先行きに明るさが見え難い世界経済見通し

2025年10月21日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

国際通貨基金(IMF)は10月14日、「世界経済見通し(WEO)」を発表した。サブタイトルは「変動期の世界経済、見通し依然暗く」と、先行きに明るさが見え難いものだった。

 

2025年の世界経済成長率は3.2%と、7月時点の見通しに続いて2回連続の上方修正になった。しかし、1月時点の3.3%を下回ったままだ。上方修正の理由として、米国の相互関税の税率が発表当初より低下したケースが多いことや、上乗せ部分の適用が8月に後ずれしたことなどが挙げられている。見方を変えれば、関税の悪影響は軽減すれどもなくならず、むしろ2026年に後ずれしている部分もある。それ以降について、世界経済成長率は2026年に3.1%まで減速した後、2027年以降3.1~3.2%とコロナ禍前の平均3.7%から一段と低下する姿が予想されている。世界経済全体を見通す目線は低いままだ。

 

それに対して、世界の消費者物価上昇率は、修正幅は4月時点から±0.1ポイントであり、ほぼ変化がないと言える。2024年の5.8%から2025年に4.2%へ、2026年に3.7%へ縮小するものの、物価上昇率が高めの状態が継続すると予想されている。内訳を見ると、これまで米国の物価上昇率が上方修正されてきた一方で、中国の物価上昇率が下方修正されるなど、方向性の違いがある。この中で重要な点は、高めの物価上昇率が、今後の世界を見通す上での前提になることだ。

 

高めの物価上昇率ということは、例えば、実質的な購買力の回復が遅れるリスクがあることを示唆する。コロナ禍後の物価高騰が日常生活の大きな打撃となり、各国の政権交代などにつながる一因になってきた。そうした不安定な状況が今後も続く可能性がある。また、物価上昇率が高めであるため、政策金利も一定の水準で維持される公算が大きい。コロナ禍前のような低金利の世界は、遠い過去の話になる。生活支援のための財政拡張的な姿勢が求められることは事実であるけれども、金利のある世界では責任ある財政運営も同時に求められる。世界経済は、そうした隘路(あいろ)を進むのだろう。

 

先行きの世界経済では、下振れリスクの方が大きい。例えば、関税政策の不確実性と保護主義政策の継続に加えて、移民政策の厳格化に伴う労働供給への悪影響、財政や金融市場の脆弱性とその相互連関、AIなど新しい技術の資産価格の評価、政府や中銀などの独立性の侵害、コモディティ価格の急上昇などが挙げられている。この中で、生成AIに関連するデータセンターなどの設備投資が2025年上半期の成長を下支えする一因となった一方で、2000~2001年のドットコムバブルの再来になりかねないことが懸念されている。生成AIによる社会の変化が期待外れになれば、その価格評価が下方修正されることで、バランスシート調整などを通じて企業は設備投資を、家計は資産効果を通じて個人消費を抑制し、一段の経済成長の鈍化を招きかねないためだ。また、コロナ禍の傷跡が残る低所得国などでは、先進国などからの援助の削減や移民規制強化に伴う出稼ぎ労働者からの送金の減少もあって、コモディティ価格の上昇が負担増になり、社会不安につながる恐れもある。

 

下振れリスクの方が大きく、世界経済を見通す目線が下がっている中でも、成長期待がまったくないわけではない。先行きに明るさが見え難い中でも、明るさがないわけではない。そうした部分を見出して、見合ったリスクを取っていけるかが試される世界になることを、今回の見通しは改めて示唆しているようだ。

 

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