モスクワ/ロシア ~ ロシアの現況と展望~

2015年03月03日

CIS住友商事会社 モスクワ本社
中野 敬司

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モスクワ 赤の広場、青い空、 特設スケート場、 子供達とクレムリン  2015年2月 (筆者撮影)
モスクワ 赤の広場、青い空、 特設スケート場、 子供達とクレムリン  2015年2月 (筆者撮影)

• 4度目の経済危機

 ロシアは、ソ連崩壊直後1992年の経済危機、1998年の財政危機、2008~2009年のリーマンショックと過去3回の危機を乗り越え、モスクワ等大都市の町並みは美しく輝き、高級車が大量に走り、お洒落なレストランには笑顔が溢れ、大規模なショッピングモールは買い物客で混み合う光景が日常となりました。成長を支えてきたのは世界第二位の生産量を誇り、ロシアの輸出総額の約7割を占める石油と天然ガスです。

 

 しかしながらウクライナ問題に起因する対露制裁、石油価格下落、ルーブル通貨の下落により、ロシアは今4度目の危機に直面しています。

 

 過去、ロシアの人々は危機対策として、手持ちのルーブルを外貨に替えたり、資産価値の高いものを購入してきました。特に、自動車は手軽な資産保全策として人気が高く、対ロシア制裁が厳しくなった2014年8月、9月は前年比20~25%減となり、このまま年末まで続くのではないかと危惧されていたのですが、10月から一転売れ出し、第4四半期は前年並み71万台*の販売を記録しました。特に12月はこの2年間で最も売れた月になりました。通常12月はその年度生産の車を在庫で残さないようにディーラーが特別値引きをするので、より多く売れるようですが、昨12月はディーラーが値引きをしなくても飛ぶように売れた、ということで特筆すべき月でした。

 

 預金も増えています。個人預金総額は2014年12月現在、18兆ルーブル(約32兆円)、2年間で4.7兆ルーブル増加しました。個人の借入総額は約11兆ルーブルですが、外貨での借入は総額の3 %弱しかありません。当地の人々は危機を感じながらも、慌てずしっかりと生活防衛しているようにみえます。

 

 他方、市中銀行、企業の対外債務は、2014年6月末で合計6,580億ドルに達しています。外貨準備の約2倍で、この点は要注意です。ロシア政府は、危機対策として年間の国家予算の16%程度に相当する2兆3千億ルーブル(約365億ドル)を今後2年間で支出する計画の具体案を策定中です。

 

 

• 国内産業発展のチャンス到来

 制裁の影響は深刻です。ルーブル下落と高金利も重なり、中長期資金の手当てが困難で、設備投資を先送りするロシア企業が増えています。石油・ガス分野をはじめ、海外からの投資にもブレーキがかかっています。一方、欧米産食品の輸入禁止で、国内食品産業は元気です。当地のビジネス誌Expertの2014年10月の報道では**、乳製品、 鶏・豚・牛肉 、魚、野菜は70~80%、チーズ、果物は40~50%がロシア産で、店に品薄感はありません。

 

 また、ルーブル下落を機にロシア企業自身が輸入を減らして国内品に切り替える検討を始めています。経済制裁が背中を押し、これまで長年の課題であった産業構造の転換が皮肉にも回転し出した感があり、そこには新しいビジネスチャンスも生まれるはずだと感じています。

 

 

• ロシアの将来

 ロシア人の寿命が伸び続けているのも明るいニュースです。2013年時点で定年に達した男女(60歳/55歳)の寿命は男77.7歳、女80.4歳と推定され、8年前に比べ、それぞれ 2歳半伸びています。

 

 赤ちゃんも増えています。0~4歳児が2013年末で890万人と、10年前よりも220万人増加しています。ロシアの人達は教育レベルが高く、総じて真面目、お人好しで、忍耐強い国民だと思います。明るい未来が期待できる国ではありますが、今は、まずウクライナ問題の解決、国際緊張の緩和が急務です。

 

 

 ( *AEB データ。**ロシア政府データ。注書きの無いデータはロシア連邦統計局公表値)

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