冷却システム全般、構築物の構造、グリッドと蓄電設備、データセンターへと接続するための電線網と容量など、インフラに関する議論も並行して進めていくことが大切である。
[日本]
厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、6月の実質賃金は前年同月比▲1.3%と、6か月連続のマイナスだった。ただし、下落率は5月(▲2.6%)から半減し、ここ半年で最も小幅になった。内訳を見ると、名目賃金(現金給与総額)は+2.5%となり、上昇率を5月(+1.4%)から拡大させた。これは、2月(+2.7%)以来の大きさだった。その一方で、消費者物価指数(除く持家の帰属家賃)が+3.8%と、5月(+4.0%)から小幅に縮小したものの、高止まりしていた。このように、名目賃金の上昇率が拡大し、消費者物価指数の下落率が縮小した中で、依然として後者の影響の方が大きく、実質賃金の低下が継続した。
また、名目賃金の内訳では、基本給(所定内給与)が+2.1%となり、3か月連続で2%台の伸びを維持した。フルタイム労働者(一般労働者)の基本給は+2.5%、5月(+2.2%)から拡大し、パートタイム労働者の時間当たり賃金は+4.0%と、2024年8月以降、4%台の伸びを維持している。2025年春闘による賃上げが徐々に表れつつあるようだ。残業代(所定外給与)は+0.9%で、3か月連続のプラスになった。残業時間(所定外労働時間)が▲3.0%と減少した一方で、残業代は増加しているため、残業の時間給が上昇していることがうかがえる。ボーナス等(特別に支払われた給与)は+3.0%と、2か月ぶりに増加した。なお、共通事業所ベースの名目賃金は+3.0%だった。2024年12月(+5.3%)以来の大きな伸び率だった。
これらより、賃金の上昇基調が継続している一方で、物価上昇率が高止まりしているため、実質賃金が低下している構図が続いている。実質賃金のプラスへの回帰にはまだ時間がかかりそうだ。
[金属]
鉄鋼・アルミだけでなく銅や亜鉛などの非鉄金属でも、中国の過剰生産能力や大量生産により市況が悪化し、他国製錬業が圧迫される例が後を絶たない。原料となる銅・亜鉛精鉱の供給は逼迫。2025年に入り、フィリピンやナミビアの銅製錬所が停止に追い込まれており、国内でも銅精鉱処理を縮小してリサイクル原料比率を高める取り組みが相次ぎ発表されている。中国国外の金属製錬業が淘汰されれば、安全保障上問題になるとして危機感は強い。
トランプ米政権は8月1日から銅半製品・派生品に対して232条関税の発動を発表した際、「国内の過剰な環境規制と、海外の不公正な貿易慣行が米国の銅製錬業を空洞化させ、外国依存を高めた。現在、単一の外国(名指ししていないが中国)が世界の製錬能力の50%以上を支配している。世界市場の不均衡により、国内投資は実行不可能になっている」と述べ、2027年から精錬銅への関税導入と、銅原料への国内販売要件導入の可能性にも言及した。8月5日、亜鉛精錬大手Nyrstarは、オーストラリア連邦政府・南オーストラリア州政府・タスマニア州政府から、苦境にあるPort Pirie鉛製錬所・Hobert亜鉛製錬所に対する1億5,000万豪ドルの救済パッケージを受けることで合意に達したと発表した。公的支援と、大株主であるTrafiguraの支援を受けて当該製錬所の操業・雇用を維持するとともに、重要鉱物生産への移行を検討する。具体的にはPort Pirieではアンチモンとビスマス、Hobertではゲルマニウムとインジウム生産の実現可能性を調査する。
[ロシア/米国]
一部の海外メディアの報道では、ロシアのプーチン大統領は、トランプ米国大統領が8月8日までに停戦合意しなければ制裁を科すとしているものの、これに応じる可能性は低く、ウクライナ4州(ドネツク州、ルハンシク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の完全掌握という目標を保持している。
関係筋によるとプーチン氏の決意は、ロシアが勝利しているという信念と、3年半にわたる戦争で経済制裁が相次いで科せられており、これ以上の制裁は大きな影響を与えないと判断しているためという。また、今は前線でロシアは進軍しており、戦争目的にも変更はないことから、ウクライナでの全面的な停戦には応じない見通しである。
一方、緊張緩和のジェスチャーとして、ロシアは空爆の一時停止をウクライナに提案する可能性もある。成功の見込みは乏しいとされるが、今後予定されている米国のウィトコフ特使のロシア訪問は、トランプ大統領との合意に向けた土壇場での機会になるとみられる。
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