ハノイ/ベトナム ~ベトナム徒然草~

2017年02月15日

ベトナム住友商事会社
辛島 裕、 山岡 大祐

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• プロローグ

休日のハノイ市中心は歩行者天国となる(筆者撮影)
休日のハノイ市中心は歩行者天国となる(筆者撮影)

 ベトナムといえば、バイクの喧騒(けんそう)、ベトナム料理、ベトナム戦争……が一般的な印象ではないでしょうか。意外かもしれませんが、その首都であるハノイは特に欧米人の人気旅行スポットであり、クリスマス休暇になると、ハノイは涼しくて非常に過ごしやすいシーズンを迎えることもあり、町は観光客で溢れかえります。ベトナムを訪れる外国人訪問者数は年々増加傾向にあり、2016年は1,000万人規模になっています。

 

 ベトナムの1人当たりGDPは過去10年間で約2.5倍になり、今後5年以内に現在の2,000ドルから2倍の4,000ドルも視野に入ってきています。インフラ開発も計画から実行段階に移されてきており、日本の高度経済成長期のごとく成長が手に取るように実感できるのです。ハノイは未来への希望であふれている町といっても過言ではありません。

 

 

• 魅惑のハノイ

クリスマスに賑わう大教会前(筆者撮影)
クリスマスに賑わう大教会前(筆者撮影)

 ハノイっ子は写真が大好き!皆さん町角で人目も気にせず思い思いのポーズを決めてスマートフォン片手に写真撮影する姿をあちこちで見かけます。もちろん、SNSへのアップなんてお手の物です。名物バイクの大群は相変わらずですが、最近では何とバイクタクシーのインターネット配車サービスも始まっています。ハノイは共産党一党独裁の社会主義国の首都ですが、人々の生活様式はイデオロギーの壁を越えつつあるのかもしれません。

 

 「ベトナムは5000年の歴史」という言葉があります。ハノイ周辺には神話や伝説のレベルも含め数多くの史跡が残っています。ハノイの旧市街地を散策すると、漢詩が綴(つづ)られた仏教寺院、11~17世紀の諸王朝の王宮、フランス植民地時代のオペラハウスや大教会に遭遇できます。長い長い歴史と文化の流れが凝縮しており、それらを一挙に体感できるのです。

 

ベトナム最初の国家を治めたとされるフン王のお墓(筆者撮影)
ベトナム最初の国家を治めたとされるフン王のお墓(筆者撮影)

 ちなみにベトナムには8つの世界遺産(文化遺産5件、自然遺産2件、複合遺産1件)があり、いずれも一見の価値がありますが、ハノイはこれら世界遺産のゲートウェイ都市でもあるのです。

 

 旧市街を除くと、ハノイの町並みはインフラ開発が進み、刻々と変化を遂げています。しかしベトナム戦争はいまだ人々の心に深く刻まれています。旧北ベトナムは255万トン(日本が太平洋戦争で受けた約20倍の量)もの想像を絶する被弾をしています。ベトナム戦争の資料や写真を見て、言葉を失い、人生を見つめなおしたという人も少なくありません。そして、ハノイの町や人々はまさにこの現代史の生き証人なのです。

 

 ハノイはそんな過去と現代が心地よく混じり合い未来に向かう町であり、ハノイで感じる空気と時間が何より多くの人を魅了しているのかもしれません。

 

 

• ベトナム語悪戦苦闘物語

 ところで、同地の日本人派遣員が悪戦苦闘しているのがベトナム語の習得です。ベトナム語は何と6声から成り、声調によって意味が全く異なる言葉が多数あります。つまり、カタカナ言葉では意味が通じないのです。例えば、同じ「マー」でもma(幽霊)、mà(しかし)、má(頬)、mả(墓)、mã(記号)、mạ(苗)と、6つの意味がありそれぞれ(6つの)異なる声調が存在するわけです。タクシーに乗車した時、何度も発音の練習を重ねた自宅の住所を告げたら、運転手さんに悪意はないのだけれど、全然違う場所に連れて行かれたなんてことはよくある話です。ベトナムの住所などは口頭ではなくキチンと紙に書いて伝えることをお勧めします。

 

 ちなみに、ベトナム語には漢字の音読みから派生した言葉も数多くあり、例えば、「注意」は「chú ý(チューイー)」、「衣服」は「y phục(イーフック)」といった具合で、日本人にはとても親近感の湧く言葉もあることも言い添えておきます。

 

 

• 信頼のニッポン

 このように日本人のベトナム語は全く通じない一方で、ハノイのベトナム人が日本語を話してくれるという、昔のハノイでは考えられなかった現象も起き始めています。現在、日本で学ぶベトナム人留学生は3万8,000人に達し、国別では中国に次ぐ2位の規模となっています。実はベトナムは世界屈指の親日国なのです。日本のどこが好きなのかという点については、「信頼」をあげる人が多くいます。私たちも負けずにベトナム語の習得に励まねばと反省し、さらには、ベトナムの皆さんの期待を裏切らぬよう、襟を正して仕事や生活を営んでいかねばならぬと叱咤激励される気分にもなってしまいます。

 

 

• ベトナム健康オタク

オバマ前大統領もハノイで食したハーブたっぷりのブンチャー(豚肉入りつけ麺)(筆者撮影)
オバマ前大統領もハノイで食したハーブたっぷりのブンチャー(豚肉入りつけ麺)(筆者撮影)

 ベトナム人の平均寿命は2014年時点で75.63歳です。一般的に所得と平均寿命には一定の相関関係があると言われますが、ベトナムはASEANではシンガポール、ブルネイに次ぐ長寿国であり、近隣諸国を大きく上回っています。もちろん、さまざまな背景や要因はあるのでしょうが、概してベトナム人は健康に関心の高い人が非常に多い印象です。ベトナム料理はハーブ類を多く使いますが、ベトナム人と一緒に食事をすると、このハーブは肝臓に良いとか、一つ一つの料理やハーブに関して長い講釈(内容は医学的なものではなく、おばあちゃんの言い伝えだとか、自分が試したら効いたなどの主観的な話なのですが)を受けることがままあります。「最近、ちょっと疲れている」なんてポロッと漏らすと、「良いハーブを知っているから今度持ってきてやるよ」と真面目に言われるのは典型的な会話です。私はベトナム人の健康オタクを優しさの一面と理解しています。

 

 また、最近ではベトナム人が日本の食材に熱い視線を注いでいます。2015年から日本産リンゴの輸入が再開されましたが、なぜベトナム人が日本のリンゴに飛びついたのでしょうか?確かにベトナム人は赤を幸福の色と考えているのは事実ですが、最近、青森県のリンゴ関係者の方からリンゴの売り文句である英国の古いことわざを教えてもらい妙に納得してしまいました。

"An apple a day keep the doctors away"(1日1個のリンゴで医者いらず)

 

 

• エピローグ

 ベトナムは南北に約1,650キロメートルもある縦長の国で、北部、中部、南部と変化と多様性に富み、ベトナムを一言で語ることは容易ではありません。ということで、ハノイの今を伝えるべく、最近、目に留まった話題を徒然なるままに幾つか紹介しました。

 

のんびりと湖を眺める外国人観光客や地元の人々(筆者撮影)
のんびりと湖を眺める外国人観光客や地元の人々(筆者撮影)

 ベトナム戦争はいまだに南北の人々の間に「しこり」を残していることは多くの人が認めるところです。今後、ベトナムは経済が発展して物資があふれた豊かな国になることは間違いありませんが、ベトナムの人々の心が時間とともに癒えていかねば、豊かとは言えないかもしれません。その意味では、本当に豊かな国への国づくりは、これからが始まりなのかもしれません。縁あってベトナムと関わりをもつことになった私たちがわずかでもできることは何だろうか、初冬のハノイの心地よい風に吹かれながら考えるのも一興です。

 

以 上

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