カラチ/パキスタン ~最後の桃源郷を擁する農業大国~

アジア・オセアニア

2021年08月03日

アジア大洋州住友商事会社 カラチ事務所
室井 将孝

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カラチ市内の家並み。現時点で高層と呼べる建物は数えるほど。(筆者撮影)
カラチ市内の家並み。現時点で高層と呼べる建物は数えるほど。(筆者撮影)

 筆者の駐在地カラチはパキスタン南部に位置し、国の海の玄関たる商用港と1,600万人超もの人口(2021年現在)を有する同国最大の商業都市です。パキスタン当局の努力により、ここ数年でカラチの体感治安は大幅に改善され、近寄らぬようにするべき場所や避けるべき行動などを把握していれば、普段の生活の中で脅威を感じることはありません。それでも外国人居住者にとってセキュリティの観点から街の中を自分の足でぶらぶら歩けるような環境ではなく、筆者の生活圏は自宅と業務関係先の往来をベースに食料・日用品調達のためのショッピングモールと外国人居住者でも行きやすいレストランなどが加わるくらいの文字通りシンプルライフです。カラチで生活していて良かったと素直に感じることの一つは種類が豊富で品質の良い新鮮な野菜や果物が安価で手に入りやすいことです。GDP構成の約4分の1が第一次産業である農業大国パキスタン。さらなる品種改良と流通拡充によりやがて日本のスーパーにもパキスタン産の農作物が普通に並ぶ日が来るかもしれません。

 

 

海にせり出したデッキ上にダイニングテーブルのあるパキスタン料理店。(筆者撮影)ここ数年外食産業の発展も著しく、味や店の雰囲気も国際水準に迫りつつあります。
海にせり出したデッキ上にダイニングテーブルのあるパキスタン料理店。(筆者撮影)ここ数年外食産業の発展も著しく、味や店の雰囲気も国際水準に迫りつつあります。

 日本から遠く離れたパキスタンでは想像以上にMade in/by Japan(純粋な日本製と日本企業による現地生産を含む)が浸透していました。

 例えば、パキスタンの乗用車市場では日系自動車メーカー3社がマーケットシェア9割以上を占める状況が永年続いており、自動車に限らずパキスタン人の「日本品質」に対するある種無条件の信頼は今も根強いです。とかく海外では東アジアの国々は違いが分かり難いのか一緒くたに扱われがちな中、企業ブランドの優良イメージが日本の存在感を際立たせ、親日感情の定着を促しています。余談ながら、休暇で日本に一時帰国の際に、日本からパキスタンまでの距離6,303キロメートルを飛行機を乗り継いで戻り、パキスタンの友人に持ち帰った土産のなかで一番人気はカステラでした。常温で日持ちがしてしっとり柔らかな半生菓子はパキスタンにはないので、喜ばれる理由も納得できます。

 

 

 

フンザ地方の明媚な風景(筆者撮影)
フンザ地方の明媚な風景(筆者撮影)

 パキスタンは想像していた以上に多くの観光資源に恵まれた国です。歴史の授業で習った「モヘンジョダロの考古遺跡」を含め、世界遺産として登録されているパキスタンの文化遺産は6つあります。その中でも個人的に強く印象に残ったのは首都イスラマバードから車で1時間強の場所にある「タキシラ遺跡群」です。シルクロードに続く道が交差する場所に位置し、イスラム教国であるパキスタンに、歴史的にも重要な仏教遺跡が今も保存されています。世界遺産以外で個人的に良い思い出なのがパキスタン北西部、現代に残る最後の桃源郷ともうたわれるフンザ巡りで、春は薄紅色の花が桜のように咲き誇る杏の花、夏は渓谷を彩る青々とした木々、秋は赤や黄色に染まる紅葉、冬は雪化粧の山岳と、四季折々の色彩豊かな景観が楽しめます。カラチ在住の駐在員有志が企画する小旅行に声を掛けてもらってのいわば受動的な参加でしたが、「きれいな風景は写真で楽しめばいいや」派であった筆者の固定観念を完全に変えるほどのインパクトがありました。写真4点はフンザ巡り時に筆者が撮影したものですが、景色のどこを切り取っても絵になります。

 

 この文章に触れたことがきっかけで皆さんに少しでもパキスタンに興味を持ってもらえること、そして、パキスタン経済が安定成長の一途をたどり、親日家で人懐っこいパキスタンの友人たちにこれからも多くの幸が訪れることを心から祈っています。

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