まもなくTICAD9、アフリカのことをあれこれ考えてみる
社長コラム
2025年07月25日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦
7月18日、東京の梅雨明けが発表されました。
そもそも梅雨に入っていたのか?と思うほど空梅雨で、降水量は平年比で6割程度とのこと。この先の水不足が心配になります。もちろん豪雨や台風の被害は避けたいものの、適度な恵みの雨は欲しいなと思いながら、頭の中でTOTOの名曲「Africa」のサビを、歌詞を少し変えて再生していました。
“I bless the rains down in Tokyo…”
さて、Africaといえば、来月8月に横浜でアフリカ開発会議、TICAD9が開催されます。ということで今回はTICADとアフリカについて少し考えてみたいと思います。
TICADの始まりは1993年、日本政府が主導し、国連、世界銀行などと共催する形で発足しました。
東西冷戦が終わり、アフリカが「米ソの代理戦場」という地政学的な意味合いを失いつつあった時期です。
欧米諸国の関心が東欧や中東、アジアへと移り、アフリカが国際政治の周縁へ押しやられつつあるなか、日本は国際社会の関心を呼び戻す契機をつくろうとしました。当時バブル崩壊後の調整期にあった日本にとって、それまでアジアに偏っていたODA(政府開発援助)を見直す過程で、アフリカという「巨大空白地帯」は戦略的意義を高めていました。国連安保理の常任理事国入りを模索するうえで、加盟国の約4分の1を占めるアフリカ諸国の支持を得ることも、極めて重要な外交方針でした。
アフリカは単一の国家や文化圏ではありません。*54の国々(1)があり、2,000以上の民族、1,500以上の言語が共存する多様性に満ちた大陸です。「アフリカ」と一括りにしてしまうのは、欧州と中東、アジアをひとまとめに括ることのようなものかもしれません。
当初のTICADは、日本のアジア向けODAの経験をアフリカに横展開する「援助」を中心テーマとしていました。しかしTICAD V(2013年)からアフリカ連合委員会(AUC)が共催に加わり、民間企業との対話セッションも設けられるなど、「民間投資」と「官民連携」を通じてアフリカ経済の成長を後押しする枠組みへと進化してきました。TICADは、「人間の安全保障」、「アフリカ主導」、「パートナーシップ」を理念に掲げ、西欧型の「教える支援」や中国型の「資源と引き換えの投資」とは異なる、日本独自の共創モデルを模索してきました。アフリカ諸国を「支援対象」ではなく「対話の主体」として尊重するその姿勢は、日本らしい丁寧な国際関与のスタイルだと思います。
創設から30年余りを経て、TICAD9を迎えるアフリカは確実に変わっています。何よりそのスケールの大きさに改めて驚かされます。世界の陸地の約4分の1を占める広大な大陸に、2050年には人口が25億人に達する見込みですが、これは現在の日本の約20倍です。また毎年加わる新たな労働人口は世界最大で、平均年齢は20歳。市場の将来性はまさに「伸び代しかない」レベルです。
インフラが未整備なことが逆に技術革新の起爆剤になっている現実もあります。電力や水道が不十分な地域がある一方、スマートフォンの普及率は高く、モバイル決済口座はすでに4億件超、年間取引額は1.4兆ドルを超え、キャッシュレス社会が進んでいます。また、2024年のアフリカ全体におけるスタートアップ投資額は32億ドルに達しています。農業、物流、金融、医療、気候変動などの分野で急成長中のスタートアップが次々と生まれています。アフリカはもはや「支援される場所」ではなく「新しい発想と成長が生まれる場所」へと変わりつつあるようです。
その潜在力に世界各国も惹きつけられています。
米国は、コンゴ民主共和国(DRC)とルワンダの間で続いていた国境紛争を仲介し、和平合意を成立させる重要な役割を果たしました。これは資源地域の安定化を通じて、地政学的影響力を維持しようとする試みとみることができます。また今月(7月)もトランプ大統領がモーリタニア、セネガル、ガボンなどの西アフリカの5か国を招いて昼食会を開催しました。USAID(国際開発庁)などの「援助」の仕組みを廃止する一方で、鉱物資源を念頭においた貿易関係へのシフトが進められています。さらに、米国だけでなく、中国、欧州、中東、インドなども動いており、資源、人口、経済、外交のすべての軸で、アフリカが戦場になりつつあることを感じます。
こうした中、日本のアプローチはあくまで「対話」と「共創」に重点を置いてきました。旧宗主国でもなく、強権的な介入もしない。だからこそ「目立たないけれど信頼できるパートナー」として、人材育成や技術移転を期待できる国という評価を少しずつ積み上げてきているのだと思います。TICADはその姿勢を国際社会に示すうえで、今なお重要な舞台です。
3年に一度のTICADを間近に控え、ただ一過性のイベントとして受け流すのではなく、2025年の夏の宿題、自由研究のお題として、アフリカを取り上げてみようと思っています。SCGRとしても、地域組織と共に、皆さんのアフリカへの関心が少しでも高まるような発信をしていきたいと思っています。
(*1)西サハラでモロッコと領有権を争っている「サハラ・アラブ民主共和国」を含めると55の国と地域になります。
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