ベトナム経済:通貨安を背景にインフレ高進も、経済は力強さを維持(マンスリーレポート10月号)

2022年10月12日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子


経済概況・先行き・注目点:足元、堅調に推移している。第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比+13.67%と前期の同+7.72%から加速、四半期ベースで2000年以降最大の伸びを記録した。COVID-19流行でロックダウンが実施された前年同期の反動により内需が大きくけん引した。足元では、観光などが増勢している一方、インフレの加速が懸念事項になっている。先行きについては、堅調さを維持する見込みだが、インフレの加速により内需がやや伸び悩むとみられる。計画投資省は、2022年の実質GDP成長率見通しを従来の+6.0~6.5%から、10月に入り+7.5~8.0%に上方修正した。第2四半期に続き、第3四半期のGDPも好調さを維持したことなどが織り込まれたため。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+6.0%、+7.2%、+6.5%。注目点は、通貨安により国内でインフレが加速したことを受け、9月に中央銀行はほぼ11年ぶりに利上げを開始し、今後も追加利上げの実施が見込まれていることだ。    

ベトナム経済成長率見通し(出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

 

小売売上高:高水準を維持している。9月の小売売上高は、前年同期比+36.1%と8月の同+50.2%からは減速したものの、6か月連続で伸びが2桁台となった。COVID-19抑制のためのロックダウンが実施された前年同月の反動で大幅に増加、特に入国制限の緩和に伴い観光が同+3,106.2%と急回復が続いている。今後も内需を押し上げ、好循環を維持するとみられる。

 

生産:回復が続いている。9月の鉱工業生産は、前年同月比+13.0%と5か月連続で2桁台の伸びとなった。生産が落ち込んだ前年同月の反動も影響している。特に内需拡大と半導体不足の解消が進み、自動車(二輪含む)は同+98.4%だった。一方、携帯電話は、同▲7.9%だった。世界的なスマートフォン需要の減少を受け、サムスン電子の現地工場による出荷量の調整が続いていることが響いている。今後は、スマートフォンの減産の影響は続くものの、引き続き自動車関連や、外食店の営業制限の緩和を受けビールなどの飲食関連が増産され、全体を押し上げるとみられる。

 

貿易:輸出は好調を維持している。ただし、9月の輸出額は、前年同月比+10.3%の299億ドルと、8月の同+22.1%の334億ドルを下回った。最大の輸出品目である電話・電話部品が同▲6.8%と落ち込んだ一方、前年同月に南部のロックダウンの影響を受けて落ち込んだ反動で履物(同+165.1%)、繊維・衣服(同+24.1%)などの伸びが大きかった。輸入額は同+6.4%の288億ドルと、8月の同+12.4%の310億ドルを下回った。貿易収支は、8月の24億ドルから11億ドルに縮小した。先行きについては、世界的な需要減の影響を受け、輸出が鈍化する可能性がある。

    主要経済指標(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

 

物価:上昇している。9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.94%と、8月の同+2.89%から伸びが加速、2020年3月の同+4.87%以来の高水準となった。ガソリン価格などが反映される「交通」は同価格の引き下げにより上昇幅が鈍化したものの、通貨安が影響し全体的にインフレは加速している。今後は、政府・中央銀行によるインフレ対策により2022年のインフレ目標である+4%を大幅に超えることはないとみられる。

 

金融政策:利上げを開始。9月23日、対米ドルでのドン安の加速に歯止めをかけるため、政策金利を1%引き上げた(リファイナンスレートを4.0%から5.0%、ディスカウントレートを2.5%から3.5%)。利上げは2011年10月以来ほぼ11年ぶり。今後も、米国の利上げに伴い利上げを実施するとみられる。

 

財政政策:景気刺激策を継続。2021年の政府の財政収支のGDP比は▲3.5%(IMF)。2022年のIMF予測は同4.70%。経済成長に伴い2022年1~9月の政府歳入は前年同期比+22%と、通年予算の歳入の94%を達成している。今後も、付加価値税などの引き下げ、企業への融資支援、インフラ投資の増額などの景気刺激策が続くだろう。

物価(出所)ベトナム統計庁よりSCGR作成

 

 

為替(対米ドル):下落している。米国の利上げに伴い、ベトナムを含む新興国の通貨が下落基調にある。中銀は、9月7日に続き30日にも米国の利上げを背景にドン安に拍車がかかっているためドンの許容変動幅を切り下げ一定のドル安を容認した。今後も、ドン安が進むと予想する。

 

株価:下落している。7月初旬から8月下旬にかけ世界で最もパフォーマンスが良好な国の一つであったものの、それ以降世界的な株安を背景に地合いが悪化し下落している。先行きについては、内需が増勢し経済回復が続くとみられるものの、世界的な株安につられ下落基調がしばらく続く可能性がある。

為替・株価(出所)BloombergよりSCGR作成

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