2026年度の貿易を考える~日本貿易会の貿易見通しを踏まえて

2025年12月11日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之

2025年を振り返ると、米国の関税措置など貿易を巡る話題が多かった。2026年も米国の関税措置に加えて、重要鉱物の安定確保や供給網の再編など、貿易の重要性には変わりないだろう。

 

日本貿易会では1974年以降52年にわたって貿易見通しが作成されている(「2026年度わが国貿易収支、経常収支の見通し」、2025年12月10日)。この見通しの特徴は、社内外のヒアリングに基づいて、商品別の見通しを積み上げて作成されているところだ。

 

日本貿易会の見通しによると、2025年度の輸出額は109.4兆円、輸入額は110.9兆円へ増加すると見込まれている。輸出額は3年連続、輸入額は4年連続で100兆円の大台を超える計算だ。また、貿易収支は2025年度に▲1.4兆円の赤字にとどまるものの、2026年度に1.9兆円の黒字へ転嫁すると見通されている。貿易赤字は2022年度に過去最大の▲22.1兆円を記録してから、ようやく2026年度に2020年度以来6年ぶりの黒字を回復する。

 

輸出のうち、足元で下押し圧力を受けているのは、輸送用機器だろう。日本銀行「企業物価指数」によると、11月の乗用車(北米向け)の輸出物価指数(円ベース)は前年同月比▲13.0%と依然として二桁減であり、関税引き上げのコスト増を輸出元の日本企業が負担し続けている。現地の競争力維持のために価格を引き下げることで、結果的に輸出額も減少している。それに対して増加が目立つのは生成AI・半導体関連だ。半導体等電子部品など電気機械や半導体等製造装置を含む一般機械などの輸出額が増加しており、今後もその増加基調が続く見通しになっている。

 

また、注目されるのは、輸出数量がそれほど増えない見通しになっていることだ。輸出数量は2025年度に前年度比+0.0%と横ばい、2026年度に+0.8%と小幅に増加する。これまで国内の生産能力を調整してきたこともあり、輸出数量が大きく増える状況にはない。言い換えると、供給網の再編などによって日本からの輸出を増やすならば、相応の設備投資が必要になる。

 

それに対して、輸入数量は2025年度に+2.8%、2026年度に+1.5%と増加すると予想されている。日本経済の緩やかな成長が前提になっている上、輸入代替が進んでいるためだ。地域別に見ると、貿易戦争の中で、対米貿易黒字が注目されるものの、対EU貿易赤字や対中国赤字が拡大している点も重要だろう。コロナ禍前の2019年度と2024年度を比べると、対EU貿易赤字は約▲9200億円から▲2.5兆円、対中国赤字は▲3.2兆円から▲7.0兆円に拡大している。中国からの輸入というと、過剰生産物などのデフレ輸出が思い浮かぶものの、それ以外の商品の輸入も増加している。

 

貿易見通しを見て日本経済の先行きを考えると、経済安全保障という観点から医薬品や半導体、レアアースなど重要鉱物を確保しつつ、輸入を継続する部分と割高でも国内生産に切り替える部分を明らかにした上で実行に移しているのが2026年度以降の姿になっているのだろう。しかし、現在重要性を高めている分野は、割高や収益性の低さなどから、今まで手を付けていなかったところであることも事実だ。政府の経済対策では、これらの分野の支援も盛り込まれている。しかし、いつまでも補助金頼みでビジネスや産業が成り立つものでもない。これらの課題をどのように乗り越えていくのかが問われている。

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