ムンバイ/インド ~インドEV化はリキシャから~

2018年01月10日

インド住友商事会社 ムンバイ支店
武藤 健

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 1年ほど前の2016年11月8日夜、モディ首相が高額紙幣の無効を突然発表し、翌9日からインド全土で使えなくなったことは記憶に新しいところです。インドのビジネスパーソンが交渉を優位に進めようとこちらが予期せぬ材料を持ち出してくるのには慣れていたはずですが、この奇策には驚かされました。しかしこの結果、偽造紙幣や不正蓄財の焙り出しに加え、電子マネーの普及が進むなど効果が出ているので感心します。もう一つ海外から奇策に近い見方をされているのが、インド政府が2016年6月に発表した2030年までに販売する全ての自動車を電気自動車化するという目標ではないでしょうか。これは2013年に策定した「国家電気自動車ミッション計画2020」に端を発しており、2020年までにEV/HVの合計で年間販売台数を最大700万台とする目標を掲げていますが、現時点でEV乗用車を商業生産しているのはMahindra Electricだけであり、あと2年での実現は不可能という声が多い。しかし、この数字にバイクとリキシャが含まれていることを考えるとあながち無理とは言い切れないかも知れません。

 

市中を走るリキシャ(筆者撮影)
市中を走るリキシャ(筆者撮影)

 リキシャが日本からインドに伝わったのは1880年頃とされ、1919年にコルカタ市が最初に乗用として正式認定して以来、庶民の足となり人力車、サイクルリキシャ、オートリキシャへと進化を遂げました。人力車方式は今ではコルカタに数台残るだけとなり、1989年のインドで、筆者の主要移動手段だったサイクルリキシャも最近ではほとんど見かけなくなってしまいました。

 

 オートリキシャはBajaj Auto Limitedが1961年にPiaggio & C. S.p.A.(伊)の下請生産を始めたのが最初で、現在でも同社が50%以上のシェアを占め、Piaggio 30%、Mahindra&Mahindra(M&M)10%と続きます。この他Atul、TVS、Scooters Indiaなど13社が名を連ね、全体として50~55万台/年規模で推移しています。一方、E-リキシャに関してはBajaj Auto Limited、M&M、Kinetic Green、日本のTerra Motorsが有名ですが、この他、Atul Auto、Lohia Auto、Speedways Electric、Bestway Agencies、Mac Auto India …など既に多くのメーカーが存在しています。

 

 筆者はこうしたリキシャがインドのEV化を牽引すると考えています。まず、インドでは2011年頃から手軽な価格の中国製E-リキシャが急増し、2012年4月時点のデリーでは10万台以上が走っていたという事実があります(ただし対応する法整備が遅れ一時禁止。その後法整備され2015年に禁止解除)。次に、2012年にはリキシャの燃料をガソリンから圧縮天然ガス(CNG)に一気に切り替えたという実績もあります。CNGへの切り替えには、当時既に問題になっていた都市部の大気汚染対策と石油価格の上昇という要因があり、政府がガソリンリキシャを規制すると同時にCNGリキシャに補助金を提供したことが大きいです。EV化に関しては環境面からの要求に対して二次電池コストがネックとなっており、四輪EVについてはさらなる補助政策と規制強化が待たれますが、リキシャの場合、鉛二次電池でEV化が可能であること、保守の手間やコストが軽減され、かつ、電力価格がガソリン価格よりも安価なことから、経済面でも切り替えを後押しする要因があると言えるのではないでしょうか。  

 

カラフルなリキシャ(筆者撮影)
カラフルなリキシャ(筆者撮影)

 ただし、CNG化の場合、既存のガソリンスタンドが提供できたのに対し、EV化に向けては現段階ではバンガロールやナグプールなどの一部都市を除き充電設備が確保されていないという問題があります。また、鉛電池E-リキシャは現在既に全国で60万台超が走行しているとされますが、電池のフル充電に8~9時間を要しています。充電設備の確保に関しては最近になりインド石油公社が自社の給油所に充電・交換設備を併設するとし、Tataが今後5年間にデリー市内に1,000か所設置するなど官民を挙げた取り組みが出てきています。充電時間に関しても海外企業とのJV(ジョイントベンチャー)を通じた技術取得の動きも見られます。インド政府が掲げるEV化の目標を実現させるにはE-リキシャの普及が必要でしょう。そしてそのためには高速充電交換設備の設置が鍵となってくるでしょう。2020年までにどこまで変われるか、大いに楽しみです。

 

追伸: カラフルなE-リキシャが颯爽(さっそう)と街を走る姿は楽しみですが、騒々しい警笛も何とかしなくてはなりません。"奇策"が待たれます。

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