ベトナム経済:インフレ低下で金融緩和加速、強まる景気回復の勢い(マンスリーレポート9月号)

2022年09月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元、堅調に推移している。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.72%と、四半期ベースで2009年以降最大の伸びを記録。輸出が好調を維持し、COVID-19収束によりサービス業が急回復。第1四半期は同+5.03%。ウィズコロナ政策のもと、2021年第3四半期(同▲6.02%)を底にV字回復が続いている。足元では、COVID-19規制緩和が進んでおり、消費、生産、輸出が旺盛になっている。先行きについては、堅調さを維持する見込み。2021年11月に設定した2022年の実質GDP成長率の政府目標は+6.0~+6.5%で、2022年7月には+7.0%に上方修正された。第2四半期のGDPが好調だったこと、第3四半期に前年同期のコロナ禍の落ち込みの反動から伸びが加速することなどが織り込まれたため。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+7.0%、+7.5%、+6.5%。注目点は、9月に入りインフレが緩和したタイミングでベトナム国家銀行(中央銀行)が商業銀行などの与信枠を拡大しており、特に中小企業などの資金繰りが改善することが期待されていることだ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:回復ペースが加速している。1~8月期の小売売上高(年初来累計)は前年同期比+19.3%と、1~7月期の同+16.0%から伸びが加速。8月単月の小売売上高は前年同月比+50.2%とCOVID-19抑制のためのロックダウンが実施された前年同月の反動で大幅に増加、特に入国制限の緩和に伴い観光が同+6,436.9%と急速に伸びた。今後も国内外からの観光客の増加で内需が押し上げられ、好循環を維持するとみられる。

 

生産:回復ペースが加速している。8月の鉱工業生産は、前年同月比+15.6%と4か月連続で2桁台の伸びとなった。生産が落ち込んだ前年同月の反動も影響している。自動車は、半導体不足が改善しつつあり、同+65.9%まで回復した。一方、携帯電話は、同▲10.9%だった。世界的なスマートフォン需要の減少を受け、サムスン電子の現地工場が減産したことが響いたようだ。今後はスマートフォンの減産の影響はあるものの、自動車関連や外食店の営業制限の緩和を受けビールなどの飲食関連が増産され全体を押し上げるとみられる。

 

貿易:輸出入とも伸びが加速。輸出額は、8月は前年同月比+22.1%の334億ドルと伸びが7月の同+8.9%を大幅に上回った。特に前年同月は南部のロックダウンの影響を受け落ち込んでいたため、その反動で履物(同+186.5%)、繊維・衣服(同+42.2%)が急伸した。輸入額も同+12.4%の310億ドルと、前月の同+3.4%から大幅に伸びた。貿易収支は前月の2,100万ドルから24億ドルと、黒字額が月次ベースで年内最大となった。先行きについては、低調な経済が続く中国や世界的な需要減の影響を受け、輸出が鈍化する可能性がある。 

 

     主要経済指標(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

物価:上昇ペースが鈍化している。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.89%と、前月の同+3.14%から伸びが鈍化。ガソリン価格などが反映される交通が同価格の引き下げにより同+8.9%と、前月の+15.22%から伸びが半減した。今後は、ガソリン価格次第ではあるが、2022年のインフレ目標である+4%を大幅に超えることはないとみられる。

 

金融政策:緩和を維持。インフレ緩和を受け、中央銀行は商業銀行などの貸出残高の上限を引き上げた。インフレが比較的低い水準であり、年内は経済成長を優先し、可能な限り緩和を維持するとみられる。

 

財政政策:景気刺激策が継続。2021年の政府の財政収支のGDP比は▲3.5%(IMF)。2022年のIMF予測は同▲4.70%。今後も、付加価値税の2%引き下げ、企業への融資支援、インフラ投資の増額などの景気刺激策が続くだろう。

 

    物価(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

為替:下落している。米国の利上げに伴い、ベトナムを含む新興国の通貨が下落基調にある。9月7日、中銀は外貨準備高の目減りに歯止めをかけるためドンの許容変動幅を切り下げ一定のドル安を容認した。今後は、景気回復は堅調を維持すると見込まれ緩やかな下落にとどまるとみられる。

 

株価:上昇基調にある。ウクライナ情勢などの影響で世界的にリスクオフとなり、年初から6月まで世界でパフォーマンスが最も悪い国の1つだったが8月は最も良好な国の一つに転じた。先行きについては、世界経済の減速への懸念はあるものの内需が増勢し経済回復が続くことが見込まれしばらく上昇基調が続く可能性がある。    

 

為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

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