米(関税)とコメ(価格高騰)という内憂外患

2025年05月28日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

直近の日本経済を巡る内憂外患といえば、米国の関税政策と国内のコメ価格の上昇があげられる。

 

まず、米国の関税政策について、トランプ米大統領は4月2日に相互関税を発表、その後上乗せ部分は90日間猶予されているものの、10%の基本税率は課せられている。また、3月の鉄鋼・アルミニウム製品、4月の自動車、5月の自動車部品への25%追加関税も適用されている。米英協議の合意を見ても、10%の基本税率が維持されているため、第2次トランプ政権が発表・適用してきた追加関税が全て撤回されることはないだろう。日本の立場としては、できるだけ追加関税を撤廃したいところであるものの、米国側は非関税障壁などを議題に持ち出しており、それらはなかなか難しそうだ。

 

本来であれば、関税は、米国の消費者が負担することになる。しかし、相対的に米国の消費者の交渉力が高かったり、コロナ禍後の物価高騰を踏まえて企業がコスト転嫁を躊躇(ちゅうちょ)したりすれば、米国企業が利益を削ってコスト増を負担することになる。さらに、米国の企業の交渉力が高ければ、輸出元の企業がコスト増を負担する場合もあるだろう。対ドルの円相場が円安・ドル高に振れることで、関税引き上げの負担増を相殺する場合もあるが、足元の水準から一段の円安・ドル高へのハードルは高い。そうなると、米国の関税引き上げが日本企業にとってマイナスの影響をもたらす恐れも払しょくし難い。

 

関税のかかり方が、企業や商品によって異なることで、それぞれの販売価格への影響も異なり、消費行動に影響を及ぼすことも、重要な視点だ。例えば、自動車では、USMCA(米国・メキシコ・カナダにおける自由貿易協定)の原産地適合車のうち米国製品の原材料の使用割合などによって、関税率の軽減が適用される仕組みになっている。企業によっては25%の追加関税がかかる場合もあれば、米国産部品を使用することで25%よりも低い関税率になる場合もある。このとき、前者の販売価格が後者に比べて割高になり、その分だけ需要を減らす恐れがある。しかし、今となってはUSMCAの存続自体が危うい一面があるため、最終的には米国生産を選択したり、もしくは追加関税が適用されても競争力がある製品については輸出を選択したりするという戦略になるのだろう。自動車産業は、日本経済における基幹産業の一つであるため、その動向が注目される。

 

また、国内では、コメ価格の上昇が注目を集めている。総務省「消費者物価指数」によると、4月のうるち米(コシヒカリを除く)は前年同月比+98.6%と、比較可能な1971年1月以降で、最大の上昇率になった。これだけで消費者物価指数全体を0.37pt押し上げた計算だ。4月の消費者物価指数は+3.6%と、欧米よりも高い。実際、米国では3月の個人消費支出(PCE)物価指数は+2.3%、4月の消費者物価指数(CPI)も+2.3%であり、ユーロ圏では4月の消費者物価指数は+2.2%だった。コロナ禍後の物価高騰局面では、日本の物価上昇率の方が欧米諸国よりも低かったものの、その後の展開はまったく異なったものになった。また、長年デフレ状態にあった日本経済において、経験に乏しい物価高騰というインパクトに加えて、実質賃金が明確にプラスに転じていないこともあり、物価上昇の痛みが強く感じられやすいこともあるのだろう。

 

物価高騰が既存の政府への批判を高まらせ、政権交代に至った国は少なくない。日本でも2024年の衆院選を経て、少数与党に転じた過去がある。関税を巡る米国との交渉に対応するためには、団結して対応できる強い政府が必要になる。その一方で、コメ価格の上昇に象徴される生活苦によって、政府は国内基盤の力を弱めつつある。米(関税)とコメ(価格高騰)を巡る内憂外患という厳しい中で、日本経済の成長において日本企業の実力が試されている。

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