マドリッド/スペイン ~新スペイン事情~

2016年07月27日

スペイン住友商事会社
ドミンゴ セルバンテス、高木 洋一

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 外国人訪問者数世界3位(2015年:約6,813万人)、自動車生産台数欧州2位(同:約273万台)、世界トップ10に入る交通輸送インフラ、世界最大級の建設企業グループ所在国(ACSグループ)と聞いて、欧州のどの国を思い浮かべるでしょうか。答えはスペインです。スペインと聞いて抱く古典的なイメージは、闘牛、フラメンコ、シエスタ(長めの昼休み)の国と言ったものでしょうが、闘牛はカナリア諸島やカタルーニャ州で禁止され、フラメンコを見たりシエスタを取ったりするスペイン人は意外に少数といった具合に、同国社会の実像は日本での一般的なイメージとは異なり、経済面でも、欧州経済危機を経て同国のあり方は大きく転換し、労働改革の実施、海外での積極事業展開や国を挙げての観光振興で実績を挙げ、成功を収めつつあります。

 

 

観光客で日陰が賑わう盛夏の王宮前広場(マドリッド、筆者撮影)
観光客で日陰が賑わう盛夏の王宮前広場(マドリッド、筆者撮影)

 国民性についても、スペイン人は陽気で大らかとまとめられがちですが、同国の特徴として多彩な地方性があり、北は独自の歴史・文化を有するバスク州から、東は独立指向が強いカタルーニャ州、南は伝統的色彩の強いアンダルシア州迄、国民性・地域性は多様であり、一般化するのは難しいのが実情です。とは言え、経済危機の影響により他の南欧諸国が停滞する中で、一定レベルの構造改革を成し遂げ、欧州トップレベルのGDP成長率(2015年3.2%、2016年見通し2.7~3.0%)につなげることができたのは、総じて真摯(しんし)な国民性によるところが大きいでしょう。

 

 

 ビジネス面での同国の魅力は、欧州5位の人口(2014年:約4,646万人)を抱える市場規模のみならず、スペイン企業の中南米諸国、マグレブ諸国、中東諸国との緊密な関係、工業製品や食料品などの供給ソースとしての実力、再生可能エネルギーなど先進分野での実績(水力含む再生可能エネルギー電源は総発電電力量の約40%)が挙げられ、これらのメリットを活かしての対スペイン投資、提携の実例が増えています。また、観光立国を目指す日本としても、観光振興面で大成功を収めている同国から学ぶべき点は多くありますし、余談ながら、国連の世界観光機関は首都マドリッドに本部を置いています。

 

 

 経済面で大きな変貌を遂げたスペインですが、一方で依然20%近い高失業率、頻発する汚職問題、GDP 100%超の財政赤字、カタルーニャ独立運動などの諸問題を抱えており、政治面でも転換期を迎え、不透明な状況が続いています。2015年12月の総選挙結果、新興政党が躍進し議席を分け合い、二大政党制が実質的に終焉(しゅうえん)、各党方針の相違から新内閣を樹立できず、6月26日に再選挙が行われたものの、いまだ連立交渉が行われており(7月25日時点)、7か月に及ぶ政治空白が続いています。せっかくの景気回復に水を差す恐れがあり、早期組閣と新政権による経済対策強化や政治空白を回避するための制度改革が望まれます。

 

 

アルカラ門(マドリッド、筆者撮影)
アルカラ門(マドリッド、筆者撮影)

 2015年のスペインの対日貿易額は、LNG輸出急減と乗用車輸入大幅増の影響で輸出が前年比5.5%減の24億7,011ユーロ、輸入が22.2%増の32億1,783万ユーロで、LNGを除く貿易額は増加傾向にある一方、日本の貿易額全体から見ると0.5%程度とごくわずかで、大きな拡大余地があります。また、ファッションブランドZARA(ザラ)を展開するInditex社など、消費財分野のブランドを除けば、同国の世界的大手企業でも日本での知名度はまだまだ低いのが実情で、日本とスペインとの経済関係開拓の潜在性は非常に大きく、両国企業間で、お互いをよりよく理解し、広い分野での協力推進への可能性を追求することが期待されます。

 

 

 現在、日本からスペインへの直行便がなく、欧州では日本から遠い国の一つですが、いよいよ10月19日にイベリア航空が東京-マドリッド間直行便を18年ぶりに再開します。訪問先としての同国の魅力は、豊かな文化と自然、おいしい食事、過しやすい気候、親しみやすい人々など語り尽くせぬものがありますが、観光のみならず、ビジネスパートナー、中南米や周辺地域へのハブとしてのスペインにぜひ、お出でください。

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