露プーチン大統領訪中、ガス供給拡大で合意
2025年09月18日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ
8月31日から9月3日まで、プーチン大統領は中国を訪問し、上海協力機構首脳会議(SCO会議)や中国、モンゴル、ロシアの3者首脳会談、中ロ首脳会談に参加し、9月3日には北京で行われた「抗日戦争勝利」80年の記念軍事パレードにも出席した。
3者会談後、ロシアの国営大手ガスプロムのミレル最高経営責任者(CEO)は、中ロを結ぶ既存の天然ガスパイプライン「シベリアの力」の供給量を年間380億リューベ(以下㎥)から440億㎥に増やすことで、中国石油天然気集団(CNPC)と合意したと発表した。そして、ミレルCEOは、モンゴル経由で中国に天然ガスを供給する新たなパイプライン「シベリアの力2」の建設に向けた法的拘束力のある(legally binding)基本合意書(MOU)を締結したことも明らかにした。これによると、ガスプロムは「シベリアの力2」を通じ、中国に年間最大500億㎥のガスを供給する計画で、期間は30年に及ぶ見通しである。さらに、2027年に稼働が予定されているロシア極東のサハリン、ハバロフスク及びウラジオストクを結ぶ別のガスパイプライン(SKV)からも中国向けに新支線「極東ルート」を開始させ、それに関しても、供給量を当初計画していた年100億㎥から120億㎥に増やすとミレルCEOが発表した。すべて実現すると、ガスプロムは将来的に年間最大1,000億㎥以上の天然ガスをパイプライン経由で中国に販売することになる。これは現在、中国の国内におけるガス消費量の2割強に相当する。
一方中国側からは、合意の詳細についてまだコメントされていない。国営人民網は、中ロ首脳会談について報じたが、パイプラインについては具体的に言及せず、エネルギー分野を含む20以上の協力文章が締結されたと伝えている。また、英フィナンシャルタイムズ紙は、このロシア側の発表は「やや時期尚早」と指摘し、「これはすでに交わされた合意というより、双方の意思を示すものだろう」という中国の専門家のコメントを紹介している。
「シベリアの力2」の建設費や輸出価格、また中国がこのパイプラインから柔軟に供給量を購入できるのか、それとも全量購入義務を負うのかといった詳細については、まだ明確に発表されていないものの、同パイプラインが完成すれば、隣国ロシアから中国向けにロシア産の天然ガスが大量に輸出され、ロシアにとってはウクライナ侵攻で失った欧州市場の穴を埋めることにも繋がるとみられる。また、パイプラインの増設により、貿易面で中国への依存度を深め、ロシアと中国の結び付きは一層強まるとみられる。
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