クアラルンプール/マレーシア ~多民族国家マレーシア~

2016年01月19日

アジア大洋州住友商事会社 クアラルンプール支店
松野木 一士

> English Version

行政都市プトラジャヤのプトラモスク(通称ピンクモスク) (筆者撮影)
行政都市プトラジャヤのプトラモスク(通称ピンクモスク) (筆者撮影)

 11月に入って、数か月間マレーシアの空を曇らせてきた煙害(ヘイズ)も雨季の訪れとともにようやく沈静化し、日によっては熱帯雨林気候らしい、陽が燦々と降り注ぐ青空が戻ってきました。クアラルンプールの街並みは10月末のインドの祭日、ディパバリ(デバリ「ヒンズー教で最も重要な祭典」)に向けて、ホテルやショッピングモールなどでヒンドゥー教様式の飾り付けが施されます。そして、この祭日が終わると、クリスマスに向けて雪だるまやサンタクロースのオブジェが姿を現します。ややもするとまとまりがないように感じられるかもしれませんが、マレーシアはイスラム教を国教とするイスラム国家でありながら、ヒンドゥー教やキリスト教、仏教など、多くの民族の文化や宗教の要素を取り込んでいます。今回は、多文化・多民族が混在し、2020年の先進国入りを目指し発展を続けるマレーシアについてご紹介したいと思います。

 

 

• 「ハラル」市場のハブとしてのマレーシア

 2020年の東京五輪に向けて、日本でも「ハラル」という言葉の認知度が高まってきました。「ハラル」とはアラビア語で「許されたもの」、豚肉などは「ハラム」といって「禁忌」を意味します。イスラム教徒にとって"豚肉はご法度"ということはよく知られ、日本人はハラルというと"豚肉と飲酒を避ければよい"と考えますが、ハラルはもっと大きなことを包含しています。原料や製造工程、流通過程などにおいて、"「ハラム」が含まれない"と認められる商品についてのみ「ハラル」の認証を取得することができます。その認証プロセスは厳しいもので、特にマレーシアの「ハラル」認証取得は大変難しく、マレーシアで取得できれば他のイスラム諸国でも十分通用する、と言われており、まさに「ハラル」市場のハブの役割を担っています。

 

 「ハラル」商品は、食品や飲料品にとどまらず、化粧品や医薬品、ホテルサービスなど多岐にわたっています。その世界市場規模は100兆円と見込まれており、イスラム人口が年々増加傾向にあることも加わって、巨大マーケットとして注目されています。

 

 日本人にとっては、「ハラル」商品はイスラム法に沿わなければならずタブーが多い、というイメージがありますが、筆者自身実は新たな商品開発の可能性を秘めていると感じています。例えば、アルコールや動物由来の食品添加物を原料から除外することで、より健康に良い食料品が開発できる、といった具合です。実際、マレーシアに拠点を持つ日系の食品メーカーなどは、こうした「ハラル」のビジネスチャンスに果敢にチャレンジしています。最近では、アルコールを一切使用しない洗浄・除菌水を開発した中小企業がニュースで取り上げられました。また、当地旅行代理店がイスラム教徒の旅行者向けに旅先での飲食を、ハラル認証を受けているレストランに限定するパックを売り出すなど、実際のビジネスにつなげています。

 

 「ハラル」に沿って変化を加えつつ、良い物を取り込んでいこうというスタイルは、日本にも通じる、マレーシアの魅力の一つだと捉えています。

 

 

• 増加する海外からの移住者

バングラディッシュ人街の風景 (筆者撮影)
バングラディッシュ人街の風景 (筆者撮影)

 一方、マレーシアは海外からの出稼ぎ労働者や移住者の受け入れに寛容な国としても知られています。9年連続で日本人の住みたい国ナンバー・ワンに選ばれており、日本からの移住者はもちろんのこと、マレーシア周辺の発展途上国からの出稼ぎ労働者も大変多く、その数は約550万人、実に人口の約17~18%を占めていると言われています。

 

 マレーシアの外国人労働者受け入れは、経済成長に伴い1990年代以降拡大してきました。同政府は当初、一部業種に限り受け入れを行ってきましたが、外国人労働者を必要とする経済の実態に合わせ、規制を順次緩和するなどの措置を取ってきました。現在では建設現場、プランテーション、飲食店、家事労働、警備関連といったさまざまな業種での労働力不足を賄うために必要な存在となっています。その顔ぶれもインドネシア、インド、バングラデシュ、ミャンマー、フィリピン、ネパールなど、多岐にわたっています。

 

 こうした外国人労働者が稼いだお金を本国へ送金するニーズがあるため、マレーシアは東南アジアで最大の送金国になっています。またマレーシア中央銀行がマネーロンダリングやテロ資金防止を目的に、送金市場の発展と健全化を進めており、送金市場は年々拡大しています。当社が2009年から出資参画しているマーチャントレード社は、こうした出稼ぎ外国人労働者を対象に、本国への送金サービスや携帯電話サービスを提供しており、非常に多くのユーザーに利用されています。

 

クアラルンプールのランドマーク ペトロナスツインタワー (筆者撮影)
クアラルンプールのランドマーク ペトロナスツインタワー (筆者撮影)

  マレーシアは、マレー系、中華系、インド系、先住民族などが共存し、外国人労働者に加え、主に定年後の方々向けにMM2H(マレーシア・マイセカンドホーム)という10年間有効の長期滞在可能ビザが取りやすいプログラムを同政府が提供しているため、さまざまな人が一緒に暮らす多民族国家となっています。

 

 

• まとめ

 「ハラル」市場のハブとしての側面を持ちつつ、海外からの移住者受け入れに寛容なマレーシアは、自国の文化を守りつつも、多様性を受け入れていく、まさにグローバルスタイルの国家と言えます。これから数年後、さらなる経済発展と、国際情勢におけるプレゼンスの高まりを期待せずにはおれません。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。