景気回復に確信を持てないドイツ経済
2025年09月09日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
5,000億ユーロ規模のインフラ・気候変動特別基金の設立や、防衛費を巡る債務ブレーキの緩和が成立したことをきっかけに、ドイツ経済が2024年までの2年連続マイナス成長から立ち直るという期待が高まっている。さらに、期間限定ながらも設備投資の定率減価償却が導入され、2028年から法人税の段階的な引き下げも実施される。支援策は拡充されつつあるものの、期待とは裏腹にドイツ経済は今後の景気回復に確信を持てない状況のままだ。
主要なシンクタンクが9月上旬に発表した経済見通しによると、例えば、Ifo経済研究所は2025年の実質GDP成長率を前年比+0.2%、2026年を+1.3%と予想した。それらは、前回6月見通しに比べて、それぞれ▲0.1pt、▲0.2ptの下方修正だった。また、キール世界経済拳銃所(IfW)は2025年の実質GDP成長率を+0.1%、2026年を+1.2%、2027年を+1.2%と予想した。これらも前回見通しから2025年は▲0.2pt、2026年は▲0.3ptの下方修正だった。また、ドイツ経済研究所(DIW)は2025年の実質GDP成長率を+0.2%、2026年を+1.7%、2027年を+1.8%と見通し、ハレ経済研究所(IWH)は2025年の実質GDP成長率を+0.2%、2026年を+0.8%、2027年を+0.6%と予想している。いずれも、2025年の経済成長率は0%台前半にとどまっており、下方修正も目立った。
この成長の弱さの原因として、まず、米関税政策の影響が挙げられる。EUは米国と貿易合意に至ったものの、15%という以前より高い税率を課せられている。また、家計の実質購買力がこれまで回復してきたものの、足元にかけてその回復ペースが鈍化しており、個人消費の後押しが弱まっていることも指摘されている。各種政策効果が2026年以降に本格的に表れてくるものの、2025年の効果は限られるようだ。
実質GDP成長率は2026年から2027年にかけて加速するという見通しであるものの、これまでドイツ経済の重石だった構造問題が継続し、政策による効果が一過性で終わるという懸念もある。例えば、政策として、送電料金の引き下げや製造業等向け電力税の軽減などの実施が見られるが、安価で安定的なエネルギー確保という課題は残ったままだ。また、投資支援のための減税策やインフラ投資などが実施されてはいるものの、ドイツの輸出企業の競争力低下という問題の解決のめどは立っていない。ユーロ圏域内や第三国の輸出先における中国企業との競争激化に加えて、中国国内における競争激化から中国のドイツ製品の輸入も伸び悩んでいる。2027年にかけて、消費者物価指数は2%前後で、失業率も安定的に推移すると予想されているとはいえ、次の成長の源が見えていないのが現状だろう。
こうした中で、財政拡大の懸念も燻っている。確かに、ドイツ経済が財政規律を重視する姿勢を改めたことは、経済成長に向けて評価される材料になった。しかし、同時に金利のある世界で、その債務負担が将来的に圧し掛かるリスクが大きくなる。もちろん、ドイツの債務残高GDP比はほかの先進国に比べれば低いため、当面、大きな問題にはならない。しかし、債務増加に見合った中長期的な経済成長という成果を出さなければ、メルツ政権の政策運営の先行きにも確信が持てなくなるだろう。
<参考文献>
ifo Economic Forecast Autumn 2025: Fiscal Policy May Haul the German Economy Out of the Crisis(ifo, 2025/9/4)
Kiel Institute autumn forecast: economy yet to gain momentum(IfW, 2025/9/4)
Recovery on shaky ground – tariffs dampen growth, but a change in fiscal policy is on the way(IWH、 2025/9/4)
German economy poised for upturn thanks to fiscal package; uncertainties in the global economy(DIW、2025/9/5)
「メルツ政権発足100日、投資加速を強調も、評価は割れる」『ビジネス短信』(日本貿易振興機構2025/8/25)
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