インドネシア経済:補助金対象の燃料値上げでインフレ加速か?(マンスリーレポート9月号)
2022年09月16日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調な回復が続いている。実質GDP成長率は2021年第2四半期以降前年同月比でプラスに転じ、2022年第2四半期は同+5.44%と、第1四半期の同+5.01%から加速、3四半期連続で5%台となり、COVID-19拡大前の平均的な伸びの水準に回復した。特にウクライナ情勢の影響で世界的にコモディティの需給がタイトになっており、同輸出が堅調に推移しているほか、5月初旬前後のイスラム教の断食明け大祭(レバラン)休暇もあり消費が拡大したことも寄与した。先行きについては、内外需ともに堅調に推移し、回復が続く見込み。中央銀行による2022年の実質GDP成長率予測は、前年比+4.5~+5.3%。IMF、世界銀行、ADBはそれぞれ同+5.3%、同+5.1%、同+5.2%と予測。注目点は、政府は、燃料に対し補助金を支給しているが、9月初旬にその支給額を減らし燃料価格を引き上げた点だ。これにより消費者の負担が大きくなるため不満が高まっており、デモが行われている。
小売売上高:回復が続いている。7月の小売売上高は前年同月比+6.2%と6月の同+4.1%から伸びが加速、10か月連続のプラス成長となった。「自動車燃料」が同+67.2%、「部品・アクセサリー」が同+33.4%と大幅に伸びた。8月の小売売上高は同+5.4%(中央銀行予測値)と7月より鈍化するものの回復は続く見込み。今後は、上述の補助金対象の燃料価格の引き上げが起因し、燃料だけでなく様々な品目の物価が上がり、それにより消費者の負担が大きくなるため消費マインドが低下する可能性がある。
生産:回復が続いている。8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は内需の増大が寄与し51.7となり、7月(51.3)を上回った。過去4か月で最も高い水準。2021年8月以降、12か月連続で景気の好不調の節目となる50を上回っている。先行きについては、原材料のコスト高、インフレ・利上げによる内需の鈍化が懸念されるものの、好調な消費・投資・輸出が支えとなり回復が続くとみられる。
貿易:輸出入ともに堅調を維持している。7月の輸出額は、前年同月比+32%の256億ドルと6月の同+41%から伸びは鈍化した。コモディティ価格がピークアウトしたことが響いた。また、経済が減速している中国への鉄鋼・ニッケルの輸出が減少した。今後も堅調を維持すると予想するが、世界経済の減速が影響し、伸びは鈍化する可能性がある。7月の輸入額は、同+39.9%の242億ドルと、6月の同+22.0%の210億ドルから増加した。貿易収支は14億ドルの黒字(黒字は27か月連続)だったが、6月の51億ドルからは減少した。今後、内需拡大により輸入額が増加し、貿易黒字がさらに縮小する可能性がある。
物価:上昇基調。8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.69%と、7月の同+4.94%からやや低下したものの、3か月連続で中央銀行のインフレターゲットである+2~+4%の上限を超えた。前月比では▲0.21%だった。7月は豪雨で不作だった赤唐辛子などの価格が高騰していたが、8月には同価格が安定した。今後は、上述の燃料価格の値上げに伴いCPI全体が上昇するとみられる。
金融政策:利上げを開始。中央銀行は8月の金融政策決定会合で政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25pt引き上げ、3.75%とした。利上げは2018年11月以来3年9か月ぶり。中央銀行は、補助金対象の燃料価格の引き上げが決定される前に、同引き上げによりインフレが加速することを想定し、それを緩和するための措置として利上げに踏み切った。年内、インフレ抑制のため追加利上げが実施される見込み。
財政政策: 財政収支は改善しつつある。COVID-19対策のため支出が増加し2021年度の財政収支はGDP比▲4.65%だった。2022年度の予算案では同見通しは同▲4.85%だが、7月に財務省は同▲3.92%に抑制することも可能との見通しを示している。財政収支の上限を同▲3%とする財政規律を3年間の期限付きで緩和している。2022年8月に国会に提出された2023年度の予算案では、財政収支は公約通り同▲3%以内になるように同▲2.85%に設定された。
為替(対ドル):8月中旬以降、もみ合いが続いている。国内の景気回復が続いていることなどが好感し上昇したり、米国での利上げ加速観測が強まり下落したりしている。今後は、同国の追加利上げなどがドル買いルピア売りを抑制する材料となるが、今後は、9月に発表された米国のCPIが予想より高く利上げ観測が強まっておりドル高ルピア安基調になる見込み。
株価:上昇している。ジャカルタ総合指数は、5月以降、世界の経済成長の鈍化が懸念され、大半のアジア株がその影響を受け同指数も下落していた。7月中旬以降は、好調な資源などの輸出と国内の堅調な経済回復などが支援材料となり、上昇基調が続き過去最高値を更新している。ただし、今後、9月に入りインフレ圧力が高まっている米国での株安の流れを引き継ぎ下落基調となる可能性がある。
以上
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