躍進する中国のヒューマノイドロボット産業

2025年11月26日

住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部 アナリスト
伊佐 紫

 

 

 最近、中国のヒューマノイドロボットの話題をよく目にするようになりました。ヒューマノイドロボットとは、人間のような形をしたロボットのことですが、昨今の急速なAI技術の進展を背景に、生成AIを搭載し、より複雑な環境下でさまざまなタスクを実行できる汎用型ロボットが多数誕生しています。

 

 米国を凌ぐ勢いでヒューマノイドロボットを開発している中国では、将来的な労働者人口の減少や高齢者介護市場の拡大などを見込み、2014年頃から政府主導での開発が加速しました。ロボット開発は「新しい質の生産力」と位置づけられ、産業育成政策が強力に推進されています。近年では、ヒューマノイドロボットの製造に欠かせない精密部品産業の成長や、EV産業の発展に伴うサプライチェーン基盤が確立されつつあります。また、北京、上海などで政府系投資ファンドによる投資活動が活発化し、産官学連携でのスタートアップ育成が進み、ここ10年でUBTECH Robotics、Unitree Robotics、AGIBOTのような実力派スタートアップが多数誕生しました。

 

 ロボットの実用化も始まっています。例えば、一般的なヒューマノイドロボットの連続稼働時間は4時間程度ですが、ロボット自身が自動で電池を交換し、工場内で24時間稼働できる自律型ロボットや、子どもの大きさくらいの小型・軽量サイズで価格も数十万円と安価な家庭向けロボットなど、多様なロボットが登場しています。これらは用途別に、自動車工場の仕分け作業や物流倉庫の荷積み・荷下ろし作業、小売店舗の接客や教育用、家庭用などで導入されつつあります。

 

 中国ではすでにロボット製造に必要な部品のほとんどを国内調達できるようになっているといわれ、開発コストが低下し、量産体制が整いつつあります。また、ロボットの汎用性を高めるための学習施設が各地に開設され、量産化に向けて膨大なトレーニングが実施されています。ここで取得された学習データはオープンソースとして開発企業に提供され、産業全体の技術力が底上げされています。 一方、ロボットの販売から部品供給、アフターサービスまで提供する量販店が出現し、家庭向け消費市場の形成も始まっています。街中にはヒューマノイドロボットを導入した無人薬局が開設され、日々の暮らしの中に取り入れられています。今後、家庭向け市場への低価格化が進むことで、世界に先駆け一気に普及していくことも想定され、中国のヒューマノイドロボットの動きを注目してみていきます。

 

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。