面白くない世界経済見通し

2025年08月01日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

 

国際通貨基金(IMF)は7月29日に「世界経済見通し(改訂版)」を公表した。前回は、米国の相互関税直後だったため、見通しを作り直した上、関税政策などの不確実性が極めて高いことを踏まえて、普段の「ベースライン」とは異なる「参照予測」という位置付けだった。今回の7月見通しは、参照予測とされていないものの、実質的には同じような位置付けと解釈できる。

 

実際、「リアルタイムの現在の貿易政策に基づいている」として、見通し作成時点の政策を織り込んだ見通しになっている。例えば、5月に米中合意によって24%の追加関税が停止され、相互関税の基本税率10%や、鉄鋼・アルミニウム製品、自動車・部品の追加関税が課された状態が継続することを想定している。そのため、7月末の日本と米国の合意や、米国とEUの合意などは前提条件として反映されていない。見方を変えると、前回4月同様に、今後の貿易政策の影響などを考える上で出発点になる見通しなのだろう。

 

また、今回の見通しでは、米英の2025年後半の利下げ、ユーロ圏の金利据え置き、日本の利上げなどが前提条件になっている。1995年9月以降、日本の政策金利が到達したことがない0.5%を上回る世界がやってくる前提と言える。7月31日に公表された「経済・物価情勢の展望」(日本銀行)の政策委員の大勢見通し(中央値)でも、消費者物価指数(除く生鮮食品)は2027年度に前年度比+2.0%と、前回4月時点から上方修正された。見通し期間後半にかけて2%で推移することが予想されている。その確からしさを日銀が強く持てるようになれば、利上げを実施するのだろう。そのような金利がある世界を前提にして世界経済を考えるならば、財政拡大が景気下支えとともに、債務負担の拡大というリスクにも配慮しなければならない。

 

さて、今回の世界経済見通しによると、世界経済成長率は2025年に3.0%、2026年に3.1%と、それぞれ前回から0.2pt、0.1pt上方修正された。米国の関税政策の見直しなどから米国の実効関税率は4月の24.4%から17.3%へ、その他の国・地域は4.1%から3.5%へ低下したことなどが上方修正の一因だった。また、各国・地域の財政支出の拡大なども、成長を後押しするとみられている。それでも、パンデミック前の平均(3.7%)を下回る成長率が続く見通しであり、世界経済の成長ペースは鈍化すると引き続き見込まれている。

 

物価については、世界の物価上昇率は2025年に4.2%、2026年に3.6%と次第に低下していく姿が予想されている。景気が減速すれば、エネルギー需要の鈍化から、エネルギー価格も低下し、物価低下圧力が強まることも織り込まれている。ただし、関税コストが高くなる米国では供給ショックとして物価の上昇圧力になる一方で、その他の国・地域では負の需要ショックとなって物価の低下圧力となるなど、国・地域によって状況は異なっている。

 

一方、米国の関税措置がさらに厳格化された場合に、世界経済成長率はさらに低くなると試算された。4月2日の関税率の上限と、7月14日まで米国から各国に送付された書簡の税率を上限として実施された場合、世界経済成長率は2025年に約0.2pt下押しされる。仮にそうした事態になれば、世界経済成長率は3%を下回る計算だ。

 

変化が起こるのは、これからが本番だ。米国と貿易交渉で合意する国・地域が増えてきたものの、関税率以前に比べて高いままだ。2025年初めに比べて、ドル安や長期金利の上昇など変化が生じてきた金融市場のように、実体経済においても変化が生じることになる。しかも、米国への投資が条件として含まれているため、米国への資金フローとともに、将来的には投資収益の米国外へのフローも今後生じるだろう。世界経済が新たな均衡に辿り着くまで持ちこたえられるのか定かではなく、明るい先行きが見えないという意味において、今回は面白くない予想と言える。むしろ、面白い見通しにつながる材料を探し求めていかなければ、今後の成長が難しいということが示唆されているようだ。

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