微妙な景気判断

2025年08月08日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

 

内閣府「景気動向指数」によると、6月の一致指数は116.8となり、前月から0.8pt上昇した。3か月、7か月後方移動平均の前月差などに基づく基調判断は「下げ止まり」と、前月から据え置かれた。「下げ止まり」が続く中で、景気は力強さを欠いたままだ。実際、5月の一致指数では、速報値(115.9)が前月から▲0.1pt低下し、基調判断が4年10か月ぶりに「悪化」へ下方修正されたほどだった。その後の確報値(116.0)が前月から横ばいに上方修正され、基調判断も「下げ止まり」に戻ったものの、6月にかけても精彩を欠いたままだ。

 

6月の速報値を見ると、一致指数を構成する10指標のうち寄与度がプラスになったものは、鉱工業生産指数や投資財出荷指数(除く輸送機械)、商業販売額(小売業)、商業販売額(卸売業)、輸出数量指数の5指標に、現時点で公表されておらず、トレンド成分のみが含まれる労働投入量指数と営業利益(全産業)を加えた計7指標だった。鉱工業用生産財出荷指数や耐久消費財出荷指数、有効求人倍率(除く学卒)の残りの3指標はマイナスの寄与度になった。4月の相互関税を踏まえた生産調整などが足元で一服しつつあるものの、依然として勢いを欠いている。その一方で、国内では物価高の痛みが継続しており、個人消費の動きにも鈍さが見られている。このように経済成長のけん引役が不在であるため、景気の基調判断も「下げ止まり」にとどまるのが精いっぱいだったとも言える。

 

先行きはいつも不透明であるものの、やや見通しが改善してきた。7月末に日米貿易交渉が一旦合意に至り、8月初旬には相互関税の新しい税率が発表され、8月7日に適用された。ひとまず、米国の関税15%を前提条件として考えられるようになった点が大きい。それを前提条件に置いて、企業はこれまでのこれまで様子見姿勢を転じて、設備投資などを行動に移せるようになりつつある。もちろん、日米間で合意文書や共同声明がまだない中で、日米両政府の主張が食い違うなど、不透明な点は残っている。また、自動車関税も15%への引き下げで合意したものの、大統領令を含めた公式文書において実際の関税率や適用条件などをまだ確認できておらず、予断を許さない状況だ。それでも最悪の事態を回避できたこと、議論の前提条件が定まったことなどが、不透明さを軽減している。

 

その一方で、政府への経済対策を求める声も出始めている。しかし、その経済対策はなかなか難しい。新しい関税率が適用される環境に移行するまでの痛みを緩和するために、例えば、輸出先を米国からその他の国・地域に、また出荷先を国内に振り向ける支援策が考えられる。また、対米投資の支援策や国内研究開発支援策などもあり得る。国内外の供給網の再構築支援や研究開発投資支援、国内での買い替え補助金などが挙げられるものの、金利がある世界においては、これまで以上に費用と効果を厳しく考えなければならない。財政悪化懸念に伴う金利高騰など、別の先行き不透明感が国内から生じることを避けることも重要だ。

 

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。