変質する日本市場

2025年10月01日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

 

ようやく日差しが和らいできたような気がする今日この頃。内閣府「景気ウォッチャー調査」のコメントを読んでいると、季節の変化に伴う消費者の行動変容も読み取れる。

 

今夏は暑すぎて、商店街などで日中に人が出歩かない一方で、午前や夕方などに買い物時間をずらす人が増えたという猛暑に伴う行動変容についてのコメントが多く見られた。言われてみれば、当たり前であるものの、その含意は大きい。見方を変えると、需要の種類と時間帯の変化が生じており、供給側の企業もそれに合わせて変化しないと需要を取りこぼしてしまう恐れがあるからだ。

 

例えば、昼前の買い物ならば、昼食用の惣菜や弁当などを購入するケースも少なくない。それが午前の比較的早い時間になると、それらを購入する頻度が減るかもしれない。そうであれば、販売店も朝から昼食用の惣菜や弁当を用意しなければならない。また、昼食のための外出も減れば、ランチタイムの飲食店の営業に響く一方で、冷凍食品やカップラーメンといった保存がきく食料品を前もって購入する機会が増えているのかもしれない。

 

来店時間が暑い昼間を避けて、朝と夕方になるのならば、商品の配送や品出しに加えて、接客などの従業員の配置も変わる。これまでも、気温や天気によって仕入れる商品を変えることは多かった。需要が増えたり減ったりというよりも、猛暑であるとそもそも需要がなくなる場合もあるため、これまで以上に柔軟な対応が求められるようになっている。また、来店時間が従来の昼間から夕方にシフトし、仕事帰りの人の需要と重なる場合も増える。商品の供給と従業員の配置を上手く行わないと、需要の取りこぼしにつながる恐れがある。

 

また、大阪・関西万博へのコメントも増えていた。国内観光客が万博に向かう一方で、それ以外の観光地ではやや減少していた。もちろん、万博開催が期間限定であるため、そうした観光客の動きになることは当然だろう。その一方で、2026年以降はそれ以外の観光地に訪れる人が増えるに違いない。もっとも国内観光客が土日や祝日など休日に集まりやすいのに対して、インバウンド需要は平日など、相対的に平準化されやすい。そのように考えると、観光需要といっても、その量と質は場所と時間によって異なったものになる。ただでさえ人手不足が課題となっている中で、その需要に合わせた供給体制を整えておかなければ、さらに需要を取りこぼす恐れがある。

 

暑すぎることによる人流の変化は個人消費に、観光の変化は国内観光客なら個人消費、インバウンドなら輸出という需要の変化を意味する。そのような日本市場の変質が見えている中で、内外需を潜在需要にとどめず顕在化させるためには、供給側の対応が欠かせない。人手不足に加えて、変化する需要に対応する供給能力という「供給の天井」が日本経済の成長の重荷になっているという日本市場の変質にもこれまで以上に注意が必要だ。

 

 

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