タイ経済:観光業の回復加速が経済をけん引(マンスリーレポート8月号)
2022年08月22日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元、回復に向かっている。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+2.5%と、第1四半期の同+2.2%の伸びを上回った。COVID-19規制の緩和、景気刺激策、国内外の旅行者数の増加などが寄与した。支出別では、個人消費が同+6.9%と第1四半期の同+3.5%から増大した。また、海外からの観光客の増加などでサービスの輸出が同+54.3%(第1四半期同+32.5%)と大幅に増加した。一方、モノの輸出は同+4.6%(同+10.6%)と減速、総固定資本形成は同▲1.0%(同+0.8%)とマイナスに転じた。先行きについては、インフレにより消費・投資意欲が弱まる可能性はあるものの、内需拡大、好調な輸出に加え、観光業の回復が支援材料となり回復が続くだろう。2022年の外国人旅行客数の政府見通しは1,000万人(2021年43万人/実績値)。COVID-19拡大以前の2019年の外国人旅行者数は約4,000万人、その支出はGDP比約10%だった。国家経済社会開発委員会(NESDC)による2022年の実質GDP成長率の見通しは+2.7~+3.2%。IMF、世界銀行による同見通しはそれぞれ+2.8%(7月時点)、+2.9%(6月時点)、ADBは+2.9%(7月時点)。注目点は、COVID-19拡大以前に外国人旅行客のうち約3割を占めた中国人旅行客がゼロコロナ政策で戻らない状況がいつまで続くかだ。
小売売上高:回復しつつある。5月の小売売上高は前年同月比+13.1%と4月の同+10.9%より伸びが拡大。COVID-19の規制緩和を受け引き続き消費が加速しており、中でも衣料品・履物・皮革製品が同+59.9%と高かった。先行きは、消費者マインドが改善しつつあり、観光業の回復が続き小売売上高を押し上げるとみられる。
生産:下落している。6月の鉱工業生産指数(MPI)は前年同月比▲0.1%と5月の同▲2.0%から下落幅が縮小したが、2か月連続で伸びがマイナスだった。MPIのうち、食品(6月同+1.8%、5月同▲1.7%)、車両・トレーラー(6月同+3.3%、5月同▲8.5%)などがプラスに転じた。先行きは、内需が加速し持ち直すとみられる。
貿易:堅調に推移している。6月の輸出額は前年同月比+11.9%の266億ドルと、16か月連続で前年同月を上回った。ウクライナ情勢を背景に、農産物・同加工品の需要が高まり、大幅な輸出の増加が続いている(同+24.5%)。今後も、引き続きバーツ安、主要工業製品の需要増に加え、ウクライナ情勢を背景に農産物の輸出が増加すると見込まれる。6月の輸入額は同+24.5%の281億ドル。資源価格の高騰、内需の回復に伴い、輸入は拡大している。6月の貿易収支は15億ドルの赤字になった。赤字は3か月連続。今後、資源価格の高騰が落ち着き、輸入物価の上昇圧力が弱まり、赤字が縮小する可能性がある。
物価:上昇ペースが加速している。7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.61%と6月の同+7.66%をやや下回ったものの、3か月連続同+7%を超え高水準が続いている。肉などの生鮮食品やエネルギー価格の上昇に起因している。先行きは、物価抑制策などや利上げに加え、資源価格の高騰が落ち着き、伸びがピークアウトする可能性がある。2022年通年のCPI見通し(中央銀行)は+5.5~+6.0%。
金融政策:利上げを開始。8月に政策金利(翌日物レポ金利)を25bp引き上げ0.75%とした。利上げは3年8か月ぶりで、2020年5月以降、過去最低水準の0.5%を維持していた。CPIがインフレ目標である+1~+3%を大幅に上回っているため、今後も追加利上げが実施されると予想する。
財政政策:景気刺激策を続けている。2022年度(2021年10月~2022年9月)の一般政府の財政収支はGDP比▲6.1%の見通し(IMF、2022年4月時点)。公的債務は政府設定の上限であるGDP比70%を超えていないものの、同51.1%(2021年9月末時点)から2022年6月末には同61.1%まで急増している。今後、しばらく物価抑制策などで支出が増加する可能性がある。
為替(対ドル): 7月後半以降、上昇傾向にある。ドル売りバーツ買い介入を実施しているものの下落が進み、7月初旬には1ドル36バーツを超え、過去5年間で最も下落したが、その後海外からの旅行客の増加による観光業の回復などを好感し上昇に転じた。先行きは、中国経済の失速、米国との金利差などがバーツへの下押し圧力となる可能性があるものの、観光業復興への期待感が続き緩やかな上昇が続くと予想する。
株価:上昇している。3月以降、ウクライナ情勢や米国の金融引き締めに対する懸念が高まり下落していたが、7月中旬以降、米国のインフレが低下し利上げ加速観測が和らいだことに加え、観光業の回復などを好感し上昇。
今後は、観光業復興への期待感から上昇が続くと予想する。
以上
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