実質GDP成長率の符号を変えるサービス輸出入

2025年05月21日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

 訪日観光客の消費やいわゆるデジタル赤字など、サービス輸出入(サービス収支)への注目度が高まってきた。サービスの輸出入はGDPの算出にも用いられるため、実質GDP成長率(経済成長率)への影響力も拡大させつつある。しかも、潜在成長率がゼロ%台後半から1%程度と試算される中、サービス輸出入の変動が大きくなると、それによって実質GDP成長率がマイナスに陥るリスクが高まっている。

 

 例えば、内閣府によると、2025年第1四半期(Q1)の実質GDP成長率は前期比▲0.2%と、2024年Q1以来、4四半期ぶりのマイナス成長になった。内訳をみると、設備投資など内需(寄与度+0.7pt)が成長をけん引した一方で、外需(▲0.8pt)が押し下げた。外需では、輸出(▲0.1pt)と輸入(▲0.7pt)ともに押し下げ要因になっていた。

 

 ただし、輸出のうち、財(前期比+0.4%)が増加した一方で、知的財産権等使用料の受取の伸び悩みや研究開発サービスの受取の反動減などによって、サービス(▲3.4%)が減少した。寄与度を見ると、財(+0.1pt)が小幅に成長を押し上げた以上に、サービス(▲0.2pt)が押し下げていた。つまり、輸出のうち財が増加したものの、サービスが減少し、輸出全体を減少させたことになる。実質GDP成長率は前期比▲0.2%だったため、仮にサービス輸出が横ばい(ゼロ%)だったならば、その寄与度もゼロptになり、経済成長率がマイナスに陥らならなかった可能性がある。これらより、サービス輸出の減少が、実質GDPをマイナス成長にした一因だったと言える。

 

 また、サービス輸入が実質GDP成長率に大きな影響を及ぼした例として、2022年Q3が挙げられる。2022年Q3の実質GDP成長率は前期比▲0.4%だった。内需(寄与度+0.2pt)が成長を押し上げた一方で、外需(▲0.6pt)が重荷になっていた。その外需のうち、輸出(+0.3pt)が成長を押し上げたのに対して、輸入(▲0.9pt)が押し下げていた。

 特に、輸入のうち財(▲0.2pt)よりもサービス(▲0.8pt)のマイナス寄与が大きかったことが注目される。当時の財(+1.1%)に比べて、専門・経営コンサルティングサービスの支払いが期ずれしたことによって、サービス(+18.4%)の伸び率が大きくなり、GDPから控除される輸入においてマイナスの寄与度を拡大させた。このときも、仮にサービス輸入が横ばいだったならば、実質GDPがプラスにとどまった可能性が高い。

 

 このように、サービス輸出入の変動によって、実質GDP成長率がマイナスになる可能性が以前よりも高まっている。個人消費や設備投資など内需が増加していても、サービス輸出入の動き次第で、実質GDP成長率がマイナスになり得る。そうなると、実質GDP成長率という見た目の数値と経済の実体に乖離が生じ、実体を捉え難くなるだろう。しかも、財の輸出入とは異なり、貿易統計のような詳細なデータがないため、サービス輸出入の実体を捉え難いことが、不確実性を高める一因になっている。

 

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