ダッカ/バングラデシュ ~ベンガル人は魚と米でできている~

アジア・オセアニア

2016年10月17日

アジア大洋州住友商事会社 ダッカ事務所
山田 尚登

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家庭の普段のカレーと野菜とご飯の夕食(筆者撮影)
家庭の普段のカレーと野菜とご飯の夕食(筆者撮影)

 「ベンガル人は魚と米でできている」と言われ、1人当たりの米の消費量はなんと世界一、1日480グラム、おにぎりで10.5個分(日本人は50位でおにぎり2個分)を毎日食べている、)米が大好きな人口約1億6,000万人の国、それがバングラデシュです。

 

 

ヒマラヤ山脈の南に位置し、メグナ・パドマ・ジャムナの三大河川のみならず国土全体に小さな川が網の目のように張り巡らされています。ヒマラヤ山脈の大いなる中州としてその雪解け水が毎年流れ込むことや、雨季にたびたび来るサイクロンなどによる河川の狂気的な氾濫は、人々を苦しめる一方で、栄養を十分に含んだ泥水をその広大なデルタ地帯に注ぎ、農作物を育てるのにうってつけの肥沃(ひよく)な土地をつくりあげるという自然の恵みももたらしています。

また、熱帯モンスーン気候帯に属し、気温は年間20~35度、乾季もあるものの年間降水量2,000ミリメートルと農業に適した環境です。

 

 

 人口の約45%が農業で生計を立てており、約80%の農地は米作用になっています。それでもちょっとでも干ばつもしくは大洪水になると米が足りずに海外から輸入する年もあるほどで、米はバングラデシュの人々にとって富ともてなしの象徴であるとともに決して欠かすことのできない唯一無二の食材です。食事は昔も今も家庭でとるのが一般的で、またバングラデシュ社会の中で親族・友人・地域での集まり、ビジネスの中心にあり、そして大量の米が主食としていつでもそこにあります。

 

 

ダッカ市内の交通渋滞(筆者撮影)
ダッカ市内の交通渋滞(筆者撮影)

 今のダッカの町は人口密度世界一、とにかく人・リキシャ・三輪車・自動車にあふれまさに喧騒都市(けんそうとし)ですが、ちょっと郊外に出るともうそこには一面の田園風景が広がっています。ダッカの郊外に位置する昔の首都ショナルガオンはベンガル語で「黄金の場所」という意味で、ここでいう黄金とはゴールドではなくまさに稲穂の色を表していて、いかに昔から米に支えられてきた地域だったかがわかります。

 

 

 現在では都市部の富裕層ならびに若年層を中心に米食離れが進んでおり、朝食には小麦粉を練って作るルティやヌードルを食べることが一般的になりつつありますが、昼食・夕食は今でもやっぱり米食です。日本同様炊き上げた山盛りの米を魚、肉、野菜のカレー、豆のスープ(ダル)などの副菜と一緒に食べるのが今でもほとんどの家庭で見られる光景です。ほかにもビリヤニと呼ばれるピラフや米ベースのスイーツなど米料理のレバートリーは数多くあり、またベンガル正月には「パンタバット」と呼ばれる水に入ったご飯と淡水魚であるヒルサを揚げたシンプルなものを食べるのが慣わしになっています。

 

 

 ただ、不思議なことに、米という炭水化物を大量に摂取しているにも関わらず、「世界一肥満じゃない国はバングラデシュ」という調査結果が英国で発表されています。炭水化物ダイエットがはやっている昨今、かなり驚くべき調査結果です。確かに農民、リキシャこぎ、建設労働者を見るとひきしまった細マッチョな体型がほとんどですが、都市部のオフィスワーカーを見ると「歩かない」「夕食は寝る前の夜10時ごろからが一般的」「揚げ物が好き」「甘いお菓子も大好き」「運動は全くしない」であり、一様に中年男性・女性のおなかはぽこっとでています。残念ながら、世界一肥満じゃない国を卒業するのは遠い将来のことではないように感じます。

 

 

 豊富な労働力と安価な人件費を武器に、ファストファッションの供給源として繊維産業の発達とともに堅調な経済成長が続き、人々の暮らしが日に日に豊かになっている状況下、食事の内容もだんだんと欧米化されつつありますが、バングラデシュの人たちにはいつまでももりもりと米とカレーを手で混ぜ合わせながら食べ、家族・友人とおしゃべりをして、ほほ笑みながら過ごしていってもらいたい、昔ながらの生活スタイル、米を中心とする食文化を維持していってもらいたいと、勝手ながら願っています。

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