天津/中国 ~華北の玄関口、漫才の都、そして河畔のビール~

アジア・オセアニア

2022年07月01日

天津住友商事会社
大坪 浩

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市民の憩いの場、海河河畔(筆者撮影)
市民の憩いの場、海河河畔(筆者撮影)

 天津は、山形県、秋田県とほぼ同じ北緯39度に位置する華北地方の中心都市であり、行政上は、北京、上海、重慶と並び省と同格の政府直轄市のひとつです。首都北京からは高速鉄道でわずか30分、周囲を取り囲む河北省と共に首都圏を形成しています。

 天津人の印象としては、人情味に富み、懐が深く、余裕のある雰囲気をまとったサッパリした性格、という感じでしょうか。北京のお膝元にあるという地理的な背景もあり、ぐいぐい前面に出て物事を取り仕切る、というふうに必ずしもならないのは、そういう気質からくるものもあるかも知れません。

 

 天津は歴史的に貿易と金融で発展を遂げ、工業面では、紡織、製紙、たばこ、食品などから興り、製鋼、機械、石油化学など重工業が急速に発展、今では自動車、電子情報産業、航空宇宙などの重要な製造拠点になっています。ここ6~7年、中国の他都市と比べると若干経済成長が停滞しつつある天津ですが、北京市、天津市、河北省を一つの経済圏として発展・再開発を目指す「京津冀一体化構想」推進の本格化が見込まれています。非首都機能の移転促進に伴い、さまざまな産業の製造拠点や次世代情報技術、省エネ環境、医療、教育、研究機関などの分散開発の進展が予想され、華北最大の港湾都市でもある天津は、貿易・金融サービス面の整備を含め改めて重要な役割を担う事が期待されています。また、2021年他5都市と共に「中日地方発展協力モデル区」に指定され、健康産業に着目した重点開発も開始しています。

 

 

天津名物「相声泥人形」(筆者撮影)
天津名物「相声泥人形」(筆者撮影)
「運転中のギャグ危険」天津ならではの交通標識(筆者撮影)
「運転中のギャグ危険」天津ならではの交通標識(筆者撮影)

 そんな天津はお笑いの都でもあります。日本の漫才に当たる「相声(そうせい; xiang sheng)」は明代から続く中国の伝統芸能のひとつですが、天津で現代相声が確立されました。インターネットなどの普及に伴い一時下火になっていましたが、2008年に相声を国家無形文化遺産に登録させた最大の功労者といわれる天津出身の郭徳鋼(1973年~)が相声集団「徳雲社」を立ち上げ新世代の相声を広めてから、全国に一大相声ブームが巻き起こっています。市内各地にある相声茶館(日本でいえば寄席に相当する)ではお茶を飲みながら掛け合い相声を楽しむ市民でどこも大盛況です。過去複数回の来日公演を実施し、日本にも多くのファンを獲得した相声と徳雲社が、コロナ終息の暁には、改めて日中文化交流の懸け橋として大いに活躍する事を楽しみにしています。

 

 

"中国のウォールストリート" 解放北路(筆者撮影)
"中国のウォールストリート" 解放北路(筆者撮影)

 かつて9か国の租界があった天津には多くの歴史的な洋風建造物が大切に保存されており、今でも名士の邸宅や、カフェ、レストラン、博物館などに再利用され落ち着いた佇まいを現在に伝えています。旧英国租界の「五大道」がその中心ですが、そこから北に2キロメートルほど伸びる解放北路は、かつて中国のウォールストリートといわれた金融街であり、市内を流れ市民の憩いの場にもなっている海河(かいが)に沿って重厚な建造物が立ち並んでいます。

 

 桃や花海棠(ハナカイドウ)が咲き誇る4月の短い春が過ぎると天津は早くも初夏の暑い季節を迎えます。海河のほとりでかつての金融街の建造物群を背に冷えたビールを飲みつつ、天津の在りし日の姿、そして今と未来に思いをはせる―これが筆者のかけがえのない至福の時であります。

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