米国豚肉市場の見通し

2016年10月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
山野 安規徳


 

◇米国の豚肉市場は供給過剰で価格低迷

 

 米国の豚肉市場は、供給過剰によって価格の低迷に直面しており、10月5日には1ポンド=43セント(1ポンド≒450g)と、2002年以来の安値を記録した(CME赤身豚先物2016年12月限)。経緯としてはまず、2013年後半に米国で豚流行性下痢(PEDv)が発生し2014年前半の豚飼育頭数が前年比約5%減少したため、供給懸念から豚肉価格は2014年7月に過去最高の1ポンド=130セント台まで高騰した。養豚業者は価格高騰を受けて飼育数を増加させたため、2015年の豚肉生産量は前年比7.3%増の240億ポンドを記録した。以降も豚肉供給の拡大は続いていることから市場は供給過剰に傾き、価格は軟調推移が続いている。なお、2015年の豚肉生産量は牛肉の生産量を上回ったが、これは1952年以来初めてのことである。

 

 

◇生産コスト改善と需要増期待で供給の歯止めかからず

 

 供給過剰に歯止めがかからない理由は大きく2つある。1つは生産コストの改善が挙げられる。養豚業(肥育経営)の生産コストは50%を飼料費、20%を子豚購入費が占めているが、米国では飼料原料のトウモロコシ・大豆が3年連続の豊作となり、価格は大きく下落した。また、肥育するための子豚価格も生産回復により安価だったことが寄与し、2015年の生産コストは前年比26%減少した。

 

 2つ目は需要増期待である。2015年後半から中国国内で感染症が流行し、豚肉供給逼迫観測から中国向けの輸出期待が高まった。これに合わせて豚肉加工業の拡張・新設も発表され、生産者の増頭意欲が刺激されたとみられる。この結果、米農務省が発表した2016年6~8月の子豚生産頭数は前年同期比2.0%増の3,200万頭と過去最高を記録した。

 

 

◇しかし国内需要は低迷、輸出需要も振るわず

 

 生産が好調に推移する一方で、国内の豚肉需要は2016年に入ってから、4月を除いてすべての月で前年割れをしている(ミズーリ大学月次豚肉需要指数)。米国食肉輸出連合会によると、春に牛肉価格が下落したことで小売業者が牛肉のステーキと挽き肉の販促を活発にしたことが、豚肉の需要が弱まる一因となっている。

 

 また国内生産量の20%を占める輸出に関しては、1-7月期は前年同期比0.4%減と振るわなかった。最大の輸出先であるメキシコ向け輸出がペソ安を背景に同6.0%減の8億2,500万ポンドと低迷したことが主因である。一方で中国向けは、前述の通り同国内の需給逼迫と米国産輸入許認可の拡大によって非常に好調であり、同140%増の3億4,700万ポンドを記録し、メキシコの減少分を一部相殺した。しかし、中国向けはEUなど輸出競合先が多いことから、今後米国産の輸出需要が一段と増加するとは考えにくい。

 

 

◇今後の見通し

 

 国内および輸出需要見通しが弱い反面、供給は短期的には更なる拡大が予想されるため、価格は弱含みで推移すると予想される。米農務省の6月時点の発表によると、2016年3~5月にかけての子豚生産頭数は前年同期比2.5%増の3,035万頭と推定されているが、問題なく成長していれば10~11月頃の週間屠畜頭数は全米の豚肉解体工場の解体能力の限界に近い240万頭台になると試算される。このため、パッカー(解体から卸売まで行う精肉業者)が生体豚購入価格を下げることが考えられ、豚肉価格は年内一杯下方圧力が強いとみられる。また、2017年以降についても、前述のとおり6~8月の子豚生産頭数が過去最高にあることから、春先までは豚肉価格の上昇は難しいとみられる。

 

 

米国産豚肉生産数と価格(出所:米農務省、Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国養豚コストとマージン(出所:米農務省、FAOより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

米国産豚肉輸出量(出所:米農務省より住友商事グローバルリサーチ作成) 

 

 

以上

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