コートジボワール:「第二の象牙の奇跡」

コラム

2025年10月07日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
髙橋 史

 

 

概要

 

 

2011年のアラサン・ウワタラ大統領就任後、安定した経済成長が続く西アフリカのコートジボワール。その背景にある政策と、10月25日の大統領選の行方は。

 

 

 

1. 二度目の「象牙の奇跡」

 

 

西アフリカのギニア湾沿岸に位置するコートジボワール。国名はフランス語で「象牙海岸」を意味する。1960年の独立以降、20年近くにわたり平均8%前後の高成長が続いた[i]コートジボワールは、その国名にちなみ「象牙の奇跡」と呼ばれた。当時の経済成長を支えたのはカカオ豆や、カシューナッツ、天然ゴムといった農産品。現在でもコートジボワールは世界最大のカカオ豆生産国であり、輸出全体の約2割を占める最大の輸出品目だ[ii]

 

 

その後経済は、1980年代のコモディティ価格の下落や、1990~2000年代の内戦・政情不安により長く低成長の時代が続いた。しかし、2011年にアラサン・ウワタラ大統領が就任した後、現在に至るまで「第二の象牙の奇跡」とも呼ばれる高成長期を再び迎えている。2012~2024年の平均実質GDP成長率は6.9%[iii]と、西アフリカ諸国でも最も高い水準だ。この高成長の背景にはウワタラ大統領が進めてきた2つの大きな改革が背景にある。

 

 

 

(1)国内の融和

 

 

2002~2006年、2010~2011年と、どちらも大統領選後に「内戦」に突入した。国内はイスラム教徒が多い北部と、キリスト教徒が多い南部との2つに分断。初代大統領の出身地であり、また国内最大の経済都市アビジャンを擁する南部に比べ、北部は長く政治的・経済的に疎外されてきた。こうした状況に対処したのが北部出身のウワタラ大統領だ。内戦時に隣国のブルキナファソやガーナに逃れた難民の北部への帰還や定住を促進するなど北部住民にも手厚い政策をとってきた。また、2010年選挙時に勝利したウワタラ氏支持者らと対立し、有罪判決を受けたバグボ前大統領にも恩赦を与えるなど、反体制派との融和も図った。こうしたウワタラ氏による内政のかじ取りが経済発展の礎となっている。

 

 

 

(2)経済・財政政策

 

 

国際通貨基金(IMF)、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)などの要職を歴任した経済学者のウワタラ氏は、治安の回復や内政の安定を基にした国際的な信用の回復を背景に、IMF、世界銀行、アフリカ開発銀行(AfDB、本店はアビジャンに所在)などからの低利融資・債務を計画的に増加させた。

 

 

(画像:アフリカ開発銀行本店から眺めるアビジャン市内筆者撮影)

 

(画像:アフリカ開発銀行本店から眺めるアビジャン市内/筆者撮影)

 

 

ウワタラ氏は就任直後の2012年に「国家開発5か年計画」を発表。借り入れた資金を内戦で傷ついた道路、電力、港湾などのインフラ整備に重点的に投入した。こうした安定した政治と積極的なインフラ投資が外国投資を呼び込み、さらなる経済成長をもたらす潤滑油となっている。2023年からイタリア資源大手ENIが生産を開始した沖合のバレーヌ油田や、英・金採掘大手エンデバー・マイニングらによる金生産の拡大は、農産品以外の新たな外貨獲得源として、経済の多角化と財政の安定の両方を下支えしている。

 

 

2. 大統領選を控えた情勢は

 

 

安定的な経済成長を持続させてきたコートジボワールでは、10月25日に5年ぶりの大統領選の実施が予定されている。5人の立候補者の中には83歳で現職のウワタラ氏も含まれている。同氏が2期目を務めていた2016年の憲法改正で「大統領の3選禁止」が定められたが、ウワタラ陣営は憲法改正後の2020年選挙からこのルールが適用されるとして、今回の選挙出馬は「2期目」との憲法解釈を行っている。これに対して野党は抗議を行っているが、主要対立候補が軒並み立候補資格をはく奪されていることもあり、今回もウワタラ氏の圧勝が予想されている。とはいえ、過去のコートジボワールの選挙ではたびたび与野党間の対立により多数の死傷者が生じているだけに、10月10日から始まる選挙戦後の情勢の変化には注意が必要だ。

 

 

 

[i] 世界銀行

[ii] UNComtrade

[iii] 世界銀行

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