デュッセルドルフ/ドイツ ~欧州の盟主ドイツ~

2015年10月14日

ドイツ住友商事会社
坂井 洋一

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 最近のドイツは、ウクライナ東部における休戦協定の仲介やギリシャ危機における原理原則を貫く態度、バルカン半島経由で大挙して押し寄せる難民対策などで主導的な対応をして、国際的なプレゼンスが高まっています。国家財政も2015年度はシュバルツ・ヌル、つまりゼロ黒字で財政均衡を成し遂げ、 2016年も1兆3千億円もの難民対策の補正予算を組んでも単年度財政均衡が可能であると財務大臣は公言しています。対ロシア制裁で輸出がその分減っていますが、それでも全体として企業業績は良く、税収が伸びています。しかし、今後は中国バブルの崩壊やフォルクスワーゲンの不正問題がどの程度影響してくるのか注意を要するところです。

 

 

• 再生可能エネルギー普及先進国

デュッセルドルフ近郊の広大な褐炭の露天掘り現場 (筆者撮影)
デュッセルドルフ近郊の広大な褐炭の露天掘り現場 (筆者撮影)

  ドイツが欧州の盟主的な存在になっている他の例として、再生可能エネルギ-普及を大きく進めるために積極的な政策を導入し、それを結果に結び付けていることが挙げられます。既に総発電量の約28%が再生可能エネルギ-による電力です。2022年には全原子力発電所の稼動を停止する一方、2020年に再生可能エネルギ-による供給電力のシェアを35%、2030年には50%、そして2050年には80%にするという意欲的な目標を掲げています。日本での導入がまだ1桁台にとどまり、2030年の目標を20%以上としているのとは大きな違いです。

 

 導入促進策で風力発電や太陽光発電の普及が進みました。太陽光発電に至っては欧州で2015年3月の昼間に起こった45分間の部分日食による発電量の変動を補うべく、電力会社が普段以上に火力発電を短時間で出力を上げ下げし、需給調整をするために特別な体制を敷いたほどです。ちょっと考えれば当然のことですが、広範囲の地域で一気に日射量が増減する事態はこういったところに影響が出てきます。

 

 再生可能エネルギ-導入をこれだけ進めていることは素晴らしいことですが、それに伴い、対策を講じる必要がある問題も出始めています。例えば、風が強く吹き、快晴の天気である地域が広い場合、電力会社の火力発電を最低出力の限界状態で運転しても電力供給量が総需要より過剰になる時間帯が生じる日が出てきています。電力需給バランスが崩れればブラックアウト(大規模停電)発生の可能性もありますが、日本と異なり周辺国と電力系統が接続されているので、周辺国に引き取ってもらい少なくともそのリスクは回避しています。 

 

 ドイツとオーストリアは卸電力市場が統一されていますが、ドイツの電力会社はマイナス価格で余剰電力を販売し引き取ってもらい、揚水発電所を有するオーストリアの電力会社はお金も電力ももらえるといういびつな構造です。さらに、北海とバルト海の風力発電による豊富なドイツ北部の電力をドイツ南部の大需要地に送電する容量が既存の電力系統では不十分なため、オ-ストリアへの売電はドイツ南部の火力発電所を稼動させて売電義務を果たしています(つまりドイツ北部の余剰電力はドイツ南部に送電しきれず、オランダやポ-ランドに送電しています)。

 

 ドイツの電力会社は、再生可能エネルギー法で再生可能エネルギーによる電力を優先的に電力系統に受け入れなければならない状況にあり、自社の火力発電の出力を絞り、売上利益も減少、上記のような状況下では赤字になります。 

 

 

高い負担を受け入れる国民

褐炭の採掘現場近くにある風力発電用風車 (筆者撮影)
褐炭の採掘現場近くにある風力発電用風車 (筆者撮影)

  卸電力の先物市場では風況や晴天率が良いと予測された場合、供給過多を見込んで市場価格が下落します。火力発電設備を有する電力会社は下落した卸市場で少しでも利益を出すために環境性能よりもコスト重視で、燃料代はガスより安いがCO2排出量が多い石炭や褐炭だきの発電設備を動かし、最新鋭の高効率ガスコンバインドサイクル発電設備を休止するという皮肉な事態になっています。さらに最新鋭の高効率ガスコンバインドサイクルを当面稼動させる見込みが無いため、決算で減損処理まで強いられ赤字幅が拡大するという踏んだり蹴ったりの状況にあります。

 

 卸電力市場価格の下落の一方で、電力の最終需要者が負担する電力料金が再生可能エネルギ-導入促進策に必要なコストの上乗せのために割高になっていることは既によくマスコミで報じられている通りです。最新の報道によれば、4人家族の一般家庭が1か月に支払う電気料金が2014年の約85ユーロから2015年は約84ユーロへと、この15年間で初めて減少しました。再生可能エネルギ-導入補助のための上乗せも1kWh当たり平均6.24ユーロセント(ユーロセント=0.01ユーロ)から平均6.17ユーロセントになり、制度が導入された2000年以降で初めて下落しました。再生可能エネルギ-による電力の買い取り価格の上昇が落ち着いたこと、特に太陽光発電と陸上風力発電が新規稼動案件から大幅に買い取り価格が低下したことも結果に結びついています。約84ユーロ/月の電力料金の約52%は電力そのもの以外の税金や系統増強に必要なコスト、さらに前述のドイツ逆ザヤでオーストリアに販売するという卸電力市場の構造によるコストの上乗せなどが占めています。

 

 このようにいろいろなゆがみが出ているものの、ドイツの消費者団体がクレ-ムの行進をするなどという動きは全く無く、再生可能エネルギ-の導入は国民の支持を得ています。

 

 難民の受け入れも一部で右翼的な反発が既にあり、今後の難民流入の規模次第で状況は変わるかもしれませんが、国民の大多数は現在のところ国が主導する難民支援に賛成とのアンケ-ト調査結果がつい先日出ています。このような割り切り方、とにかく主義や目的を達成するために多少乱暴でもまず施策を実行に移し、何か問題が生じればその時に対策を考える、というのがこの国の性格であり強みなのかもしれません。対ロシア対策、ギリシャ危機、難民問題、イスラム過激派によるテロの脅威などさまざまな問題に直面しているドイツ。今後の采配を注視していきたいと思います。

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