バンクーバー/カナダ ~豊かな資源をいかしつつ、多様性とどう向き合っていくのか~
バンクーバーは、カナダ西海岸ブリティッシュ・コロンビア州にあり、バンクーバー都市圏(Metro Vancouver)で人口246万人(2016年)を有するカナダで3番目の都市です。地理的には北緯49度と、札幌(北緯 43度)より高緯度に位置しますが、暖流の影響で、雪が降るほど寒くなるのはまれであり、温暖で過ごしやすい気候です。
海や山などの自然と調和した都市であることが最大の特徴で、鉱業、林業、観光業など資源の「豊かさ」がもたらしたビジネスが地域の基幹産業と言えます。最近では、シリコンバレーなどでのIT関連の人件費高騰を受け、米国西海岸地域と時差が無い当地に拠点を構えるIT関連企業が増加傾向にあります。また、「北のハリウッド」とも呼ばれ、北米3番目の映画産業の都市でもあり、ダウンタウンで映画の撮影が行われている場面を日頃から頻繁に目にします。当地はカナダの重要な西の玄関口で、年間貿易額で北米トップ5に入るバンクーバー港を持ち、1886年に開通したカナダ大陸横断鉄道の終着点でもあり、物流の拠点になっています。昔も今も移民が町の成長の原動力であり、今でこそ多様な民族、宗教や考え方を受け入れるリベラルな土壌がありますが、映画『バンクーバーの朝日』(2014年公開)では、戦前戦後の日系移民の苦難が描かれ注目されました。
19世紀初めのバンクーバーは、英国の毛皮貿易の拠点の一つでしかありませんでしたが、1858年に近郊を流れるフレーザー川流域で金鉱が発見されると入植が本格化しました。1906年にVancouver Stock Exchange(現TSX Venture Exchange)が開設されると、鉱山開発で一攫千金を狙う探鉱ジュニア企業の資金集めの拠点となり、星の数ほどある探鉱案件の一握りが実際に鉱山になると、次第に鉱山業を支える労働者 と技術者の都市へと発展を遂げました。バンクーバーは今でも探鉱ジュニア企業の拠り所(よりどころ)であり続け、町の規模と釣り合わない数の鉱山会社 および それに関わる人材が集まっている稀有(けう)な都市と言えます。
鉱業が主要な産業である一方で、環境保護や先住民(First Nations)の権利保全は、バンクーバー市民の大きな関心事の一つであり、「Trans Mountain Pipeline (TMPL) Project」の是非についてのニュースは同市をにぎわせています。TMPLは、隣のアルバータ州エドモントンからバンクーバー港に向けて総延長約980キロメートルの原油パイプラインを敷設・拡張する国家規模の大プロジェクトで、米国向け原油輸出に依存する構造から脱却し、太平洋(主にアジア諸国)に輸出先を拡大することをもくろんでいます。しかし、環境団体からの反発 や First Nationsとの交渉難航に直面し、連邦政府と州政府間の足並みもそろわず、プロジェクトが遅々として進捗しない現状を見ると、いかにカナダが地政学的リスクの低い資源国であるといえども、多様な意見を取り入れながら大規模プロジェクトを取り進めることの難しさについて考えさせられます。
折り合いを付けて多様性を国の成長の原動力にしつつ、豊かな資源を生かし、いかに国の成長につなげていくのか、引き続き興味深く動向を注視したいと思います。
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