デイリー・アップデート

2025年8月4日 (月)

[米国/コンゴ民主共和国(DRC)/ルワンダ] 

7月31日、米国は首都ワシントンでDRCとルワンダ間の和平協定に関する「共同監視委員会」の第1回会合を開催した。同委員会は6月27日に米国の仲介の下でDRCとルワンダ両国の外相が署名した和平協定に基づくもので、署名から45日以内の開催が明記されていた(2025年6月30日デイリー・アップデート参照)。同協定の署名以降、公式に開催された会議としては初めてとなった。同会合には並行して和平交渉を仲介するカタールと、アフリカ連合(AU)が仲介役を委嘱しているトーゴもオブザーバー参加。和平協定締結以降の合意内容の遵守状況の確認や、「共同安全保障調整メカニズム(JSCM)」の第1回会合の開催に向けた準備が行われた。

 

JSCMの会合は、8月7日にエチオピアの首都アディスアベバで開催される予定だと報じられている。また、翌8月1日にも和平協定で定められた「地域経済統合枠組み」 の概要に関する合意が行われた。エネルギー(水力発電、メタン利用)、インフラ、鉱物資源管理などに関するDRC・ルワンダ両国間の協調の方向性が示された。米国務省は、和平協定が進展を遂げる中で、両国の首脳会議をワシントンで開催するとの意欲を示した。

 

他方で、和平協定の「肝」ともいえるDRC東部での停戦に向けた動きに具体的な進展はみられない。協定ではDRC政府に対して署名から90日以内に武装勢力「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」の「中立化」を求め、ルワンダに対してはDRCに対する防衛措置の解除とルワンダ軍の撤退を求めている。しかし、ルワンダ軍の支援を受けてDRC東部の一部を実効支配する反政府勢力「3月23日運動(M23)」に撤退の動きはみられない。また、FDLRは同支配地域で主に活動をしていることから、DRC政府が直接FDLRに干渉できる能力は限られているとみられている。これまでもルワンダのポール・カガメ大統領は、DRCがFDLRの中立化の約束を果たせないため和平協定は予定通りには実現しないとの見解を示している。

 

しかし、ルワンダとしてはもともと実現が困難なFDLRの中立化を和平協定に盛り込むことで、DRCの約束不履行を理由にルワンダ軍の撤退を遅らせ、M23支配地域における重要鉱物の確保とルワンダへの密輸を継続させたい狙いがあるとの見方もある。並行してカタールの仲介によりDRCとM23およびコンゴ川同盟(AFC)は、7月19日に停戦に向けた「原則宣言」に署名(2025年7月22日デイリー・アップデート参照)。8月18日までに和平協定に署名することが定められたが、M23に支配地域からの撤退の姿勢はみられない。7月に国連安保理宛に提出された専門家グループのレポートによると、M23は戦闘地域で降伏したDRC国軍や反ルワンダ系武装勢力を吸収する形でさらに軍事力を強化しており、支配地域における「自治政府」設立の意向を明確にしていると指摘している。

 

米国やカタールによる和平仲介の試みがどのような形で決着するか不透明な状況が続く。

[米国] 

労働省によると、7月の非農業部門雇用者数は前月から7.3万人増加した。市場予想(11万人増)を下回った。この中で、注目されたのは、5~6月の大幅な下方修正だった。6月の雇用者数は14.7万人増から1.4万人増へ▲13.3万人の下方修正、5月は12.5万人増から1.9万人増へ▲10.6万人の下方修正だった。労働省は、大幅な下方修正について、企業や政府機関から受け取った追加報告と季節要因の再計算によるものだと説明した。

 

下方修正の約40%を占めたのが、州・地方政府の公教育分野だった。予算削減などが統計データの収集に悪影響を及ぼしている一面も指摘されている。また、雇用統計は1月について3か月かけて調査回答を回収している中で、コロナ禍前に70%超だった初回の調査回収率が、足元では60%を下回ることが多いことも、修正幅の拡大につながっているとみられている。7月の非農業部門雇用者数の内訳を見ると、教育・ヘルスケア(7.9万人増)や小売(1.6万人増)、金融(1.5万人増)などが増加した。一方で、専門ビジネスサービス(1.4万人減)や製造業(1.1万人減)、政府(1.0万人減)などで減少が目立った。製造業や専門ビジネスサービスは5月から3か月連続で減少、卸売も2か月連続で減少した。

 

人員削減を進める連邦政府は6か月連続で減少した。教育・ヘルスケアは増加基調になり、教育・ヘルスケア以外の雇用者数はここ3か月連続で減少していた計算になる。また、7月の失業率は4.2%で、6月(4.1%)から上昇した。市場予想通りだった。労働参加率は62.2%となり、6月から0.1ptの低下だった。低下は3か月連続。労働参加率の低下が、失業率の上昇を抑えているという見方もある。なお、平均時給は前年同月比+3.9%で、4~6月(+3.8%)から小幅に拡大した。7月の雇用統計の結果を受けて、市場では次回9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げが実施されるという見方が強まった。また、トランプ大統領が労働省労働統計局長の解任を指示するなど、政治介入への懸念も強まった。クグラーFRB理事が辞任したこともあり、政治介入によって統計自体とともに金融政策運営が歪むリスクが市場では強く意識されつつある。

[米国/ロシア] 

トランプ氏が示した対ロ制裁方針にロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)が反発を示し、核兵器使用示唆によりけん制していたところ、8月1日、トランプ米大統領は、メドベージェフ氏との対話を受け、「適切な海域」に原子力潜水艦(原潜)2隻を配備するよう命じたと明らかにした。ロシア近海とみられる。

 

トランプ氏は先月末、ロシアが8月上旬までにウクライナとの停戦合意に応じなければ制裁関税を課す方針を表明。9月上旬までとしてきた従来の期限を短縮した。これを受け、メドベージェフ氏はX(旧ツイッター)で「新たな最後通告は戦争への一歩だ。ロシアとウクライナの間でなく、彼(トランプ氏)自身の国との間で起きる」と反発。別の投稿で、「トランプ氏は『死の手』(ロシアの核反撃システム)がどれだけ危険なのか思い出せばよい」と書き込んでいた。

 

トランプ氏は第1期政権時にも、北朝鮮に対する圧力強化策として、戦略的に原潜を韓国に寄港させたことがある。第2期政権発足後、米国の核戦力を露骨に示したのは今回が初めて。

[米国] 

米国の住宅市場は、いまや地域によって真逆の表情を見せている。カリフォルニア州サンノゼでは住宅の中央値価格が160万ドル超(約2億4000万円)と高騰し、不動産プラットフォーム企業であるZillowの試算では、平均的な購入者が住宅を購入可能と感じるには、住宅ローン金利が現行の約6.8%から4.4%まで下がる必要があるとされています。仮に金利が0%まで低下しても、ニューヨークやサンフランシスコでは、既に十分価格の高い住宅購入は高嶺の花に変わりはない。

 

こうした中、先週発表された雇用統計では、雇用の伸びが予想を大きく下回っており、インフレ鈍化の兆しと利下げ期待から長期金利はわずかに低下した。住宅ローン金利も一時的に6.7%まで下がったものの、手頃な価格の住宅不足、販売価格の高止まり、そして流動性の欠如といった構造的な課題の前では、こうした若干の金利低下は焼け石に水と言えそうだ。

 

住宅が高くて買えない地域がある一方、テキサス州やフロリダ州などの都市圏では住宅価格が下落している地域もある。不動産仲介企業Redfinのデータによれば、カリフォルニア州オークランドでは前年比で6.8%、フロリダ州ウェストパームビーチで4.9%、景気が良いと言われてきたテキサス州ヒューストンでも2.8%の下落が確認されている。これらの地域では供給過剰により在庫が積み上がっている。買い手がつきにくいことから、買い替えが進まず、新規の住宅販売へも影響が出ていると指摘されている。

 

米国の住宅市場は『高くて買えない地域』と『供給過剰で値下がりする地域』が混在するという極めて歪んだ構造に陥っており、金利の小幅な変動だけではこの複雑なパズルを解くまでには至りそうにない。

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