止まらぬ生成AIの進化 ~ 社会・雇用はどう変わるのか
生成AIの研究開発を巡る競争は激しくなり、基盤モデルのアップグレードや革新的モデルの発表が相次いでいる。最新モデルを使ってみると、生成AIが注目を集めるようになった2022年頃のモデル(画像生成AIのDALL・E 2や初代ChatGPTなど)と比べ、小学生が優秀な大学生に成長したかのような飛躍的な進化を遂げていると言える。1年前、あるいは半年前の状況を思い返してみても、モデルの精度や理解力、自然さ、創造性、応答速度などが著しく改善していて、生成AIは他の技術とは次元の異なる速いスピードで進化を続けていると実感できる。タスク別では、論理的推論やメディア制作系の性能が驚くほど進化している。数学では2年前は3桁のかけ算でも誤答していたが、2025年の国際数学オリンピックで金メダル相当の成績を上げ[1]、コーディングでは自然言語で複雑なアプリやゲームのプロトタイプ開発も可能となっている。また、音声・画像・動画生成ではプロ並みのクオリティのものが作れるようになり、本格的な実用化の段階に入ってきた。
2025年はAIエージェントが普及する年と言われているが、AIは特定のタスクにおいてすでに人間を超える能力を示しており、数年内には人間の知的活動のほとんどを自律的にこなせる汎用人工知能(AGI)が実現するとの予測も広がっている。その後、AIは再帰的自己改善で知能爆発が起きて人類の頭脳を遥かに凌駕する超知能(Superintelligence/ASI)が短期間に登場するといったシナリオも見られるが[2]、OpenAIのアルトマンCEOが最近のブログで今の状況を「事象の地平線(ブラックホールの脱出不可能な境界)を越えた」と比喩したように[3]、今は変化を実感しづらいが、人類はAGI/超知能と共存する未知の世界に向かって、後戻りできない地点を越えたと言えるのかもしれない。
こうした革新的なAI技術は産業や社会に計り知れない恩恵をもたらすものと期待されるが、その一方で、既に著作権の侵害やディープフェイクの悪用、AIへの過度な依存、雇用への影響など負の側面が顕在化してきている。AIの進化と普及のスピードを考えると早急な対策が必要だろう。
とりわけ雇用への影響は大きな議論となっている。ChatGPTの登場後、AIによる労働活動の自動化の予測が前倒しになってきており、2024年5月に国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事は、「AIは今後数年内に津波のように労働市場を襲うだろう」といった警告を発していたが[4]、実際、2024年後半からソフトウェア開発やデータ分析、顧客対応といった分野の業務で急速に自動化が進む中、米国ではテック系や金融系を中心に業績好調の企業でも大規模なレイオフの発表が相次いでおり[5]、新卒者の雇用環境が急速に悪化しているというデータもある[6]。
こうした状況に対して経営者や専門家の見解は分かれる。AIによる効率化が需要を増大させることや、人間の能力拡張によって新たな機会も生み出される可能性などを強調し、経済成長が雇用を支えるといった楽観的な見方もある。一方で、米AI企業AnthropicのアモデイCEOは2025年5月に「AIによって今後1~5年でホワイトカラーの初級職の半分が消滅するかもしれない」と雇用喪失のリスクに直接的な言及をし[7]、同様の悲観論も広がっている。また、AIによって年率20~30%以上の爆発的な経済成長を予測するシナリオもあるが[8]、同時に、資本と労働の収益分配の歪みを引き起こす懸念も指摘され、ユニバーサル・ベーシックインカムをはじめとする社会的セーフティネットの議論も見られるようになってきた。[9]
我々の先に広がる未来の社会はユートピアかディストピアか分からないが、「予言の自己成就」という言葉を信じ、できるだけポジティブな未来像を描いてみよう。例えば、日本においては、AIを活用した自律型のデジタルワークフォースやロボットが少子高齢化による労働力不足の切り札として活躍している未来が想像できる。さらに、AGI時代には、老化メカニズム解明などのブレークスルーによって寿命・健康寿命が大きく延び、元気に働く高齢者が増えている可能性もあろう。また、地方においては、AIを駆使したロボタクシーの普及が高齢者の移動問題を大きく改善してくれるだろう。さらに、モラベックのパラドックスの通り、AIにとっては人間の高度な知的作業は比較的簡単で、感覚運動スキルの方が難しいため、仮にAIの活用でホワイトカラーの需要が激減して技能職へのシフトが進むことになるとすれば、東京一極集中が緩和されて地方創生に寄与するかもしれない。もっと想像を膨らませて、色々な未来のシナリオを考えてみたい。
[1] “Advanced version of Gemini with Deep Think officially achieves gold-medal standard at the International Mathematical Olympiad” Google DeepMind (Jul 21, 2025). https://deepmind.google/discover/blog/advanced-version-of-gemini-with-deep-think-officially-achieves-gold-medal-standard-at-the-international-mathematical-olympiad/
[2] “SITUATIONAL AWARENESS: The Decade Ahead” Leopold Aschenbrenner (Jun 2024). https://situational-awareness.ai/
[3] “The Gentle Singularity” Sam Altman (Jun 10, 2025). https://blog.samaltman.com/the-gentle-singularity
[4] “Artificial intelligence hitting labour forces like a "tsunami" - IMF Chief” Reuters (May 14, 2024). https://www.reuters.com/technology/artificial-intelligence-hitting-labour-forces-like-tsunami-imf-chief-2024-05-13/
[5] 「AIでソフト開発者に解雇の波、マイクロソフトの米大規模人員削減」Bloomberg (2025年5月15日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-14/SW9MHIT1UM0W00
[6] “For Some Recent Graduates, the A.I. Job Apocalypse May Already Be Here” The New York Times (May 30,2025). https://www.nytimes.com/2025/05/30/technology/ai-jobs-college-graduates.html
[7] “Behind the Curtain: A white-collar bloodbath” Axios (May 28, 2025). https://www.axios.com/2025/05/28/ai-jobs-white-collar-unemployment-anthropic
[8] “GATE: An Integrated Assessment Model for AI” Epoch AI (Mar 12, 2025). https://arxiv.org/abs/2503.04941
[9] “What Musk, Altman and Others Say About AI-Funded ‘Universal Basic Income’” The Wall Street Journal (Aug 14, 2025). https://www.wsj.com/tech/ai/universal-income-tech-executives-a16eb2d0
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