中国の原油輸入割当制度と石油需給への影響
2015年09月04日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子
◇ 中国の民間製油所の特徴
中国の民間製油所は、Teapot refineryと呼ばれる小規模製油所(ただし半数は老朽化のため使用されていない)が中心で、製油能力は日量440万バレルと全体の30%ほどを占める。大半が山東省の沿岸部に位置しており、その他は広東省など油田地帯に点在している。従来、原油の輸入は国有企業が独占してきたため、民間製油所は主に石油製品の重油を輸入(一部国産原油も使用)し、ガソリンやディーゼルを生産してきた。だが、2015年に入り政府が推進する国有企業改革の一環として、これまで国有企業が独占してきた原油輸入が民間に開放され始めており、新制度の状況と石油市場への影響につき、以下纏めることとしたい。
◇ 原油輸入割当の認可
政府は、2015年2月に年間処理能力が日量4万バレルを超える原油蒸留装置を設置している民間製油所に原油輸入割当を許可する方針を発表。これまでも例外的に民間企業に原油輸入割当が許可されることはあったが、制度として導入されたのは今回が初めてとなる。なお、非効率的な小規模製油所の廃止を促進するため、日量4万バレル以下の製油所を退役させた事業者には輸入割当量を退役製油所の処理能力量の1.2倍とする規定も盛り込まれた。
現在、民間製油所7社に中国の原油輸入量の10%に相当する合計日量72万バレルの輸入割当が許可されており、これらの製油所が退役を約束した製油所の処理能力量は同34万バレルにのぼる。なお、認可待ちの件数は8件だが、中国政府は2014年末に2015年の原油割当量を日量75.2万バレルとコメントしていることから、2015年の許可数は多くても数件にとどまる見込み。
◇ 原油輸入ライセンスの認可
原油の輸入割当に続き、政府は7月に原油輸入ライセンスについても民間企業に付与する方針を発表した。原油輸入割当は、原油を輸入できる権利であり、従来、実際の輸入業 務は国有企業の傘下貿易会社に依頼する必要があったが、輸入ライセンスも付与されることで、輸入業務も民間企業が行えることになった。認可条件は輸入割当よりも厳格であり、原油貯蔵能力を30万トン保有すること、貿易業務の経験者5人を保有していること、都市商業銀行からの借入枠10億ドルを有していることなどが挙げられる。8月には早速Shandong Dongming Petrochemical Group、Panjin Beifang Asphalt Fuelの2社に輸入ライセンスが付与されている。
◇ 石油需給への影響
輸入割当を許可された製油所は、代替品である重油を輸入する必要がなくなることから、重油の輸入減少および原油の輸入増加が見込まれる。既に2015年1~6月の重油輸入量は前年同期に比べ20%減少している。また、山東省沿岸部に位置する小規模製油所は、内陸部の国産原油よりも輸入原油の方が経済性が高いため、輸入割当の増加により国内原油需要も減少する見込み。
なお、重油よりも原油を処理したほうが、石油製品の収量が増加するため、原油輸入割当の増加により石油製品の増加も見込まれる。中国では経済鈍化に伴い、ガソリン以外の石油製品が低迷しており、小規模製油所からの石油製品増加は国内製油マージンの低下圧力となりかねない。輸出市場も、石油製品が余剰気味であり、中国からの石油製品輸出の増加がマーケットの下押し材料となる可能性が高く、動向に注視が必要と考える。


以上
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