緩やかな成長の中で、見逃される成長の機会

2025年08月20日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

 

お盆と言えば、日本のGDP統計発表の季節。内閣府の「四半期別GDP速報」によると、2025年第2四半期(Q2)の実質GDP成長率は前期比+0.3%(年率換算+1.0%)だった。2025年Q1の成長率(+0.1%)が前回(▲0.0%)から上方修正されたので、5四半期連続のプラス成長になった。Q2の成長は、巡航速度とも見なされ、ゼロ%台から1%程度とされている潜在成長率並みであり、統計の数値上、景気は悪くなかった。

 

ただし、前期比+0.3%の寄与度を見ると、外需が+0.3pt、内需が▲0.1ptであり、成長のけん引役だった外需に対して、内需がさえなかった。しかし、内需の中でも、民間在庫が▲0.3ptと押し下げたため、民間在庫を除く内需は+0.4pt程度になり、見た目ほど悪くはなかった。実際、個人消費(前期比+0.2%)や民間住宅(+0.8%)、企業設備投資(+1.3%)はいずれも増加した。内需の寄与度がマイナスと見た目は悪いものの、消費や投資は緩やかに増加していた。

 

それ以上に、物価上昇が目立った。GDPにおける物価指数であるGDPデフレーター(前年同期比+3.0%)は2四半期連続で3%を上回った。プラスは2022年Q4から11四半期連続であり、物価上昇が定着しつつあるようだ。実質雇用者報酬(家計最終消費デフレーターで実質化、+1.3%)も2024年Q2から5四半期連続の増加を保ったとはいえ、まだ力不足だ。なぜなら、物価上昇が先行した分だけ、実質雇用者報酬が低下していたからだ。それに加えて、歴史的な物価上昇の大きさから、実質購買力の低下幅も大きかったこともある。物価上昇の痛みが残っており、実質購買力の回復にはなお時間がかかるため、賃金と物価の好循環の実現は、道半ばと言える。

 

緩やかに増加している個人消費において、酷暑や悪天候などが重石になっている中で、変化が生じていることも重要だ。例えば、内閣府の「景気ウォッチャー調査」に、日中の暑い中に買い物に出歩く人が減っているというコメントが複数見られた。つまり、日中は気温が高すぎて人々がなかなか動けない状況になっていて、代わりに午前中や夜など、気温が比較的低い時間帯に買い物に行くことが増えているようだ。店舗から見れば、従来は、高齢者世帯などが日中に、勤労世帯が夕方から夜にと、客層によって買い物の時間帯が異なっていたものの、酷暑の中ではそれらの時間が重なることになる。品揃えや人の手当てなどを含めて、配置換えが必要になっている。

 

また、物価高の中で、日用品や食料品など安いものを求めて、スーパーに加えてドラッグストアで食品を購入する消費者も増えている。そうした中で、かつてコンビニエンスストアは24時間営業していることなど利便性が重視されていたものの、足元にかけて、利便性よりもプチ贅沢という位置づけに変化しているという声もあった。これまでの企業の事業戦略の変更とともに、消費者の嗜好も変わっており、足元の物価高がそうした変化に拍車をかけた一面もあるだろう。

 

日本経済の成長は引き続き緩やかで実感がない一方で、文字通り環境の変化によって、消費者の嗜好や供給網も変化してきたことも事実だ。足元の日本経済の現状を緩やかな成長という言葉で済ませてしまうと、変化の中にある成長の機会を見逃してしまう可能性も大きくなっている。

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