デイリー・アップデート

2025年6月17日 (火)

[オランダ] 

10月29日、オランダは、過去2年で2度目の総選挙を実施する。総選挙の早期実施は、極右の自由党(PVV)、自由民主国民党(VVD)、新社会契約党(NSC)、農民市民運動(BBB)の4党連立政権が、PVV党首のウィルダース氏が移民政策を巡る対立から連立離脱を表明したことで崩壊したため。

 

オランダ政府は、2024年7月、現政権が発足して以来、難民・移民政策を主な争点として政権内部で緊張が続いていた。連立内で最大党派となったPVVは「史上最も厳しい移民政策を実施する」と公約を掲げ、与党内での対立を理由に連立から離脱した。

 

ウィルダース氏の最新の提案には、オランダに一時滞在するシリア難民の強制送還や難民の入国禁止、国境への軍派遣などが含まれている。ほかの連立政党は、ウィルダース氏を厳しく批判し、移民問題を早期選挙の口実として利用していると非難した。BBBやNSCは政権の継続を望んでいたが、スホーフ首相は解散を選択し、早期の選挙に備えることが最善であると判断した。

 

ウィルダース氏は、2023年11月の選挙でPVVが24%近くの得票を獲得したにもかかわらず、自身が首相に就任できなかったことを不満に感じており、今度の選挙では2023年よりも大きな差で勝利し、首相就任を目論む。さらに、同党の支持基盤である移民・難民政策をめぐって連立政権を崩壊させることで、選挙戦がこれらの問題一色に染まり、自身の政党に追い風になることを期待している。一方、ほかの連立与党は、ウィルダース氏が信頼できない人物で、政権を担う資格がないと批判を強めている。

 

現在の世論調査では、PVVは投票意向の約20%で首位を維持しているが、2024年の33%や2023年選挙の23.6%に比べて大幅に低下している。それでも、政権崩壊自体はPPVの支持率に悪影響を与えておらず、むしろ支持率が上昇しているとのデータもある。ただし、オランダの世論調査は不安定であり、これまでも選挙直前に支持率が大きく変動することから、今後の展開は予想できない。

 

ただし、今回の選挙でPVVが大勝しても、同党は議会過半数に必要な76議席に届かないことから、再び中道右派政党らとの連立が必要になる。しかし、ほかの政党の指導者たちとの信頼関係が崩壊した今、次の選挙で連立を実現するのはさらに困難を伴うとみられ、ウィルダース氏の首相就任の可能性は低いとの見方が強い。

[ブラジル] 

世論調査によると、ルーラ大統領の支持率がわずかに減少した。6月12日に発表されたDatafolhaの調査では、有権者の46%が大統領を支持し(4月下旬の48%から減少)、50%が不支持(49%から増加)となった。また、有権者の40%がルーラ政権を「悪い」または「ひどい」と見ており(4月下旬の38%から増加)、28%が「良い」または「素晴らしい」(前回と同じ)と見ている。

 

また、同日に発表されたIPECの調査では、大統領に対する支持者は39%(3月の40%から減少)、不支持は55%(前回と同じ)だった。一方、ルーラ政権を「悪い」または「ひどい」と見る人は43%(3月の41%から増加)、25%が「良い」または「素晴らしい」と見ている(27%から減少)。

 

どちらの世論調査会社も、4月に明らかになった国立社会保障院(INSS)で発生した大規模な不正行為スキャンダル※が政権に悪影響を及ぼしたことを示している。

 

ルーラ大統領の支持率は、食品インフレの影響が落ち着いたことにより4月に回復していたが、再び下落に転じたことになる。しかし、4月に回復したことは、インフレ圧力が緩和され、社会プログラムが強化されたことが、ルーラ大統領の支持率を回復させることが可能だということを示している。

 

また、支持率が40%前後と比較的高い水準を維持していることも、2026年の大統領選挙で競争力を維持していることを示している。

 

※INSSの職員が2019年から2024年にかけて、退職者や年金受給者への給付金を不当に割引いて、63億レアルもの金を不正に受け取っていたことが明らかになった。ルーラ大統領はこの事件を受けて、INSSのトップを解任し、捜査を進めるとともに、この不正が前政権時代に始まったと非難している。しかし、このスキャンダルは、ブラジルの社会保障制度に対する信頼を揺るがすものであり、ルーラ大統領にも大きな影響を与えている。

[ガーナ] 

6月16日、格付け大手のフィッチ・レーティングスは、ガーナの長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「RD(制限付きデフォルト)」から「B-」に格上げした。見通しは「安定的」とした。

 

フィッチは格上げの理由について、2022年にデフォルトに陥った同国が主要な海外の商業債権者との再編交渉を進めたことで債権者との関係が正常化していることを挙げた。フィッチによるとガーナは2024年11月、131億ドルのユーロ債(海外で起債した国債)の再編を完了。残り26億ドルの対外債務の再編を行う必要があるが、このうち商業債務は7億ドルに留まることから、ホールドアウトリスク(債権者が再編交渉を拒否するリスク)は低いとの見立てを示している。フィッチは、ガーナ政府が2025年末までに全ての対外債務の再編を完了すると予想している。

 

マクロ経済環境に関しては、通貨セディの上昇や金融引締め政策、財政再建の進展に伴ってインフレ率は2024年(通年)の23%から2025年は15%に低下すると予測。実質GDP成長率はカカオ豆生産の回復等を受けて2025年は4%と堅調な成長が続き、外貨準備高も2026年には輸入の3.9か月分まで積み増されるとの見通しを示している。こうした堅調な経済成長、財政再建、債務再編の進展により、公的債務は2024年の対GDP比72%から2025年には同60%に低下する見込み。

 

そのほか大手格付け機関のS&Pグローバルも、5月に長期外貨建て発行体格付けを「SD(選択的デフォルト)」から「CCC+」に格上げ。Moody'sも2024年11月に同格付けを「Ca」から「Caa」に引き上げており、デフォルト後のガーナ経済の再建を評価している。

[イラン/イスラエル] 

6月13日早朝、イスラエルによる対イラン攻撃に端を発し、その後イラン側も応戦してイスラエルに対してドロンやミサイルなどによる攻撃を行っているが、6月16日早朝にイランからイスラエルに向けたミサイル攻撃により、イスラエル側で8人が死亡、約100人が負傷した。犠牲者のうち5人は、テルアビブ近郊で亡くなった70~80代の男女。ほかの3人は、イランのミサイルが着弾したハイファの製油所の従業員で、煙を吸い込んで死亡したとみられる。6月13日以降のイスラエル側の死者は24人(全員民間人)に上っているが、イラン側の死者は224人を超えており、うち9割は民間人とされている。

 

イスラエル軍は、6月13日に開始した対イラン攻撃で、イランのミサイル発射装置120基を破壊したと発表。また、6月15日の攻撃で革命防衛隊のカーゼミ情報部長やそのほか情報当局者3人を殺害したと発表した。6月16日にはイランの国営放送局IRIBのスタジオを攻撃し、映像には爆発の際にニュースキャスターが席から急いで立ち上がる様子も映されている。また、グロッシIAEA事務局長は、ナタンツにあるイラン最大のウラン濃縮施設がイスラエルの攻撃を受け、施設内で放射性物質や化学物質による汚染が確認されていると発表した。

 

イランは、カタールやオマーン、サウジアラビアに対し、米国のトランプ大統領にイスラエルに即時停戦を受け入れるよう圧力を掛けてもらうよう要請したとの情報や、イランがキプロスを通してイスラエルに対するメッセージを伝えるよう要請したとの報道も出ており、イラン側からは停戦を求める外交努力が続いている。

[米国] 

6月1日から、ニュージャージー州の電気料金が最大20%上昇する可能性があると、同州の公共事業委員会が発表した。その原因のひとつが、データセンターの増加による電力需要の急増だ。全米でAI、クラウド、データストレージなどの需要拡大により、データセンターの数と規模が急激に増加しており、シュナイダーエレクトリックの報告によれば、2029年までに電力需要は16%増加する見通しとされている。全米エネルギー支援理事会(NEADA)ウルフ事務局長は、「電力会社は新しいインフラ整備のために透明性なく料金を引き上げており、家計負担は増す一方で、技術企業は非公開取引で恩恵を受けている」と現状について不満を述べている。

 

米国には多数のデータセンターがあるが、特にバージニア州、カリフォルニア州、テキサス州に集中しており、環境団体の調査によれば2021~24年にかけてデータセンターの数は約2倍になった。また、大型化も進行中で、「大規模なデータセンターはエネルギー効率が良い傾向がある」という。他方で、AI検索は通常の検索の約10倍の電力を消費するという研究機関の試算もある。データセンター向け電力は、サーバーや冷却システムの稼働により、電力を必要としている。資産運用会社のアポロ・グローバル・マネジメントによると、2030年までに18ギガワットの電力増強が必要で、これはニューヨーク市の3倍の需要に相当する。AI利用の進展に加えて、生活で電化が進むことで電力需要が増し、電力価格がさらに上昇する余地もある。さらにインフレ抑制法(IRA)によるエネルギー控除が撤廃されることになると、一般家庭の年間のエネルギ―支出がこれまでより増加し、一家庭あたり400ドル増加する可能性があるとの指摘も見られる。

[バングラデシュ] 

6月6日、ユヌス首席顧問が国民に向けにテレビ演説を行い、新しい選挙制度の下で総選挙を26年4月前半に実施する予定と表明した。しかし、6月13日、同首席顧問はロンドンで主要政党BNPのタリク・ラーマン総裁代行と会談した後、選挙はラマダン開始前の週(2026年2月前半)に実施される可能性があると述べた。BNPら選挙を早期に実施したい勢力に配慮し、改革の実現と選挙の早期実施のバランスを図っている状況にあるとみられる。

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