ヨハネスブルグ/南アフリカ ~自由憲章採択60周年、南アフリカの抱える諸問題~

2015年04月08日

アフリカ住友商事会社
成瀬 志津子

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マンデラ氏直筆、リボニア裁判での有名なスピーチ(1964年)の草稿(Historical Papers Research Archive, University of the Witwatersrand, Johannesburg, South Africa) (筆者撮影)
マンデラ氏直筆、リボニア裁判での有名なスピーチ(1964年)の草稿(Historical Papers Research Archive, University of the Witwatersrand, Johannesburg, South Africa) (筆者撮影)

 南アフリカにとって2015年は、自由憲章の採択から60年を迎える記念すべき年です。人種・階層・性別・年齢の違いを超えてアパルトヘイトに反対する南ア フリカ人の生の声を吸い上げ、切実な希望と確固たる決意の下、将来の南アフリカのあるべき姿を描いたのが自由憲章です。同憲章は抑圧に苦しむ人々を鼓舞し て反体制運動の思想的指針となっただけでなく、アパルトヘイト撤廃後は新生南アフリカ憲法にも反映され、その思いは今日にも脈々と受け継がれています。一方で、南アフリカ統計局によれば依然として人口の53.8%が貧困状態*にあり、この節目の年を迎えるにあたり、南アフリカ政府には掲げた理想と厳しい現実の乖離を直視し、格差是正に向けた明確なビジョンと具体的なロードマップの提示が求められています。

 

 

 2月のジェイコブ・ズマ大統領による施政方針演説は、開始前から携帯電波妨害が発生し、波乱の幕開けとなりました。大統領が演説を開始した途端、急進左派の新党経済的解放の闘士(Economic Freedom Fighters, EFF)は議長の指示を無視して大統領糾弾を続け、強制退室させられた他、最大野党民主同盟(Democratic Alliance, DA)も警察の国会介入に抗議して自主的に退場し、大統領が空席だらけの国会で演説を再開するという前代未聞の事態となりました。この一件は、同国が直面している問題の奥深さを象徴的に現しています。

 

 

花模様のソーラージャー- 計画停電では大活躍! (筆者撮影)
花模様のソーラージャー- 計画停電では大活躍! (筆者撮影)
ゴールデン・ゲート (筆者撮影)
ゴールデン・ゲート (筆者撮影)

 国営電力会社である南アフリカ電力公社(Eskom)は、2008年に深刻な電力不足を招き、国内経済に深刻な打撃を与えました。電力の安定供給は7年を経た今でも課題となっており、計画停電に象徴されるエネルギー危機は今後数年は続くと考えられています。Eskomはまた、財政的には借金体質から抜け出せず政府からの救済金に依存しています。同じく国営の南アフリカ郵便事業体も借金に苦しんでおり、2014年度は3か月に及んだストライキの影響で13億ランド(130億円)の損失が見込まれるとの報道もあります。この交渉過程で政府が譲歩し、パート従業員や臨時雇用者を正社員にすることを認めましたが、この妥協措置は南ア郵便事業体の財政難をさらに悪化させることが懸念されています。南アフリカ航空も多額の負債を抱えており、過去17年に及ぶ財政再建努力も一向に功を奏していないように見受けられます。こうなると国有企業民営化の議論が活発になるはずなのですが、鉱山や銀行等、経済の戦略分野の国営化を訴える新党EFFが急進的な社会主義的思想を掲げて貧困層を中心に支持を拡大しており、貧困率が過半数を超える現状では、与党ANCが民営化を現実的な選択肢して議論することは決して容易ではありません。

 

 

ラグビーと切っても切れないのがブライ(Braai)、南ア版バーベキュー (筆者撮影)
ラグビーと切っても切れないのがブライ(Braai)、南ア版バーベキュー (筆者撮影)

 アパルトヘイト終焉に伴い、南アフリカが初めてラグビーワールドカップに参加したのは1995年第3回南ア大会でした。開催国として見事優勝を飾り、国民に 誇りと希望をもたらしたことは映画『インビクタス/負けざる者たち』でも描かれている通りです。当地で大人気のラグビーですが、ここに日本と南アフリカの知られざるつながりがあります。2007年にフランスで開催された第6回ワールドカップで南アの優勝に貢献したジャック・フーリー(神戸製鋼)、フーリー・デュプレア(サントリー)をはじめ、南アフリカの多くのスタープレーヤーが日本のチームで活躍していることをご存知でしたか?

南アフリカ東部、ドラケンスバーグ山脈の山並み (筆者撮影)
南アフリカ東部、ドラケンスバーグ山脈の山並み (筆者撮影)

今年は第8回目となるラグビーワールドカップの開催年でもあります。国民を団結させるスポーツの力で、政治経済では明るい話題に乏しい南アフリカの風向きが変わることを祈っています。

 

 

(*2011年をベースとして再計算された数値で、upper-bound poverty level以下に属する人口の合計)

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