ドバイ/UAE ~しなやかな回復力を備えた国(ドバイについてあなたが知らないかもしれないいくつかの事実)~
中東・アフリカ
2021年03月29日
中東住友商事会社 ドバイ本社
雄万(オスマン)・モハマド
ドバイへの誤解: シリア出身の私は2005年にドバイに来るまで、「UAEは偶然石油に恵まれ、豊かな国家財政からの潤沢な給付と恩恵に甘やかされた幸運な人々の国」と思っていました。いずれ石油が枯渇すれば明るい未来はなく、「オイルダラーで育ったベビーブーム世代」は子孫に残す遺産などなくなるのでは、とみている人も多かったのです。
強靭性と復興: 今回この国の歴史を改めてひもといてみて、彼らは「甘やかされた国民」どころか、普通では耐え難い天災や困難を克服し、生き抜いて来たことを知りました。UAEの強靭な復元力と復興には誰もが驚いたのです。小さな入り江に面した海辺の小漁村だったドバイは、次のような難局を切り抜けてきました。
漁業と香辛料貿易から始まった歴史
- 1841年: 天然痘が大流行し、貿易で生計を立てていた住民の約半数が死亡。
- 1896年: ドバイで大火災発生、ヤシの葉葺きの家屋の大半が焼失。
天然真珠採取業に転換…
- 1908年: 真珠採取シーズンの終盤に暴風雨が襲来、採取船が転覆し100人超の人命が失われる。
- 1929年: 世界大恐慌が発生。当時日本で開発されたアコヤ貝の養殖真珠が国際市場に出回り、ドバイの唯一の主要産業だった真珠輸出は壊滅的な打撃を受ける。真珠産業の崩壊は深刻な不況をもたらし、住民は極度の貧困にあえいだ。
金・貴金属貿易に転身…
石油・天然ガスおよびインフラプロジェクトに注力…
(ジェベル・アリ港やドバイ空港の建設、ホテル・観光産業のハブ化、エミレーツ航空の設立など)
- 1966年: ドバイ沖に油田を発見、採掘が進められる。
- 2004年: ドバイの油田は枯渇
不動産・ホテル業や展示会のハブとして発展を…
- 2009年: 前年のリーマンショックの余波でドバイショック発生。
- 2020年~: 新型コロナウィルス感染拡大
戦争・騒乱を生き抜く力: UAEは地政学的に不安定な環境にあり、絶え間ない地域紛争を切り抜けてきました。例えば、アラブ・イスラエル紛争、レバノン内戦、イラン革命、イラン・イラク戦争、クウェート侵攻から2次にわたる湾岸戦争、アラブの春など。紛争・騒乱の負の影響をすばやく封じ込め、紛争地から逃れて来た才能や投資資金を取り込んでドバイを新しいビジネスのハブにしてきました。周辺に起こった強風をうまくとらえ前進してきたのです。
マジリス文化: ドバイの柔軟性と回復力の背景にある重要な要素です。マジリスとはアラビア語で「座る部屋/居間」を意味し、「サロン」や「寄り合い会議」のようなものです。首長、企業の社長、家長や族長など重要人物の家で、最低週に一回程度開かれます。裁判や契約、公式の会議などで解決しきれない事柄はマジリスの場で討議されますが、これがエミラーティ(UAE人)文化の優れた一面ともいえます。マジリスの席では、参加者は地位に関わらず自由に意見・主張・アイデアを述べることが許されています。首長主催のマジリスで自分たちの問題や不具合の解決策を議論することは日常なのです。でも現場に行けないときは?いや大丈夫。いまやデジタル・マジリスまで開発されています:https://www.mbrmajlis.ae/en/home
「高み」をめざす: 私は前職で幸運にも、ブルジュ・ハリファやプリンセスタワー(ともにギネス記録を塗り替えた建物)などドバイで一世を風靡(ふうび)したプロジェクトに関わりました。他国の模倣や世界50位入りで満足する国が多い中、ドバイやUAEが常に「ナンバーワン」を目指す心意気には敬服します。資金に糸目をつけなければ当然だという人も、「ナンバーワン」目標の実現可能性や経済的持続性、さらにはプロジェクトの需要自体に疑問を呈した人もいましたが、ドバイはこれらの疑念を全て打ち破り、世界の投資家を引き寄せてきたのです。
私がドバイやUAEを好む最大の理由は、常に「比類なき野望」を抱き、「人並み」や「普通」ではよしとせず、競争に打ち勝ち「ナンバーワン」を獲得する高いハードルを立てる点です。世界最高、最大、最長など、この国で最も人気がある本はギネスブックです。例えば宇宙計画では、普通の国は月探査から始めますが、UAEはいきなり火星探査機の打ち上げから始めました!UAEの最新スローガンは、「不可能を可能に」なのです。
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