夏休みの自由研究:「生成AI~汎用人工知能、そして超知能」
2025年08月20日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
横濱 雅彦
今年の夏休みは猛暑を避け、屋内生活を決め込みました。
せっかく時間があるので「自由研究」でもやってみようとテーマを探していたところ、GPT-5が発表されるという「夏の虫」が飛び込んできたので即採用。それから一週間、本やレポートを読み漁り、オンライン講演を視聴し、息抜きには人工知能が登場する映画や漫画も観返してみました。
ところが新しいことを知れば知るほど、人工知能と人類の未来像はますます混乱します。生成AIの先にある「AGI(人工汎用知能)」や「ASI(人工超知能)」が人類の繁栄を導くのか、それとも破滅の引金になるのか?
結局「自由研究」は夏休みには収束せず、答えはでないままです。
人工知能の光と影は、映画や小説の中で幾度も描かれてきました。
『2001年宇宙の旅』に登場する宇宙船管理AIの「HAL9000」は任務と命令の矛盾に追い詰められ、冷徹に乗組員を排除します。『ターミネーター』の「スカイネット」は更に過激で、核戦争を引き起こしてしまいます。1980年代までは「核・戦争・支配」といった冷戦構造的な不安の投影として人工知能が描かれたという側面もあったのかもしれません。
冷戦が終わり、市場経済のグローバル化が進んで21世紀になると、『A.I.』や『HER』のように、より人間と人工知能の間の関係に焦点をあてる作品が増えました。しかし、未知の便利さという魅惑と、何とも言えない恐怖が混在し、完全なハッピーエンドにはならない作品が多いように思います。そんななか、昭和の日本で生まれた『ドラえもん』は、人間に寄り添う理想のAIロボットの姿として世界でも希少な存在に思えます。連載が始まった1970年は日本の高度経済成長の真っただ中、戦後25年を経て「豊かさ」と「平和」を実感し始めた時期です。戦時中に体験した「技術=兵器」から「技術=暮らしを豊かにするもの」へと社会の見方が変わる中で、未来のロボット像も「脅威」ではなく「便利で楽しい味方」になったのかなと想像します。
現実の世界に目を戻すと、AIをめぐる企業のアプローチも二つの路線に分かれているように見えます。
ひとつはOpenAIやAnthropicが歩む「研究・産業重視」の路線。学術研究や企業活動を革新し、人間の限界を超える知的ツール「AGI」を目指すもの。もうひとつはGoogleやxAIが掲げる生活密着の「伴走型AI」。検索エンジンやSNSなど既存プラットフォームを背景に、画像や動画コンテンツの生成を使ってもらいながらユーザーの日常にAI活用を溶け込ませるアプローチです。前者が「人間の仕事を代行する知性」としての人工知能を目指すとすれば、後者は「生活を共にする仲間」の提供を目指しているとも言えます。
もちろん米国だけでなく、中国の存在感も大きくなっています。8月には北京で「フィジカルAI」すなわち、自律型ロボットの世界大会が開かれ、人型ロボットがキレッキレのダンスを踊る動画が話題になりました。
ほかにも、工場でのライン作業を想定したタスクをこなすロボットが多数登場し、スクリーンで観てきた世界が、いよいよ現実に迫っているのを実感しました。
経済学者ケインズは1930年の講演で、「100年後の2030年には週15時間労働が標準になるだろう」と予言しています。当時は主に製造設備などの技術進歩を想定したものでしたが、いま人口知能が人間の知的労働すら代替しつつあります。超知能が登場すれば、ケインズの予言が現実になるかもしれないと思うと、少し興奮してしまいます。
しかし問題は、短時間労働が「豊かで自由な時間」を生むのか、それとも「仕事を奪われる不安」を増幅させるのか、という点です。シンギュラリティが到来する未来がユートピアかディストピアかを決めるのは技術そのものではなく、私たちがどう社会を設計し、AIと付き合うかにかかっています。
こうして本を読み、映画を見て、最新ニュースを追いかけても、「AIは人類を救うのか、破滅させるのか」という問いには答えは出えないまま、夏休みが終わってしまいました。小学生の頃なら、半ベソの状態です。
幸い、大人の「自由研究」には期限はありませんので、簡単に結論が出ない未来像を、あれこれ空想することをもう少し楽しみたいと思います。ただ、足元では生成AIを悪用したディープフェイクによる詐欺や偽情報が世界中で増加しています。個々人がそれらを見抜くリテラシーを磨かねばならないという危機感も高まります。一方、医療や教育、研究を始め、さまざまな仕事の現場でAIがもたらす恩恵も、確実に大きくなっています。
とにかく、リテラシーを高めながら恩恵を享受するために、自ら積極的にAIに触れ、使うことが、いま私たちがとることのできる現実的なアクションなのだと実感します。
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