「スーダンで国軍と準軍事組織RSFの衝突が勃発し治安が悪化」中東フラッシュレポート(2023年4月前半号)
調査レポート
2023年04月25日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2023年4月21日執筆
1.イスラエル:パレスチナや周辺諸国との攻撃の応酬
4月5日、エルサレム旧市街のアルアクサー・モスク内で、イスラエル警察がイスラム教徒の礼拝者を警棒やライフル銃で無差別に殴打する映像がSNSに流出した。イスラエル当局は、若者がモスク内に石や爆竹を持ち込んで立てこもったことが原因としているが、アラブ諸国はこの行為を非難。この事件で数十人が負傷し、400人以上が拘束されたとのこと。
これを受けて、4月6日にはガザやレバノン南部から数十発のロケット砲がイスラエルに対して発射された。イスラエルはこれらを迎撃し、同地域に対して報復の空爆を行った。また4月8日にはシリアから、イスラエルが1967年以来占領を続けるゴラン高原めがけてロケット砲6発が発射された。
4月7日にはヨルダン川西岸地区で英国からイスラエルに移住した入植者親子3人がパレスチナ人の銃撃を受けて殺害される事件や、テルアビブではアラブ系の男が運転する車が歩行者に突っ込む事件(イタリア人旅行者1人が死亡)なども発生しており、同地域での暴力の応酬が激化している。
2.スーダン:国軍と準軍事組織RSFの衝突が勃発し治安が悪化
4月15日、スーダン国軍と国内の準軍事組織である即応支援部隊(RSF:Rapid Support Forces)の間で衝突が勃発し、首都ハルツームを中心に16日も同国各地での戦闘が続いた。2日間の戦闘で97人が死亡、少なくとも670人が負傷した。被害者はほとんどが民間人とのこと。世界食糧機関(WFP)で働く国連職員3人も犠牲となり、WFPは同国での全ての活動の一旦停止を発表した。衝突の発端は、RSFの国軍への統合を巡る意見(統合にかける期間)の相違であるとされる。隣国のエジプトやチャドは国境を閉鎖。また空港でも戦闘が勃発し、国際線は運航停止になった。今後のさらなる暴力の拡大が懸念される。
3.サウジアラビア/イラン:中国において外相会談を実施
4月6日、サウジアラビア(以下、サウジ)のファイサル外相とイランのアブドラヒヤン外相が、7年以上ぶりとなる外相会談を中国政府の仲介により北京で実施した。同外相会談は、3月10日に同じく北京で発表された二国間の外交関係回復に向けたプロセスの1つであり、両国外相は大使館・領事館の再開について合意し、航空機の直接往来やビザ発給の円滑化などについても協議した。3月に中国仲介による合意が発表された際には、外交関係回復のプロセスが想定どおりには進まないのではないかとの声も聞かれたが、順調に進んでいるもようである。中国政府は、2023年後半に北京でイランと湾岸諸国のリーダーが出席するサミットの開催を提案している。
4.イエメン:サウジ政府及びオマーン政府代表団がイエメン入り
4月9日、サウジ政府代表団と仲介役のオマーン政府代表団がイエメンの首都サナアに到着し、反政府武装勢力フーシ派との停戦交渉を開始した。サウジ政府が公式に代表団をイエメンに派遣するのは、2015年のイエメン内戦への軍事介入開始以降初めてのこと。サウジは経済発展のためには地域情勢の安定が必要と考え、イエメン問題の解決に向けて舵を切った。イランの支援を受けているとされるフーシ派との交渉の開始は、サウジが3月にイランとの関係改善に動き出したことが背景にある。4月14日からの3日間のうちに、国連と赤十字国際委員会の支援の下で、イエメン政府とフーシ派の間で約900人近い捕虜の交換が行われており、和平の機運が高まっている。
5.シリア:アサド政権のアラブ連盟への復帰に向けて動き始めるアラブ諸国
4月12日、シリアのメクダード外相がサウジを訪問し、二国間の航空便や領事業務の再開手続きについてファイサル外相と会談を実施した。シリアの外相がサウジを訪問するのは、2011年のシリア内戦開始以降初めて。シリアのアサド政権は、2011年の反政府デモに対する厳しい武力弾圧を理由にアラブ連盟から資格を停止されたが、現在複数の加盟国がシリアの復帰を模索している。サウジ政府は、5月19日に首都リヤドで開催予定のアラブ連盟首脳会議に、シリアのアサド大統領を招待する方針だが、シリアが資格停止に至った問題はまだ解決されていないとして、カタールなど5か国はシリアの復帰に難色を示している。4月14日、湾岸諸国6か国とヨルダン、エジプト、イラクの外相/政府代表がジェッダに集まり、シリアのアラブ連盟復帰に関する事前協議を行った。
6.イラク情勢
- 内政・外交
- 4月4日、イラク外務省は、9年間閉鎖していた在リビア・イラク大使館を二国間関係強化のために再開することを発表した。
- 4月8日、クルディスタン自治政府(KRG)のバルザーニ大統領はバグダッドを訪問し、イラク政府のラシード大統領やスーダーニ首相などと会談。クルディスタン地域からの石油輸出再開、イラク予算法の成立、KRGとイラク政府の協力拡大などについて協議した。
- 4月9日、スーダーニ首相は、サダム・フセイン政権打倒20周年の日に、「何年にもわたる独裁、戦争、暴力や宗派主義の悲劇によってできた傷を癒すために、我々は改革を進めなければならない」との声明を発表。
- 4月14日、ムクタダ・サドル師は自身が率いるサドル潮流の政治活動を少なくとも1年間休止すると発表し、サドル師のTwitterアカウントやサドル潮流の事務所も閉鎖された。
- 4月14日、パレスチナ・イスラム聖戦運動(PIJ)のアル・ナカーラ事務総長がバグダッドを訪問し、ラシード大統領やスーダーニ首相との会談を実施した。同氏は人民動員部隊(PMF)が主催する「アル・クッズ・デー(エルサレムの日)」記念式典に参加するためイラクを訪問した。(アル・クッズ・デーはイスラエルによるエルサレム占領に抗議しパレスチナへの連帯を示す日としてイランが制定したもの)
- 4月15日、イラク議会は2023-25年度予算案の第2会審議を実施した。4月下旬のラマダン明け休暇後にさらなる議会での審議を経て、予算が成立する見込み。
- 石油・経済
- 4月2日、イラクやサウジを含むOPECプラス加盟7か国は、2023年5月から年末までの間、合計で日量115万バレル(bpd)の原油の自主減産を発表した。イラクの減産幅は21.1万bpd。3月後半にWTI原油価格が70ドルを切ったことが理由の一つとみられる。今回の減産は、OPECプラスが昨年11月から続けている200万bpdの減産に追加で行われる。因みに、イラクの3月の産油量は435万bpd。
- 4月4日、スーダーニ首相とバルザーニKRG首相は、3月末から止まっているクルド地域からのトルコへ抜けるパイプラインでの原油輸出を再開する協定に署名した(実際の原油輸送はまだ再開されていないとのこと)。
- 4月5日、イラク政府と仏Total Energies社は、2021年9月に発表されたイラクの270億ドルのガス成長統合プロジェクト(GGIP)の一部として、4つの石油、ガス、太陽光発電プロジェクトに100億ドル相当の投資を行う契約を最終的に締結した。同プロジェクトの権益比率は、Total Energies社45%、バスラ石油公社30%、Qatar Energy社25%。1GWの太陽光発電プロジェクトには、サウジのAkwa Power社も参画するとみられる。
7.リビア情勢
- 3月30日、バーバラ・リーフ米国務次官補は中東歴訪後のブリーフィングで、リビアにおいて2023年後半に大統領・議会選挙を実施するための合意形成を目指すバティリー国連特使の努力を全面支援すると述べた。また、ロシアのワグネル・グループを含む全ての外国人戦闘員や傭兵の国外退去を確実に実施し停戦合意が尊重されることが重要と述べた。
- 4月5日、選挙法の起草を協議する「6+6合同委員会(国家高等評議会(HCS)及び代表議会(HoR)からそれぞれ6人の代表者が参加)」の初回会合が、HCS本部で開催された。2021年12月から延期されている大統領・議会選挙は、2023年内の実施が想定されているが、ノーランド駐リビア米大使は「不安定化を招くような選挙プロセスは望まない」と述べ、大統領候補の資格要件をめぐる論争を解決する必要性を強調した。
- 4月8日、「5+5合同軍事委員会」がベンガジで開催され、自由で公正な選挙実施に貢献することを確認した。
- 4月13日、イタリア警察は、2022年1年間にイタリアに到着した不法移民は105,131人(前年から55%増)で、そのうち約半分の53,310人がリビアから、32,371人がチュニジアから到着したと発表した。
- リビアの3月の産油量は日量116万バレル(bpd)で、2月から変動はない。2022年9月以降、リビアの原油生産は114~118万bpdで安定している。
以上
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