見通し難い世界経済見通しからの示唆
2025年04月30日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
4月22日に公表された国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」によると、世界経済の成長率は2025年に+2.8%(前回1月時点から▲0.5pt)、2026年に+3.0%(▲0.3pt)と下方修されました。すでに2025年1月時点の見通しで2024年から3年連続で+3.3%と、低成長が予想されていたにもかかわらず、2月以降の米国の関税政策などによって、成長率はさらに低下する姿になりました。また、2025年以降の成長率が、コロナ禍前の水準から低下しており、世界経済を見通す目線を一段と下げる必要があります。
米国経済では、2024年の+2.8%から2025年に+1.8%(▲0.9pt)、さらに2026年に+1.7%(▲0.4pt)への減速が予想されています。相互関税によって全貿易相手国・地域の関税を引き上げるため、主要国の中でも下方修正幅がメキシコに次いで大きくなりました。
ユーロ圏経済は、2025年に+0.8%(▲0.2pt)へ減速した後、2026年に+1.2%(▲0.2pt)へ加速することが予想されています。ただし、第1期トランプ政権で米中貿易戦争が始まり、欧州はドイツを中心に米国と中国の間の貿易ハブになっていたため、足元では米国の関税政策と中国の需要の弱さの板ばさみにあっています。
日本経済は2025年に+0.6%(▲0.5pt)と、2024年から加速し、2026年も+0.6%(▲0.2pt)に留まります。米国の関税政策によって、2024年の低成長から反発が弱まり、下押し圧力は強まるものの、ゼロ%台後半から+1%程度と試算されている潜在成長率並みの成長は保たれます。また、前提条件として、2025年の日銀の利上げも織り込まれていました。
中国経済は2025年に+4.0%へ減速してから、2026年も同じ伸び率にとどまります。不動産不況などによって内需がすでに弱かった中で、米国向け輸出が打撃を受けることなり、成長ペースはさらに減速します。その一方で、過剰生産能力によって生み出された商品が、欧州やそのほかの新興国に向かい、貿易相手国・地域からはデフレの輸出として警戒されています。
さらに、新興国経済でも、成長鈍化が懸念されています。新興国全体では2025年に+3.7%(▲0.5pt)、2026年に+3.9%(▲0.4pt)と、コロナ禍以来となる2年連続の+4%割れが予想されています。米国向けの輸出の減少に伴い、生産能力の過剰感が高まり、産業など分野によってはデフレ圧力が強まるでしょう。また、コロナ禍やその後の食料品やエネルギー価格上昇策としてこれまで拡大してきた財政に残された余地が大きくないことも、成長の下振れリスクを高めています。
米国の関税政策が世界経済に悪影響を及ぼすことについては、確度が高い一方、その悪影響の大きさや広がりについては、不確かなままです。前提条件となる米国の関税政策自体が定まらないため、IMFも今回の世界経済見通しを「参照予測」に位置付けざるを得ず、そのIMF見通しをベンチマークにしている民間の見通しも固まりません。こうした中、先行きの手がかりとなる関税を巡る報道を受けて、金融市場のボラティリティーが大きな状況が続いており、それもまたリスクになっています。
先行して悪化した消費者や企業のマインドに続いて、今後、個人消費や設備投資など実体経済に関税の悪影響が表れます。それに伴って経済政策も見直され、企業の外部環境も変化します。関税引き上げが短期で済まなければ、企業にとって、中長期的な視点での供給網や資産配分などを含めた事業戦略の見直しも必要になります。そのため当面、経済の変動が大きい中で、関税政策の行方を注視しければならない状況が続くでしょう。
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